新潮トクホ記事 影響軽微 実名あげて批判も消費者冷静(2017.4.6)


 「週刊新潮」が2週連続(3月23日発売号、同30日発売号)で掲載した特定保健用食品(トクホ)の有効性をめぐる特集記事。販売会社の実名や商品写真を掲載しながら15商品がやり玉に挙げられた。ただ紙面に取り上げられた各社の反応はいたって冷静で、懸念されていた消費者からの問い合わせは僅かにとどまったもようだ。しかし記事が波紋を引き起こしたのは間違いない。消費者サイドからは、広告宣伝が効能に対する過度な期待を煽っているとして、記事内容を肯定するかのような見方も出ている。

「いつも通り説明」
 特集は「トクホの大嘘」と題したもの。以前から健康食品に対する否定的な見解を繰り返し発信していた群馬大学名誉教授の髙橋久仁子氏、千葉大学名誉教授の山本啓一氏、「科学ジャーナリスト」の植田武智氏らのコメントを引用しながら、許可されたトクホの根拠論文の試験手法やデータ内容に対し、「有効性はない」などとして極めて強い疑義を提示した。

 「なぜこの時期に掲載したのか」。業界関係者は新潮の掲載意図にも関心を寄せた。掲載時期がトクホの制度改正とほぼ重なったこともあり、憶測を呼んだ。

 記事が主として批判の矛先を向けたのは、トクホの中でも最大のシェアを握るとみられる関与成分の難消化性デキストリンだった。製造販売する松谷化学工業は、最初の特集掲載号が発売されるとすぐにホームページで遺憾の意を表明。新潮社の取材に「真摯に対応」したものの、「回答内容が掲載記事に反映されておらず、大変遺憾」だとした。

 同社が遺憾の意を表明した文書は、「難消化性デキストリンをご愛用いただいているお客様各位」と題したもの。同社の難デキはトクホ以外にもさまざまな食品に配合されており、機能性表示食品の機能性関与成分として多くの企業が届け出てもいる。ユーザー各社への影響を避けるためにも、ネガティブ報道に対して素早く対応する必要があった。

 同社は文書で、記事が有効性や客観性を否定した難デキの根拠論文について「いずれも複数の有識者の査読を受けた上で受理されたものであり、その信頼性には何ら問題ないものと考えている」などと反論。また、そもそもトクホは有効性や安全性について「国における厳密な審査を経て許可を受け、販売されているもの」だと指摘し、記事の客観性を疑問視した。

 一方、消費者は記事にどう反応したのか。2回目の特集掲載号が発売された翌日の3月31日、一連の記事に商品が取り上げられた10社の広報担当者などに消費者からの問い合わせ状況などについて聞き取りを行った。

 その結果、「何件か問い合わせがあったが、みな冷静な質問。従前からの説明をしており、その結果、ご理解を得ている」(サントリー食品インターナショナル)、「数件の問い合わせがあったが、健康・安全上、全く問題ない旨を説明している」(日清オイリオ)、「この件に関して問い合わせはない」(日本ケロッグ)などとしており消費者からの問い合わせは少なかった様子。消費者も冷静だったようだ。

 そのため、特段新たな消費者対応を講じる必要もなかったとみられ、「問い合わせはいくつかあるが、従前通りの説明をしている」(アサヒ飲料)、「いつも通りの説明をしている」(ヤクルト本社)、「従来通りの説明をしている」(キリンビバレッジ)との回答が多かった。

 また、記事に対して「特別に対応するということは考えていない」(日本コカ・コーラ)として、記事への反論などは行わない方針を示した企業が大半を占めた。

記事の背景 「効能の期待と実際に差」 消費者委・河上委員長が見解
 「購入時に消費者に与える期待度の大きさと、実際の効能との差が大きすぎるという問題意識が根底にあるのではないか」。消費者委員会の河上正二委員長は週刊新潮が掲載したトクホに関する特集記事について3月28日に行った会見でこう述べ、記事の背景には、トクホの広告宣伝が効能に対する消費者の期待感を過度に煽っていることがあるとの見方を示した。

 委員長はまた、「記事について勉強させていただく部分も多く、決して軽く見ているわけではない」とも述べ、記事内容を一部肯定するかのような反応を見せた。

 ただ、消費者庁がトクホの表示許可の是非を判断する背景根拠には、消費者委の専門部会・調査会に属す多くの有識者による、有効性と安全性に関する時間を掛けた厳密な審査の結果がある。

 記事は、消費者委による審査結果を無視し、一方的に有効性を否定する内容だったといえるものの、消費者委事務局は取材に「一つの意見。消費者委として一つずつ反論する考えはない」とコメント。また「議論があるのはいいこと」だと理解を示した。

「新たな知見に当たらない」 消費者庁長官
 トクホ制度を所管する消費者庁の岡村和美長官は3月29日に会見を行い、週刊新潮の特集記事について、記事内容は「新たな知見」には当たらないとの見解を示した。ただ「本日現在」の考えだと断ってもおり、見解が今後変わり得る可能性に含みを残した。

 同庁はトクホ制度に関して先月17日に内閣府令の一部改正を行い、許可取得事業者は有効性や安全性などに影響を及ぼすおそれのある「新たな知見」を入手した場合、30日以内に同庁へ報告しなければならない義務規定を新たに設けている。

 この日の会見で長官は、「内容についてのコメントは、詳細にまで立ち入るつもりはない」などとした上で、「記事だけをもって消費者庁が日ごろから関心を寄せている『新たな知見』とまで言えるものではないと本日現在は考えている」と述べた。また、「単なる記事についての論評はこれまでも発表していないし、今回についても今の段階では何も考えていない」とした。

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