どうする植物エキスの機能評価~日本アントシアニン研究会レポート~(2013.11.21)

会場写真

 16日、日本アントシアニン研究会(矢澤一良会長・東京海洋大学特任教授)の第3回研究会が東京コンファレンスセンター品川で開催され、健康食品業界関係者、関連研究者ら約150名が聴講に訪れた。アントシアニンを巡る基礎研究動向を押さえつつ、新機能性表示制度のスタートを見据え、ビルベリーエキスなど生薬的健康食品素材の機能を正しく評価するには何が必要なのかを問うのが今回のテーマ。「アントシアニンで苦労されている各企業を支援していきたい」と同会事務局では話している。(本紙編集部・石川太郎)

 (食品の機能性評価)モデル事業での評価結果は、学術の立場から見ると若干不本意」。会の冒頭、矢澤会長は研究会設立の背景にはこうした理由がひとつあると語った。昨年4月に結果報告された消費者庁による同事業では、アントシアニンを有効成分とする素材として唯一、ビルベリーエキスの眼精疲労改善作用などを評価。その結果、「根拠となる論文が少ない」などとされた。

 一方、今回の研究会では参加者全員に160ページ以上のボリュームのある会報誌が配布された。この中には、同会事務局が取りまとめたアントシアニンに関する臨床試験が伴う文献一覧が設けられており、その数は約60報にのぼる。また、同会ホームページ上の文献データベースでは、アントシアニンの視機能関連文献として、ヒト、動物など試験対象問わず45報が紹介されている。

 勿論、これらの文献の質が問われる必要はある。一方、アントシアニン全体で見ると、臨床研究の数は十分とは言えないものの、少ないとも言えない。ビルベリーエキスにしても、1965年の暗視野能力に関する研究を皮切りに、多くの論文が発表されているし、11年以降に新しい臨床報告が出てもいる。

 基礎研究の面でも進展がみられる。ポリフェノール研究で知られる津田孝範・中部大学応用生物学部准教授は今回の講演で、一般的にバイオアベイラビリティが低いと言われてきたアントシアニンだが、実はその代謝物が血中に多く認められるとともに、比較的長く血中にとどまるとする報告が今年出てきたことを紹介した。

 「(アントシアニンのバイオアベイラビリティは)従来0.1%程度とされてきたが、驚くべきことに、12.3%もあるとする論文が今年発表された。バイオアベイラビリティが低いのになぜ機能があるのかの説明として、体内でアントシアニンの化学的な分解や腸内細菌により生じた代謝物が血中に移行し、それがアントシアニン自身とともに機能している可能性のあることが分かってきた」という。

 今回の会の構成は、大きく2つに分かれていた。前半はアントシアニンを巡る主に基礎研究に関する報告が中心で、津田准教授のほかに、アントシアニンによる花色発現機構やフラボノイド類の合成研究なども行っている吉田久美・名古屋大学大学院教授、アスタキサンチンの眼精疲労改善研究で知られる大野重明・元北海道大学名誉教授が登壇した。

 この3名によるパネルディスカッションも行われ、自身の講演でカシスエキス摂取に伴う緑内障に対する有効性を紹介した大野氏は、眼科医の立場から、「(眼科医が)サプリメントを患者に勧めるのは一般的」だとし、「アントシアニンもそこに加わってもらいたい」とコメント。眼機能に対する有効性を示唆する最新の臨床データが不足しているとの認識を示しつつも期待感を隠さなかった。

 一方で、後半のテーマは健康食品の機能性表示。アントシアニンの話題に限定されない研究会であることが同会の特徴といえるが、ここではアントシアニンを含む植物エキスに限らず、ビタミン・ミネラルなど有効成分純度100%の素材とは異なる生薬的健康食品素材全般の機能性評価・表示のあり方について、課題提起するものだったといえる。

 その点が端的に表れていたのは、健康食品ご意見番の一人と言える合田幸之・国立医薬品食品衛生研究所薬品部長の登壇。生薬学や医薬品のレギュラトリーサイエンスを専門とする合田氏は、天然物を利用した健康食品の品質確保およびその現状について、自身が行った調査結果を踏まえながら考えを語った。

 「天然物の品質確保の第一歩は起源の正しい原材料を使用すること」だと合田氏。一方、05年~12年にかけて自身らが行った分析調査では、原料も含む11品目119製品中で起源の正しいものは79製品だったという。こうした間違いが起こる原因として同氏は、非意図的、すなわち事故と意図的なものの両方を挙げ、前者に関しては原材料採取の際の植物の誤同定および原材料受取りの際の誤同定があるとし、これらは「GAP(適正農業規範)農場で栽培された原材料を使用すれば解決する」と述べた。

 他方で、「原材料の起源は正しくても成分の同一性が保証されない場合がある」という問題もあると合田氏は指摘している。例えば、海外で医薬品として認められている天然物を含む医薬品と健康食品を比較すると、医薬品ではほぼ同一の成分組成を確認出来るのに対し、健康食品ではその「バラエティ(多様性)に驚かされる」。

 こうした課題を抱える天然物を利用した健康食品の機能性表示について、政府サイドではどう考えているのだろうか。

 この日、「動き出した機能性表示─最新情報─」のテーマにした基調講演で登壇しつつ、合田氏ほか梅垣敬三・国立健康・栄養研究所情報センター長らとのパネルディスカッションに加わった規制改革会議委員の森下竜一・大阪大学大学院教授は、天然由来成分・素材の機能性を評価する際に、科学的根拠が認められたものと同じ製法などでなければ機能性表示を共有できないのかという会場からの問いかけに対し、「私個人の考え」として、次のように答えている。

 「(ちゃんとした濃度で入っているならば)抽出方法がなんであれ同じ機能性成分だろうと思う。逆に、違うと言いたいのであれば、その方法でやったものは従来のものと違ったという臨床データが必要だろう。生薬(的な原料)はみな同じような話になってしまう。そこは申し訳ないと思うが、量が入っていれば同じ(成分)ということになると思う」。

 あくまでも森下氏個人の考えであり、実際にどうなるかは分からない。ただ、もしもこの流れで行くのであれば、合田氏の指摘する品質確保を巡る一連の課題が解消されていることが大前提になると言えそうだ。

 事務局によると、次回研究会は来年の今ごろの開催を予定しているという。その頃には、新機能性表示制度の具体的中身もおおよそ見えているだろう。ビルベリーエキスなどアントシアニンを含む生薬的健康食品素材で機能性表示するには何が必要か。また、表示と品質の整合性をどう担保していくか。引き続き活発な議論が期待される。

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