インバウンド消費に影 中国EC規制 影響表面化か(2019.3.7)


 1月1日から施行された中国の電子商務法が、日本のインバウンド需要に影響を与えているようだ。百貨店やドラッグストアの今年1月のインバウンド関連売上高は、昨年までの好調から一転して、減少に転じた。大量購入を担っていた代行購買業者(主に中国人)が、電子商務法により規制されたことが一因にあるようだ。

 ジェトロ(日本貿易振興機構)によると、昨年8月31日に可決・成立した電子商務法の適用対象は、①「電子商務経営者」(ネットを通じて商品販売・サービス提供を行う個人、法人、非法人組織など)②「電子商務プラットフォーム経営者」(サイト運営者)③「プラットフォーム内経営者」(サイトへの出店者)の3者で、これまでほとんど規制の無かった海外への代行購買業者(個人または業者が個人に委託)も、電子商務法によって①に含まれることになった。

 「電子商務経営者」には、法令の遵守義務、罰則規定、各種の輸出入手続きほか、行政の許可が必要となり、関係の課税もなされる。このため、日本などで商品を大量購入して、中国のネットで転売して利益をあげていた代行購買業者は、行政の許可が得られなかったり、転売価格の値上げで事業が成り立たなくなる可能性が指摘されている。

代行購入業者、転売が難しく?
 中国の電子商務法による日本のインバウンド需要への影響は出ているのか。日本百貨店協会が2月21日に発表した「2019年1月・外国人観光客の売上高・来店動向」によると、1月の免税総売上高は、前年同月比92.3%の約262億円と16年11月以来26カ月ぶりのマイナスに転じた。この統計は、百貨店のうち「インバウンド推進委員店」の93店舗を対象としており、購買顧客数は約42万人となっている。

 ちなみに2018年は米中貿易摩擦問題が浮上したが、それでも同年の免税総売上高は約3396億円と前年比25.8%増の高い伸びを示しており、海外購買客数も昨年12月時点で71カ月連続増を記録している。

 百貨店協会は1月の結果について、「年明けから免税品に対する規制強化が行われたこと等の影響で、訪日動機や購買意欲が抑制された」としている。「規制強化」は電子商務法のことで、前述の代行購買業者による転売目的の大量購入が減少したことが、1月の売上高減少に影響した可能性もある。

 百貨店と共にインバウンドの主軸を担うとされるドラッグストア(DgS)については、2月28日に市場調査会社トゥルーデータが、1月のインバウンド消費動向調査結果を発表している。同調査は全国DgSのPOSデータを基にしたもので、それによると、1月の1店舗あたりインバウンド購買件数は、前年同月比22.6%減と大幅なマイナスを記録した。

 同社では「電子商務法の施行で日本で購入した商品が転売しにくくなったことが影響していると考えられる」としている。

 ドラッグストア市場関係者は、電子商務法のインバウンド消費への影響について「去年の8月頃から影響が出ており、(転売目的の)在庫をはくために買い控えが起こった。しかし、それも12月には収まった様子だ」としており、「現時点では(電子商務法の)規制範囲がはっきりしない。4月が過ぎれば、インバウンド消費に対するもう少し正確な影響が見えてくるだろう」という。

影響は広がるか注視する必要性
 健康食品・サプリメント業界への影響はどうなのか。明確な影響は出ていないようだが、今年1月になって、インバウンドが弱含みで推移している状況はあるようだ。

 ある大手化粧品・サプリメントメーカーは、インバウンドについて「今年1月に入って伸び率が鈍化している。空港の手荷物検査の厳重化や電子商務法の影響で短期的には弱くなっている」としつつも、「近畿が微減で、それ以外は増加傾向で昨年と変わらない」という。

 別の大手化粧品・サプリメントメーカーは、今年のインバウンド関連の売上見通しについて、「インバウンドは前年比マイナス10億円、インバウンド・バイヤーは同マイナス40億円」と厳しい予想を立てており、その要因のひとつに電子商務法を挙げている。

 電子商務法は急拡大する個人ネット取引を規制するのが狙いといわれる。実際、中国ではSNS上で数百万人のフォロワーを抱えるとされるKOP(キーオピニオンリーダー)が、その影響力を使って、個人的に商品を仕入れて販売(転売)したり、スポンサーの提供で特定の商品を紹介することで、大きな収入を得ているという状況がある。

 その一方で、「中国ではテレビや雑誌、新聞などの広告宣伝効果は低く、SNSが圧倒的な効果を持つ」(中国越境ECに詳しい日本企業関係者)という事情もある。そのSNSで話題になることで人気を博し、売上を伸ばした日本商品も多い。電子商務法が、今後のインバウンド市場にさらなる影響を与えるのか。改めて注視する必要があろう。



Clip to Evernote

ページトップ