原料市場はどこへ向かう 動くのは機能性表示素材(2015.1.8)

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認知度よりもエビデンス重視に

 食品の新たな機能性表示制度がいよいよスタートする2015年。健康食品原料市場はどのような動きを見せるのか。昨年までの動向を踏まえて予測してみたい。

一般食品への配合も活発に

 「今後売れそうな素材は何か」。取材の現場で事業者から逆に尋ねられることが例年多い質問だが、昨年はもっぱらこう答えていた。「機能性表示できそうな素材」──。

 至極つまらぬ答えである。専門紙記者として恥ずかしくも感じているのだが、仕方がない。業界全体が食品の新たな機能性表示制度に関心を寄せ、その対応に向けて程度の差こそあれ各社が動いている。機能性表示を行える素材は「動くに決まっている」と言っても過言ではない。

 2015年、あるいは今後数年の健康食品素材市場は、いわゆる「機能性表示素材」がけん引していくことになる。そうした素材は、健康食品やサプリメントはもとより、新制度の対象となる一般加工食品にも広がりを見せそうだ。

 健康食品素材の機能性に科学的根拠(エビデンス)が強く求められるようになって久しい。一方で同時に、その機能性を謳うことが許されない以上、最終製品販売会社は素材そのものの消費者認知度も求めざるを得なかった。

 今年春以降、その状況は変化していく。機能性を表示できるようになれば消費者認知度の必要性は薄まる。エビデンスはあるが認知度には欠ける。もしくは、特定の機能性は広く知られているがそれとは別の素晴らしい機能もある──そのような素材の中から大躍進を遂げる素材が複数出てくると見られる。

 一方、機能面の消費者認知度の高い定番素材であれ機能性表示への対応は求められる。機能性を謳っていなかったといえ、消費者は自分に必要な機能性があると信じ、それを期待して購入してきた。「なのに機能性表示していないのは何故か」。販売会社は、消費者からそんな疑問を投げかけられる状況は極力避けたいに違いない。

 勢い原料事業者各社は、新制度に対応するための機能性データ取得など研究投資を迫られ、価格ではなく機能性・品質・安全性に関するエビデンスで競合他社と勝負するという新たな競争局面を迎えることになる。

 とりわけ、科学界では価値が劣るとも見られてきた、人に対する機能性エビデンスがこれまで以上に強く要求され、費用もより掛かる臨床研究にどこまで対応できるかが勝負の分かれ道となりそうだ。

 他方、独自性の高い新規素材の市場投入がこれまでと比べると減少するという、少し寂しい市場環境となる可能性も高い。新制度に対応できるようなエビデンスを予め用意しておく素材開発には時間がかかる。海外から輸入される素材は別にしても、驚きと期待を持って市場に迎えられる新素材は当面出てこないかも知れない。

懸念は円安 価格上昇必至

 2015年以降の健康食品原料市場は、機能性表示制度に対して同心円を描くように動いていく。しかし懸念もある。その際たるものは円安だ。

 原料市場の拡大にも大きく期待できる健康食品の機能性表示の道を遂に拓いたのは「アベノミクス」だが、それは想定以上の円安局面と原料高を呼び込むことにもなった。さらに進行する懸念もあり、国内産業界全体が警戒感を強めている。

 消費増税の煽りを受け、消費者は健康食品に対する支出を抑えた。昨秋以降、少しずつ改善している気配はあるが、販売会社の状況は総じて苦しいだろう。だが、原料事業者にしても「赤字を出すわけにはいかない」のが実情だ。今後、多くの素材の販売価格が高まっていくことになる。

 その中で、機能性表示食品であれ拡販を図るには健康食品と同様、広告宣伝が求められる。機能性を表示できたからといってそれだけで大きく売れるというわけではない。その実例は特定保健用食品だ。消費者に浸透できたのは大規模な販促活動を展開した商品に事実上限られる。

 機能性表示に臨むとしても、販売会社は原料高と積極的な広告宣伝という双方に対処する必要がある。その中で求められる機能性表示素材は、価格は多少高くても、消費者の心に響く広告をつくれるものとなりそうだ。

 機能性表示食品の広告宣伝に、機能性関与成分のエビデンスを示す図表等を示すことが出来るのかは現時点では不透明だ。だが、仮に出来るとすれば、文献の著作権に触れず、それを堂々とできる素材が15年以降、大きく伸びていくのではないか。すなわち販売されている製品そのものとして臨床試験が実施され、機能性が確認されている素材である。

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