ナスは機能性野菜です (2020.9.10)

事業戦略インタビュー_ウェルナス_小山代表②

 ナス由来コリンエステル(アセチルコリン)を機能性関与成分にした機能性表示食品のサプリメントを先ごろ届け出たウェルナス(東京都港区)。なぜナス?なぜアセチルコリン?──業界でも一部で大きな注目を集めた届出だ。同社は信州大学発のベンチャー企業。自身も同大で博士号(農学=食品機能学)を修めた小山正浩社長に事業戦略を聞いた。現在34歳の若き研究者兼経営者である。

──そもそもナスに注目したのはなぜ?

 きっかけは中村先生(=中村浩蔵・信州大学農学部准教授、工学博士)の発見。ソバのスプラウトを乳酸菌で発酵させた漬け物のしぼり汁に、血圧降下作用があることをラットの試験で確認、それを私自身が飲んだら実際に効果があった。それにとても驚いて、どの物質が血圧を下げるのかを中村先生と一緒に研究しました。その結果見出したのがコリンエステル。経口摂取しても有効性はないと考えられてきた物質です。

 ソバスプラウトの発酵食品をビジネスにしようと考えました。ただ、そばスプラウトは生産量が少ない。発酵にも2週間ほど時間が必要。そこで、コリンエステルが含まれる他の発酵食品や、そもそも発酵せずにすむ食材はないかと探索しました。

 そのなかで出てきたのがナスビ(ナス)。他の野菜と比べて約3000倍も多くコリンエステルが含まれていた。ソバスプラウトの発酵食品よりも5倍近く多かった。ならばもうナスで決まりだと(笑)。2017年にウェルナスを立ち上げました。

──ウェルナスが届け出た機能性表示食品の機能性関与成分について。ナス由来というのが意外でした。ナスは嫌いな人も多い(笑)。それに、神経伝達物質のアセチルコリンが機能性関与成分になるのかと驚いた業界関係者も多かったと思います。

 そうですね。ただ、非神経性のアセチルコリンは、様々な生物に普遍的に含まれていると以前から報告されていました。それに、ナスは世界各国で食べられていますよね。日本ではおよそ1000年もの食経験のある野菜です。しかも、食品由来のアセチルコリンは安全性がとても高い。

 生体内に吸収されないのです。胃には、アセチルコリンの受容体がたくさんある。そこに結合して刺激を与えることで副交感神経の活動を高め、交感神経活動を抑える。そうした脳腸相関のようなメカニズムで神経活動のバランスを上手く整えている。このように、例えば、体内に吸収されるGABAとは全く異なる作用メカニズムで機能します。

──原材料販売も手掛けていますが、届出公開後に引き合いがあったのでは?

 ありました。ただ、ナスはとてもなじみ深い野菜ですけど、健康イメージはあまりない。だから、原材料販売を本格的に進めていくには、ナスは機能性野菜なのだということを一般消費者に伝え、その認知を高めておく必要があると思っています。そうでないと事業者も関心を示してくれません。

 そのために、まずは当社としてサプリメント(届け出た機能性表示食品=ウェルナスサプリ)を販売する。今、具体的に何がやれるのか悩みながら検討しているところですが、プロモーションも行っていく。そして消費者認知度を高める。その上で、どこか良いタイミングで原材料販売を本格化させたい。そのように考えています。だから今はまだ助走期間です。

 それに、原材料の製造技術をもっと改良し、大量生産できるようにする必要もあります。信州大学と共同研究開発を進めているところです。

──小山さんが事務局を務めている「機能性野菜ナスコンソーシアム」について教えて下さい。

 今回の機能性表示食品の届出につながった研究成果の背景には、農研機構生研支援センター革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)「新規機能性成分によるナス高付加価値化のための機能性表示食品開発」(研究代表:信州大学中村浩蔵准教授)があります。コンソーシアムは、その研究成果を社会に還元していくための研究会。いまのところ17機関が参画しています。

 ナス機能性表示食品の届出サポートや、ナス由来コリンエステルの定量分析の方法なども含めて、生鮮ナスやナス加工食品を機能性表示食品にするためのノウハウがある。そうしたノウハウを適切に活用していく目的で、コンソーシアムを立ち上げることになりました。

 私たちは今後、ナス由来コリンエステルの可能性を広げ、新しい機能性表示にもチャレンジします。コリンエステルには、様々な優れた機能性があると考えています。また、近く、生鮮野菜としてのナスも機能性表示食品になるでしょう。コンソーシアムの役割も大きくなっていくと思います。

──ウェルナスをどんな企業にしたいですか?

 私たちのビジョンは、「食を通じて実効的な健康を届ける」です。食品の機能性を研究してきましたから、食の機能の発現には個人の体質や生活習慣が大きく影響することが分かっています。ですから、最終的には、食が中心の個人最適化ヘルスケア事業を手掛けていきたい。そのソリューションの一つとしてナスがある。

 フードロスの問題もありますから、廃棄されることが多いナスを有効活用する私たちの事業には社会的意義がある。また、ナスは15年前と比べても生産量が半分程度にまでなってしまいました。そのため高知県をはじめとするナス農家の皆さんにも非常に期待されています。だから市場を広げて海外にも輸出していきたい。ただ、ナス由来コリンエステルだけで終わろうとは思っていません。

【写真=ウェルナス 小山正浩 代表取締役】


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