消費者庁検証事業 SR質評価、不備指摘多く(2016.7.21)


 消費者庁が機能性表示食品制度について昨年度実施した調査・検証事業の結果が出揃いつつある。制度に関する消費者意向調査については先月30日にあった機能性関与成分検討会第6回会合の配布資料の中で、より詳しい結果が示された。届け出られた研究レビュー検証事業の結果は「報告書」として詳細が7日に公表。残すは、商品買い上げのうえで含有量分析などを行った、機能性関与成分に関する検証事業のみとなっている。

チェックリストに拡張版

 「『機能性表示食品』制度における機能性に関する科学的根拠の検証─届け出られた研究レビューの質に関する検証事業」。7日に消費者庁が公表した報告書は50ページを超える分厚いものだった。公表されたのは報告書全文のほか、ダイジェスト版(和文・英文)の3文書。英文がさっそく公表されたうえ、さらに丁寧なことに「付録」として「適正な研究レビューの記述例」も付けられた。

 検証の目的について同報告書は、「機能性の根拠となる届出SR(研究レビュー)について科学的な評価を行い、平成28年度以降の本制度の適正な運用に向けた課題の抽出、届出SRの質を高める方策等の検討を行う」などと説明する。

 そのため、採用文献の内容を精査したり、安全性や機能性の有無を検証したりまでは踏み込んでおらず、報告書にしても、評価結果を届出個別に開示し、その課題をあげつらうようなものではない。ただ、全体的な評価結果は、業界としても満足できるものでは無かったといえる。

 報告書によると、実施したのは①研究レビューで準拠が求められているPRISMA声明チェックリストに基づく検証②届出SRに特有の報告方法の質の検証──の大きく二つ。②については検索▽エビデンス総体の評価▽メタアナリシスの手順・記述などの適正性の検証のほか、レビュワーの特性▽ハンドサーチの実施▽疾病罹患者データ採用の有無など、かなり細かい検証が行われた。

 また①については、27の大項目で構成される同チェックリストに対し、下位項目を付加して計45項目を設定した「機能性表示食品のための拡張版」をワーキンググループが独自に作成。例えば、大項目「目的」では、下位項目として「アウトカムの記述」「参加者の記述」「介入の記述」などが追加されている。これに基づき評価が行われた。

 ①の評価結果は別掲図の通り。このうち、報告書では不備率81.3%と割合が高かった「エビデンスの要約」について、「結果で記述した内容を繰り返すだけ」のものが多かったと指摘。また、不備率56.9%の「バイアス・リスク」については、「評価方法が不明瞭なために、評価の適正性に疑問が生じる届出SRが存在した」とする。

 バイアス・リスクに関しては②でも検証された。「個々の論文のバイアス・リスク評価の適正性の検証」を行ったところ、その評価方法が十分に記載されている届出SRは25.5%にとどまったといい、「十分な記述がなければ、第三者が届出SRを再現できないことに加え、得られた結果を客観的に判断することもできない」と指摘する。

 また②では、文献検索を行う際に採用された「検索式(検索戦略)の検証」も行われた。評価結果は5点満点で平均3.8点。ベースラインの3点は超えた一方、報告書は「個々の届出SRの評価点にばらつきがみられた」としつつ、「検索キーワードが不足している届出SRや、検索対象年やアウトカム等で不必要に絞り込みを行い、検索式を正しく記述していない届出SRもあった」として、網羅的な文献検索が行われていない可能性に言及している。

 さらに報告書では、研究レビューの実施計画を、UMIN‐CTRなどに事前登録するよう提案。「不明瞭な記述事項が存在すること、又は後付け的に解析手法を決めているSRを存在する可能性を考慮」すると事前登録が求められるといい、それにより、「出版バイアスの回避、透明性の確保、さらに届出SR自体の質の向上に繋がる」と言う。

 レビュー計画の事前登録について届出ガイドラインでは「必須とはしない」。ただ、努力規定ではあり、「出来るだけ事前登録を行い、新たな知見を含めた検討を定期的に実施、公表していくよう努める」とされている。報告書によると、事前登録されたのは2編のみだった。

付録、届出SR規範?

 検証事業の目的には、検証結果に基づき「届出SRの質を高める提案をする」こともあった。そのため、報告書には「『PRISMA声明チェックリスト 機能性表示食品のための拡張版』に基づく適正な研究レビューの記述例」が付けられた。これは「付録」だという。

 この付録について報告書は、「学術研究におけるシステマティック・レビューのようなハイレベルを極めるということでなく、食品であるがゆえの難しさもしんしゃくしたベーシック・スタンダードレベル」だと表現。内容は、同拡張版に基づき研究レビューの記述方法を具体的に例示・提案するもので、「SRの総論・各論に不安や疑問を抱いている届出者にとって役立つ」とその利用価値の高さに自信を隠さない。

 そもそも機能性表示食品の研究レビューに、学術研究としてのSRと「同等の質を求めることは無理がある」、また「医薬品と異なり、食品であるがゆえに、その有効性の度合いも相対的に小さく、科学的に白黒を厳しく判定するSRは馴染まない」──報告書にはこうした意見が実際にある事実を明記している。

 その一方で報告書は、「SRはその方法論がほぼ確立されており、実施すべき手順も整っている」と指摘。そのため「恣意的な解釈や手順の省略が横行すれば、『届出者にとって都合のよい書きぶりの、無数のタイプのSRが作成される』という本末転倒な結果を招きかねない」とし、報告書で示した考え方や報告の方法は、SRと称するならば「この程度の計画・実施・記述が必要ではないか」というレベルだとする。

 制度設計が議論されている当時、「研究レビュー」という名称は用いられていなかった。昨年3月公表の旧届出ガイドラインの中に突然現れた経緯がある。一方、現行届出ガイドラインにも「SRの実施手順に係る考え方」が示されている。ただ、これもあくまで「例」だとされている。

 その中で検証事業の成果物として出てきた、SRについて「食品ゆえの難しさもしんしゃくしたベーシック・スタンダードレベル」を示したという報告書の付録。これについて消費者庁食品表示企画課は機能性関与成分検討会第5回会合の中で、「きちっと周知を図っていきたい」などと述べている。今後、届出ガイドラインを補強する留意事項などとして活用していく可能性が考えられる。

 また、WGの委員長を務めた上岡洋晴・東京農業大学教授は、報告書の公表前に行った講演の中で、検証事業に係ったことは秘匿しつつ、付録について、研究レビューの記述方法に関する「指南書」だとコメント。それをまとめた当人である同教授は今後、主要研究者として関わる民間研究「FFC‐SR2」において、報告書公表後に研究レビューの質が高まるかどうかを明らかにしたいと言う。

関与成分検証の結果は

 一方、研究レビューの検証事業にも増して結果が注目されているのが、機能性関与成分の含有量を分析するなどした「機能性関与成分に関する検証事業」だ。機能性関与成分検討会第5回会合の配布資料の中で結果概要が一部公表され、消費者庁は、「一部について問題が見つかった」などとしている。

 同庁によると、同事業の目的は、「届出資料として添付されている機能性関与成分の分析方法の問題点等を整理」するとともに、「機能性関与成分の分析方法に係る届出資料の質の向上」と「より適切な事後監視を行うために必要な基礎資料を得る」。検証対象としたのは、昨年9月末までに届出された機能性表示食品146件、機能性関与成分としては164成分だった。

 消費者庁では同事業の委託先を現時点では明らかにしていない。一方、業界関係者の推測としては、健康食品の分析で実績のある国立医薬品食品衛生研究所を有力視する見方がある。

 検証事項としては、届出書類に記載された分析方法で機能性関与成分を定性的に同定できるかを検証する定性確認と、届出された分析法で第三者が実際に分析できるかなどを検証する定量確認の二つ。消費者庁によれば、検証の結果、定量確認については「そのまま分析可能と考えられるもの」は103件(63%)と過半数を超えたものの、届出情報が不十分なため「第が論文/文献などを調べて分析する必要があるもの」が47件(29%)に上った。

 また、検証対象のうち17件(機能性関与成分としては6成分)については買上調査も実施。その結果、「機能性関与成分の含有量が表示値を下回っている、もしくは過剰に含まれている」ものが一部あったほか、「同一製品にもかかわらず2ロット間でのばらつきが大きい」などといった「品質管理上の問題点が見つかった」と言う。

 消費者庁は、分析法に関する届出情報が不十分な場合には今後、同庁として追加資料を求めるなどの「照会」を行う可能性を示唆している。また、今年1月に始まった機能性関与成分検討会は間もなく大詰めを迎える。報告書の中身は、検討委員の論決に直接的な影響を及ぼす可能性もありそうだ。

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