厳しい機能評価必要か SFSS山崎毅理事長に聞く(2015.8.20)

2面_Opnion_SFSS山崎理事長

 機能性表示食品制度に対して消費者団体は厳しい眼差しを向ける。科学的根拠を信条とする団体も同様だ。一方で、同じく科学的視座から食品のリスクコミュニケーションを捉え、情報発信していこうというNPO法人「食の安全と安心を科学する会(SFSS)」の山崎毅理事長(写真)は、医療費削減と国民の健康長寿に新制度が貢献できる可能性に着目する。「食品事業者は制度を忠実に活用し、たくさんの機能性表示食品を開発してもらいたい」と期待を寄せている。

食品機能は微弱が自然 論文1報でも効果期待

─機能性表示食品制度のどこを評価されているのでしょうか。

 「エビデンス情報が開示され、消費者は情報に自由にアクセスでき、これまで霧の中でまったく見えなかった健康食品の情報がはっきり見えるようになる。それがこの制度の最も素晴らしいところです」

 「これまでの健康食品は、エビデンスがあっても伝えられず、キャッチコピーや広告の力で販売されてきました。しかし情報が開示されていないため、消費者は、たとえば謳っている成分がわずかしか含まれないような粗悪品質の健康食品を見分けられなかった。機能性表示食品が増えていくことで、そうした粗悪な健康食品を駆逐していくことができます。できるだけ多くのいわゆる健康食品を、機能性表示食品にランクアップさせていくべきです」

─ただ、「ハードルが高すぎる」という声も多いのが現実です。

 「健康食品を販売されている方々の多くは、その商品に効果があると信じて販売されているのが実情と思います。いまのところ臨床論文などのエビデンスはないけれども、実際に『効いている』と言ってくれるお客様がたくさんおられるから効果があるはずだと。それはそれで間違いではないと思いますが、その上でさらに科学的エビデンスがあれば、より自信を持って売れるようになります。だからこそ中小企業であれ、多くの企業で機能性表示食品にチャレンジして欲しいと思っています」

 「効果の無いまがい物かもしれないが儲けてやろうと思って売っている方はそうはいないはずです。だから現時点でエビデンスがないというのは、単に臨床試験をしていないだけであって、もし臨床試験をしっかり行い、ある程度のエビデンスが得られれば、機能性表示食品としての販売ができます。効果があるとお客様が言ってくれていて、商品に自信を持たれているならば、そうすべきではありませんか?」

─そうはいっても臨床試験には相当の費用が必要です。

 「たしかに、臨床試験はギャンブルの側面があります。しかし、それを怖がってこれまで通りキャッチコピーだけで上手く売っていきましょうというのでは、いつまでも『健康食品はいかがわしい』という世間の目を拭えません。『我が社にはこういうデータがあるからこの表示や広告をする』と堂々と情報を開示し、消費者はそれを見た上で購入するかどうかを最終的に判断する、というのがまっとうな姿であって、そういう方向に業界全体で進んでいくべきです。すでに消費者庁に届け出が受理されている機能性表示食品のエビデンスが研究レビューによるものであれば、臨床試験なしで同等の機能性表示食品の開発が可能ですから、その意味での臨床試験コストはゼロです」

─臨床試験を行い、エビデンスを取得して届け出たとしても、「エビデンスが弱い」との厳しい指摘を受けるという現実もあります。

 「いまは開示された情報に対する指摘ばかりが多く、あたかも機能性表示食品が悪いものかのようになっていますが、現実はまったく逆でしょう。本来、指摘されるべきは情報開示を全くしていない〝いわゆる健康食品〟のはずです」

 「開示された情報を見て、『効果がない』とのご指摘があるようです。また、たとえトクホの臨床試験データだったとしても効果が疑わしいと言われることすらあります。そうはいっても食品素材なのです。医薬品のようなキレがないのは当然で、臨床試験で有意差が出ているにもかかわらず、『効果が弱い』などと指摘されれば、食品企業はなにも反論できません。なぜなら食品とはそういうものなのですから」

─食品の機能性評価は「寛容に」とも主張されています。どういう意味ですか?

 「食品の安全性や機能性を語る際、その食品成分が生体に対しどのような影響を与えるかを考えるというのは純粋に科学であって、そこに科学的真実は一つしかありません。ただし、あくまでも天然物である食品成分が、人に対して明瞭な生体調節機能や毒性を発現できるかどうかについては、答えが一つとは限りません」

 「例えば、食品成分を受け入れる人の生体の状況によって機能性や毒性の発現結果は異なります。他の食品成分が作用を助長したり、逆に阻害したりする可能性もあり、やはり答えは一つではない。つまり、食品における科学的真実とは、試験結果などによるエビデンスから導き出されるものなのですが、そのエビデンスをもとに人に対する機能性や安全性をどう解釈するかについての答えには幅があるということです」

 「食品の機能性を評価するとき、臨床試験データが一つもないというのでは科学的真実をもとに機能性を導き出すことができません。一方、データが三つあればエビデンスの質はあがりますが、一つではダメだということにもなりません。無論、三つあるに越したことはありませんが、一つだとしても少なくとも関与成分の用量設定の科学的根拠にはなる。臨床データが一つもないというのは、その用量設定の科学的根拠がないということです。『その量をどうやって決めたのか』と指摘された時に何も答えられません」

─確かにそうですね。

 「消費者庁が今回、臨床試験による査読付き論文が最低1報必要だと線引きしたことは評価できます。1報では少なすぎる、最低3報は必要だと主張される方もいらっしゃいますが、それではせっかく臨床エビデンスが1報ある食品が脱落してしまい、消費者が機能性表示をもって選択できないことになります」

 「これまで臨床エビデンスがなく広告の力だけで販売されていた健康食品が、どうにか臨床データが一つでも取れて、機能性表示食品に格上げされるなら、科学的真実に基づく機能性の発現がその食品で期待できるという点で、消費者にとっても非常に有意義なことだと思います」

 「私は、トクホがそれ自体の効果が微弱とはいえ国民の健康志向を促した点を高く評価しています。トクホの利用とともにちょっとウォーキングを始めてみたり、食生活を少し変えるよう努力してみたりという方も少なくないはずです。その意味では、トクホをきっかけとして、トータルで国民の健康にとって良い方向に向かっていったと言えるわけで、機能性表示食品も同様、これが増えることで、医療費削減につながる可能性は大きく広がる期待がもてます。そうしたことは国が国民に直接PRしてもなかなかできていない。だからこそ機能性表示食品の機能性評価は〝寛容〟にしてこれを増やそうと強調しています」

情報開示の動き止めるな ネットで名指しは風評にも

─寛容で構わないと考えている方は少ないのではありませんか?

 「厳しい指摘が必要だという傾向は確かに強く、一部の識者でも、『効果がないのに効果があるかのように販売されるのが一番の問題だ』と考えているようです。いまはその方向に流れていますよね。しかし、それで健康食品市場が健全化するのでしょうか。そうした厳しい指摘が、商品情報を開示していこうという企業の勇気ある行動を潰してしまっている可能性があります」

 「消費者団体からのご指摘は、科学的には間違っていないと思います。ただ、インターネット上で、名指しで批判するというやり方は、企業に対する風評被害を生む可能性があります。特に安全性に関するご指摘は、確かに理論上はそうとも言えなくはない一方で、物的証拠なしに『安全性に問題がある』などと飛躍した指摘になっている場合もあるようです。インターネット上では不特定多数の消費者に対して影響力があるのですから、慎重にすべきではないでしょうか」

─どのようにするべきでしょうか。

 「消費者団体市民団体などによるご指摘自体は、ガイドラインに遵守しているかどうかのチェック機構として必要だと思います。ただ、そのやり方は十分に慎重であるべきで、食品機能性の科学的真実は非常に微妙かつ曖昧なところにあるのですから、そこのエビデンスに対する指摘は寛容にとどめてほしいところです。その指摘に応えられるよう企業は努力すればよいわけですし、それにも増して重要なのは、GMPなど製造管理・品質管理がしっかりなされた商品を消費者に提供していくこと。そうした安全性の確保にこそより厳しい態度で臨む必要があると思います」

(聞き手=本紙記者・石川太郎。8月17日東京大学農学部キャンパスにて)

【やまさき・たけし】1960年生まれ。獣医師、獣医学博士、食品コンサルタント。東京大学農学部卒業。85年湧永製薬中央研究所研究員、90年米ロマリンダ大学客員研究員、94年ワクナガ・オブ・アメリカ社インターナショナルR&Dマネージャー、03年湧永製薬学術部課長をなど経て2011年NPO食の安全と安心を科学する会を創立、理事長就任。専門分野はリスク分析▽リスクコミュニケーション▽社会心理学▽獣医学▽薬理学▽毒性学▽疫学▽機能性食品の安全性・機能性評価

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