裾野工場の運用 遠回りも大きな成長 (2021.1.14)

オムニカ合体⑦

 成分分析・研究施設を併設する最新鋭の植物抽出物工場を静岡県裾野市に2019年竣工し、翌20年から本格的な運用を始めた研究開発型サプリメント原材料メーカーのオムニカ(静岡県裾野市)。国内サプリメント原材料(植物抽出物)市場のゲームチェンジャーとなる可能性を秘める同社の高尾久貴社長に、20年の取り組みを踏まえた21年以降の展望を語ってもらった。

 新型コロナウイルスが日本で広がり始めたのと同時期に、私たちは裾野工場の第2次技術開発期を迎えました。製造マニュアルの策定や工場の人員編成に関する基本設計などを行い、それを動かしながら生産を始めたのが第1次技術開発期。それに基づき、実際に負荷を掛けた状態で経営資源を投入しながら本格的な製造を行い、より高い次元で生産性を向上させようとしたのが第2次です。

 私たちは「抽出」ではなく「純化」と呼んでいるのですが、そのために工場に導入した最新鋭の産業装置の利用技術や運用技術をさらに改善し、より積極的に活用していこうということ。今期(2020年4月~21年3月期)の開始とほぼ同時期にそれに取り組み始めました。

 ただ、私たちは成分と装置の原理は十分理解しているものの、装置を使いこなすための多変量な実験データを容易に読解することはできません。ですから、第2次技術開発を進めるにあたっては、装置メーカーの技術者に頼らざるを得ない部分もあった。しかし4月7日に緊急事態宣言が出された後、人の動きやコミュニケーションが制限される格好になってしまいました。

 臨床試験で機能性などが評価されたのと同等の抽出物を量産するための製造基準や製造条件は、繰り返し行う実験から得られるデータを統合していくことで最適化されます。同等のものが偶然に出来上がるなんてことは決してありませんから、例えば、水分を蒸発させる時の適正な速度、その速度で蒸発させた時にその他の分子がどのような運動をするのか──などといったことを一つひとつ確認していく必要がある。だから実験を繰り返します。そして、各実験から得られたデータを踏まえ、製造条件などの改善を繰り返す。そのようにして最適化していきます。

 一方で、そうしたデータを適切に得るための手段は、外部の装置メーカーの技術者でないと分からない部分があります。しかし、コロナ禍で外部に頼れなくなった。そのため、その部分も含めて私たちだけで対応するという、遠回りをせざるを得ませんでした。遠回りをしますから、試験製造のために量産活動を中止し、また、実験のためのコストも莫大なものになった。非常にやきもきさせられた時期でした。

 ただ、悪い面ばかりではなかった。そのように遠回りした経験が、20年後半からの追い上げにとても役立ちました。どのように役立ったか。分かりやすいところで言えば、スキルの高い技術社員が増えた、歩留まりが画期的に改善した、製造時間をかなり厳密に制御できるようになった──などです。外部に頼らず、自分たちで考え、取り組まざるを得ないという経験が、いま振り返ると、会社全体の成長を加速させたように思います。コロナ禍だったからこそ、新しい特殊な景色が見えるようになった。2021年1~3月は第2次技術開発期の総仕上げに取り組みます。

天然物を工業品と同様に制御
 私たちは、工業製品と同じような制御を天然物に対して行うという目標を掲げています。裾野工場はそれを実現するためのプロジェクト。そのため、製造に関する基準や条件などの原則を変えることは出来ない。〝縛り〟がとても多いのです。今期の前半に苦しんだ理由もそこです。原則を変えない中で効率化を図ることはできますが、例えば、水の量や温度といった原則を変えると、臨床試験で機能性などが評価されたものと同等であるという絶対条件が満たされなくなってしまう。

 誤解を恐れず言えば、臨床試験が行われていないエキスを製造するのは簡単なのです。何とかの成分が何パーセント以上含まれるという最短距離を進めばいいですから。

 ただ、高度な加工により天然物の組成を変更することで、天然物そのものとしての安全性や有効性を異なるものに作り替えるのですから、わずかな製造手順や条件の違いで異なるものができてしまうのがエキスというもの。「だいたいこのような感じ」で製造すると、だいたい違うものができる。抽出物について、何とかの成分が何パーセント以上含まれるという縛りだけでは同等性を担保することにならない、と私たちが考えている理由はそこにあります。

 ですから、臨床試験で評価されたものと同等のエキスを製造するために、私たちには天然物のバラつきを抑え込む義務がある。工業品と同じような制御を天然物に対して行うというのはそういうことです。そのために膨大な数に上る製造・品質管理に関する事項を設け、その全てを守っていく必要がある。そのような縛りと、装置の能力を最大限引き出すための原理を掴み切れていない板挟みに苦しんだのが、今期の前半でした。

 そのなか、私たちも活用させてもらっている機能性表示食品制度について、20年4月に事後チェック指針の運用が始まりました。その中で、研究レビューにおける成分と届出食品中の機能性関与成分との同等性の担保が重要な課題として立ち上がってきたことは、私たちにとって励みになりました。
 私たちが製造・販売しているものは、例えばビルベリーエキスがそうですが、第三者が長年研究してきた延長線上にあります。だからこそ私たちは、同じ成分、エキスに関する研究を繰り返し行っている。第三者が長年研究してきた歴史を踏まえ、その上で改良を重ね、そしてより強いエビデンスを得ながら、安全性や有効性に関して一貫性があると確かに判断できるようになったものと同等のものを製造し、消費者に提供していくためです。同等であることを保証し、その保証を絶え間なく続けていくことで、私たちの産業が消費者から評価、再評価されていく。そうした循環が大きくなることで、産業としても大きくなっていくことを、私たちは強く歓迎しています。

付加価値のためではない
 私たちがやっていることは、付加価値のためでも希少価値のためでもない。抽出物の製造者としてベストなパフォーマンスを続けていれば、自動的に付いてくるものだと考えています。また、「良いものだから値段が高い」ということでもない。逆です。同じことを繰り返しながら、あらゆることを標準化していくという私たちのやり方は、実は最も低コストであることが判明しています。私たちのやっていることは、今はまだ、第三者からすると分かりにくく見えるのかもしれません。しかし最終的には最も合理的な経済活動であると考えています。

【写真=左:オムニカ裾野工場の一部内部。臨床試験で評価されたのと同等の植物抽出物を生産する 右:オムニカ高尾久貴代表取締役社長】


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