ケトジェンヌ問題 原因不明のまま幕 (2020.11.12)

ケトジェンヌ写真①

【写真=ケトジェンヌの商品パッケージ。販売会社は注意喚起情報を公表された当時、発売以来の販売実績は約6.5万件(2019年3月~同8月)に上るなどと説明していた】

 2019年9月、下痢の健康被害が急増しているなどと消費者庁が公表したことで騒ぎになったダイエットサプリメント『ケトジェンヌ』。その後の顛末──。

 ケトジェンヌを販売していたネット通販会社のTOLUTO(旧e・Cycle)はその後たび重なる行政処分を消費者庁から受けることになった。

 直近の行政処分は2020年10月23日。景品表示法に基づく課徴金の納付を命じられた。
 課徴金額はおよそ3000万円(2961万円)。課徴金対象期間は19年8月2日から20年1月末まで。消費者庁の調べに基づけば、TOLUTOはこの期間にケトジェンヌで約9.9億円を売り上げていたことになる。

 この課徴金納付命令の前段として、20年3月、景表法に基づく措置命令を受けた。自社ウェブサイトで行っていたケトジェンヌに関する表示が景表法違反(優良誤認)と認定された。合理的根拠なく同品を摂取するだけで容易に痩身効果を得られるかのように示す表示を行っていたと同社は断じた。

 それだけではない。措置命令に先立つ19年12月、特定商取引法に基づく業務停止命令も受けている。
 命じられた業務停止期間は19年12月から20年3月下旬までの3カ月間。同社で手掛ける通販業務のうち、販売商品の広告、売買契約の締結など一部業務の停止を命じられたもので、いわゆる「詐欺的な定期購入契約」を行っていたと認定された。同社の前代表者も同様に業務停止命令処分を受けた。

 TOLUTOに対する一連の行政処分。その源流には消費者庁が消費者安全法の規定に基づき実行した一般消費者に対する注意喚起がある。

 19年9月、ケトジェンヌを摂取した人からの健康被害報告が短期間のうちに急増しているなどとして商品名と販売社名を公表した。下痢など消化器障害に分類される健康被害の報告が多く、「水のような便が出る下痢」を訴える場合も確認されているなどとして消費者に注意を促した。

 この注意喚起は業界にもインパクトを与えた。健康被害との因果関係がはっきりしていないにもかかわらず商品名、販売会社名が公にされたためだ。

 同庁は注意喚起および商品名等の公表にあたり、下痢など健康被害を引き起こす成分などがケトジェンヌに含まれていないかどうか調べていない。というのも、被害拡大を防止するために被害情報を公表できるとする消費者安全法の注意喚起規定では、因果関係の特定までは求められないとされる。そのため、因果関係を特定できずとも推測できれば公表できる。消費者安全法が健康食品に適用されたのは初めてだった。

 同法に基づく被害情報の公表、注意喚起は行政処分とは異なる。だが、健康被害のリスクがあると名指しされた以上、それ相当の影響をTOLUTOに与えることになった。

 同社は注意喚起が行われた1カ月後、社名をe・CycleからTOLUTOに変更すると同時に代表取締役社長の交代を発表。「社内体制を一新することで、ガバナンス強化を図る」などとホームページを通じてコメントせざるを得なかった。

 ただ、TOLUTOは実際のところ問題を抱えていた。消費者に対する販売手法を巡る問題だ。だからこそ消費者庁から度重なる行政処分を受けることになった。

 一方で、販売手法に関する問題と、ケトジェンヌに懸けられた安全性を巡る嫌疑は次元がまったく異なる。しかも、ケトジェンヌは国内健康食品GMP工場で製造されていた。下痢などを訴える人が短期間のうちに急増した理由は一体何だったのか──。

 ケトジェンヌが下痢などを引き起こす原因を究明するための分析調査は複数の機関で実施された。

 まず、TOLUTOが第三者機関を通じて商品分析を実施した。同社がホームページで公表した分析結果によれば、下剤にも使用されるマグネシウムが検出されたものの、その含有量は100㌘あたり9㍉㌘と微量だった。そのため同社は、「本商品は適正・安全性を保持している」などとしてケトジェンヌの摂取で下痢が生じる可能性を否定した。

 また、分析結果は明らかにされていないが、ケトジェンヌを受託製造していた健康食品OEMメーカーでも独自に調査を行った。

 さらに、国民生活センターでも商品分析が行われた。幹部によると、「あらゆる分析を行った」という。しかし、最終的に原因を突き止めることはできなかった。

 そして、食品安全を担う厚生労働省である。
 消費者庁が注意喚起情報を公表した後、同省としても健康被害報告の把握に動き、19年9月、地方自治体に健康被害報告事例を上げるように依頼。その結果、医師から因果関係を否定されたものを除き23件が上げられた。主な症状は下痢、軟便、そして腹痛だった。

 ちなみに、同庁と国センが運用する「事故情報データバンク」に登録されたケトジェンヌに関する健康被害情報は、同庁の調べによると19年4月から同8月末までに計89件。同6月は6件だった一方で、7月33件、8月45件と短期間のうちに急増したことが注意喚起情報の公表につながった。

 厚労省に話を戻す。地方自治体から上げられたケトジェンヌを摂取した消費者の健康被害報告状況を踏まえ、19年11月、同庁は原因究明のための調査を国立医薬品食品衛生研究所に依頼。食品安全に関して日本を代表する研究機関で多角的な分析が行われることになった。そして、その最終結果は20年9月17日に明らかにされた。

 同日行われた薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会。厚労省食品基準審査課新開発食品保健対策室が配布資料で次のように説明している。

 「当該製品において、下痢等の健康被害を引き起こした原因物質は不明であり、その特定には至らなかった」

 「食品衛生法に基づく規定に直ちに違反するものではないと考えられることから、現時点において、具体的な措置は行わない」

 国立衛研による分析調査結果は別掲の通りであり、厚労省としてはこれ以上の調査を行わない方針。特商法に基づく業務停止命令、景表法に基づく措置命令および課徴金納付命令に至る源流であったケトジェンヌの安全性問題は、結局、「原因不明」のまま幕を閉じることになるとみられる。

 なお、同分科会委員を務める国立衛研の合田幸弘所長は、同日の分科会のなかで、健康食品による健康被害の原因究明の難しさを指摘。そして、以下のように述べた。

 「何か起きたときの、そのサンプルの保存を徹底し、そのものをすぐに確保していただくのがやはり一番大事。後から我々が手に入れ、しっかりとした分析を幅広くしようと思うと、ものの量が要る。最終的な結果は、いわゆる原因となったものと同じロットのものではない限り、なかなか判断できない」(議事録より一部抜粋省略)

 TOLUTOが現在もケトジェンヌを販売しているのかどうかははっきりしない。この点、消費者庁、厚労省に尋ねても、「当事会社に尋ねて欲しい」としてあまり多くを語らない。

 同社のホームページに記載のある問い合わせ専用ナビダイヤル。コールに応じるのは「現在使われていない」旨を伝える自動アナウンスのみだ。また、20年11月11日以降、同社のホームページは閉鎖されたとみられる。

 ただ、インターネット上では、ケトジェンヌが今でも販売されているのを見かけることができる。

 「未開封60粒入×6袋=1800円(税込み、送料込み)」──1袋300円である。そのような寂しい価格で「メルカリ」などのオークションサイトで取り引きされている。




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