新浪氏辞任の考察 法令と評価の狭間 「リスク」「ベネフィット」均衡を(2025.9.11)
サントリーHDの新浪剛史会長が違法な大麻成分を含むサプリメントの購入による麻薬取締法違反容疑で福岡県警に家宅捜索を受け9月1日付けで辞任した。新浪氏は違法性を強く否定しており、福岡県警も慎重に捜査中だという。事件は大きく報道されており、サントリーや新浪氏の評判はもとよりサプリメントやCBDのイメージにも影響を及ぼしかねない。詳細は今後明らかになり、最も重要な違法性の有無も決着がつくだろうが、これまでの情報を概観するに複数のボーダーラインが浮き上がり、結果として事件として顕在化、対応に影響を与えたように思える。
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一番目の境界は「CBD」と「THC」である。日本の麻薬取締法において前者は適法、後者は違法となる。同じ大麻由来成分でも天地の差がある訳だ。新浪氏もこのことは把握していたようだが、輸入品であればCBDをうたったサプリメントにTHCが混入している可能性は否定できない面もある。ラベルを信用し購入しても、分析の結果「THC」が検出されればアウト。この境界の危うさは高リスクと言わざるを得まい。
二番目は「日本」と「米国」の規制の違いである。日本において旧法名称が「大麻取締法」だった通り、大麻への規制はなお厳しく社会的な許容度も高くない。一方で米国では、連邦法の規制はあるが州法では大麻を認めるところもあり、トランプ政権は連邦法での解禁も検討しているようだ。問題となっている「THC」の量規制も日米では大きな差がある。新浪氏は米国ニューヨークのサロンでCBDを勧められ、摂取していたようだが、日米では規制と取締りが大幅に異なっており、「THC」が入っている製品は所持で危険。一触即発レベルだ。
三番目は「法令」と「評判」だ。秩序維持のラインとして法令があるが、現実社会には幅があり、法令とは別の角度で炎上。社会的に強い非難や怒りを集めることもある。いわゆる「レピュテーションリスク」だ。
典型的なのは日本マクドナルドが展開したキャラクターカード付のセットメニューの転売と食品の投棄だ。子供に喜んでもらおうと企画した案件が、買えないと多くのクレームを発生させた上、フードロスを引き起こしたと消費者庁からも注意されるはめになった。
新浪氏のケースもあくまで容疑であり「法令」ではまだ判断されていない。本人は違法性を強く否定している。しかし、サントリーは酒類・飲料の大手であり、サプリメントでは日本一の売り上げを誇るリーディングカンパニーである。そのトップがサプリメントの大麻成分案件で警察の捜査を受けたというのはいかにも印象が悪い。不買や敬遠を引き起こしかねない。「法令に抵触しないことは当然であり、サプリメントの購入に当たってはしかるべき注意を払うのが不可欠の資質と考えます」。正にサントリーHDのリリースが「法令」と「評判」の関係を示している。
四番目は「リスク」と「ベネフィット」。大麻成分という広義でとらえれば「THC」には幻覚や常習性など社会秩序を乱しかねない「リスク」があり、だからこそ警察が取り締まっている訳だ。社会一般にもこうしたイメージが定着しており、大麻は「リスク」の印象が前面に出てくる。
一方で「CBD」は医療で疼痛緩和、サプリメントではリラックス効果があり、社会に有用な価値をもたらす商材になりうる訳だ。この「ベネフィット」が社会に浸透しているとは言い難く、「CBD」という単語が出てきても多くの人は「?」という印象だろう。
一般人のレベルで「リスク」と「ベネフィット」の知識と印象の天秤が均衡に働かねば、問題が起こった際は叩かれるだけで擁護の声は聞かれないことになろう。
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今回の問題では「サプリメント全体のイメージが低下することが最も懸念される。昨年、業界は紅麹事件で風評被害と規制強化に直面したばかりで身構えるのは当然だ。
事件からしばらく経過したが、サプリメント自体にネガティブなイメージが拡散するには至っていない。
一方で市場形成中の「CBD」には一定のダメージとなろう。折しも団体を統一し新たなステージに入る矢先に思わぬ形で注目された。
ただ、先に触れた通り「CBD」が社会に有用な価値を提供できるのであれば、この件も乗り越えるはずだ。「THC」が含まれる製品の完全排除。ベネフィットのアピール。愛用者、理解者の輪を広げて社会認知を広げる。当たり前のことだが、これがポイントである。