業界成長へ 制度施行2年目 健食の切り替え加速(2016.4.7)


 昨年4月に施行された機能性表示食品制度が2年目を迎えた。昨年度末までの届出受理総数(情報公開ベース)は300品目に届かず。だが、受理ペースがさらに早まれば、今年度末までに1000品目の大台が見えてくる可能性がある。改善すべき課題は多いものの、健康食品業界全体で届出に向けた意欲も高まりをみせている。制度施行1年を振り返りつつ2年目を展望する。

求められるサプリの機能表示

 3月31日までの届出受理総数275品目を食品分類別にみると、「サプリメント」133品目(うち届出自主撤回2品目)、「その他加工食品」139品目、「生鮮食品」3品目。その他加工食が、届出最多が続いていたサプリを追い抜く形で制度施行初年度を終えた。

 研究レビューによる機能性の科学的根拠評価も可とする制度の仕組みが届出の動きを予想以上に加速させた。またそれは、風味違いなどで商品バリエーションを増やしやすい、その他加工食の方でより有利に働いたとみられる。

 ただ、いわゆる健康食品について、機能性表示食品制度の施行で「科学的根拠のない製品群が市場から淘汰されることを強く期待したい」(2014年12月9日付食品表示基準の制定に係る答申)としていた消費者委員会は現状をどう見るか。サプリを中心とするいわゆる健康食品が機能性表示食品に移行していく勢い以上に、いわば「普通の食品」で機能性表示が進む事態は予想外だったかも知れない。

 この1年で最も多く届け出られた機能性関与成分は、難消化性デキストリンの31品目だった。特定保健用食品の関与成分としても高い実績を誇る成分であり、31品目すべてが清涼飲料水などその他加工食として届け出られた。制度施行前から一部で予測されてもいたことだが、「トクホの『世界』が機能性表示食品に移る」に過ぎない状況が現実に生まれつつある。

 食品の新たな機能性表示制度の創設に絡み、13年6月に閣議決定された日本再興戦略のうち「食の有する健康増進機能の活用」を鑑みれば、健康増進機能を有する多くの加工食品が機能性表示食品となることが望まれる。

 一方、この制度の基本的な考え方の根底にある、「消費者の誤認を招かない、自主的かつ合理的な商品選択に資する表示制度」と照らせば、求められるのは加工食の機能性表示ではないだろう。機能性を直接的に訴求できないが故に消費者に誤認を与えがちな、いわゆる健康食品の機能性表示食品への移行である。

 サプリよりもその他加工食品の方で届出件数が多い背景には、機能性関与成分が明確でないものは制度の対象外とされていることもある。健康食品市場の多くを占めるのはそうした素材を配合した商品だからだ。消費者庁が現在進めている「機能性関与成分検討会」にて今後の取り扱い方が議論されている。何らかの適切な方法で対象化しない限り、消費者委員会が強く期待する「科学的根拠のない製品群が市場から淘汰」される動きが進むこともない。

業界驚かす表示もっと

 制度施行初年度に多く届け出られた表示しようとする機能性を見ても、「食後の血中中性脂肪や血糖値の上昇をおだやかにする」(難消化性デキストリン)など、トクホで許可実績のある表示がやはり多かった。

 しかし、数は多いとは言えない一方で、「注目された」という意味で目立ったのは、トクホでも許可実績のない機能性表示だ。「目」や「肌」から「関節軟骨」「筋肉」「疲労感」「睡眠」「ストレス」「認知機能」まで、困難だとも制度施行前には見られていた領域に対する機能訴求も含め、魅力的な表示がいくつも登場した。

 業界をとりわけ驚かせたのは、表示しようとする機能性に「認知機能」を採り入れたものだった。機能性関与成分としては現在までにイチョウ葉エキス(フラボノイド配糖体、テルペンラクトン)とDHAの2成分が届け出られており、表示内容は、「認知機能の一部である記憶力(日常生活で生じる行動や判断を記憶し、思い出す力)を維持する機能があることが報告されています」(イチョウ葉、届出者・小林製薬)などである。

 また、この1年で受理された機能性表示を見ると、この制度では、科学的根拠に基づき、機能性をかなり具体的に表示できるという特徴も浮き彫りにされた。

 届出総数が延べ28品目と数が多い「アイケア」に関する機能性表示を見ると、「眼の疲労感を改善する」(ビルベリー由来アントシアニン、同リフレ)、「正常な目のピント調節機能を維持する」(アスタキサンチン、同富士化学工業)、「コントラスト感度の改善やブルーライトなどの光刺激からの保護により、眼の調子を整える」(ルテイン・ゼアキサンチン、同アサヒフードアンドヘルスケア)などとあり、単に「目の健康」などと訴求するざっくりとした機能表示はほとんど見当たらない。逆に言えば、ざっくりとした表示は難しい面があるのもこの制度の特徴だ。

 一方で、表示しようとする機能性を巡る混乱も起きた。

 特に問題だと思われるのは、認められない表現とされている「健康の維持及び増進の範囲を超えた、意図的な健康の増強を標ぼうするものと認められる表現」に該当するか否かを巡り、届出者と消費者庁の間に見解の相違がある場合だ。特に「肌」に対する機能性表示で頻繁に起きていると推測される事態だが、こと表示しようとする機能性に関しては制度主旨に反し、国による「許認可制」の色合いを強く帯びている。

 また消費者庁は、制度施行6カ月が経過した昨年10月を超えたあたりで「不適切な表示例」なる一覧を業界団体主催セミナーなどで提示し始めた。届出ガイドラインで例示されている、「糖尿病の人に」「肉体改善」などといった認められない表現例の拡大版とも受け取れるもので、一部業界からは「言葉狩りだ」との痛烈な批判も呼んだ。さらに、受理実績のある機能性表示と同じ表示でもなぜか受理しないケースも見られ、制度施行初年度の後半は、「恣意的」との批判も避けられそうにない消費者庁による制度運用が目立った。

〝審査〟限界 適切な関与を

 機能性表示食品とは、事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示する食品である。しかし現状では、消費者庁による実質上の「審査」を受けた上で機能性を表示する食品という側面も否定できない。であれば、受理した商品や表示の責任を事業者任せばかりにもできない。消費者庁はいま、そんな自縄自縛に陥ってしまっているようにも見える。

 制度施行2年目の今年、届出の動きはさらに加速しそうだ。そもそも届出書類の提出件数は昨年度末までに600件を超えていた可能性があり、実に300件以上の書類が受理されぬまま、届出者と消費者庁の間を行ったり来たりしていると見られる。消費者庁が届出書類の「審査」をこのまま続けていれば、受理待ち書類が山のように積み上がり続けていく。

 インターネットを通じ、制度運用初期の段階から消費者団体が届出情報に対する疑義を大声で主張したのは、消費者庁にとっても痛かったのだろう。慎重にならざるを得ない事情も分からないでもないが、制度主旨に反して届出情報を審査する限界を認め、書類確認のあり方の軌道修正が求められる。

 この1年を通じて明確に分かったことがある。機能性表示食品制度は、中小企業も大いに活用できる制度であるということだ。昨年後半以降はそうした企業による届出も目立った。独自に研究レビューなどを行うのは難しいのだとしても、やはり中小規模企業が多いが、届出支援を積極的に進めている原料事業者は少なくない。また、届出総数28品目で届出件数トップの東洋新薬は、言うまでもなく受託製造企業である。自ら届出を進めているのは、多くの販売会社にスピーディーに、機能性表示食品の販売を開始してもらうためだ。

 制度施行初年度を終えた現在、いわゆる健康食品から機能性表示食品への切り替えは「待ったなし」との認識が業界に広がりつつあるように見える。制度施行2年度目の今年は、原料事業者や受託製造企業の支援を受けながら、中小企業による届出の勢いを増すに違いない。

 届出情報全般の「質」の向上など業界が自ら改善していくべき課題は多いが、消費者庁は、届出書類に対する過度な関与によってこの勢いを削いではならない。健康食品市場に機能性表示食品を増やすことは、健康食品やサプリメントの情報を消費者に適切に伝えていくための唯一の道だと考えられる。

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