母乳中ビタミンD 極端に低い値が判明 (2017.5.11)


 ㈱明治・食機能科学研究所、㈱住化分析センター、女子栄養大学、東北大学のグループはこのほど、既存の測定技術を一部改変した最新の手法を用いて、日本人女性の母乳中ビタミンD含有量を調査した。その結果、母乳中のビタミンD含量が、従来報告されているより大幅に低いことが分かった。近年、ビタミンDの不足に起因すると思われる乳児のくる病の症例が報告されているが、母乳中のビタミンD含量についてはこれまで十分に把握されていなかった。同研究成果は5月19日から21日まで開催される日本栄養・食糧学会大会で報告される予定。

 今回の調査は、環境省の「子どもの健康と環境に関する全国調査」(エコチル調査)の追加調査として取り組まれたもの。エコチル調査自体は、10万人の母子(妊婦含む)を対象に、胎児・小児期の化学物質曝露と健康の関係について、2014年度から34年度まで20年間にわたりコホート調査を行う。予算規模は約900億円を予定している。

 明治・食機能科学研究所、㈱住化分析センター、女子栄養大学、東北大学らの研究グループは、産後に十分量の1カ月母乳が得られる44名(うち18名は産後7カ月母乳も採取)から母乳を採取し、ビタミンD成分の測定・分析を行った。

 その結果、産後1カ月母乳のうち73%、産後7カ月母乳のうち11%でビタミンD含量が5ナノ㌘/100㍉㍑を下回り、最大でも82ナノ㌘/100㍉㍑だった。

 厚生労働省が定める乳児の食事摂取基準におけるビタミンD目安量は5マイクロ㌘/日で、これを母乳で得るためには、母乳中にビタミンDが640ナノ㌘/100㍉㍑以上含まれる必要がある。今回の調査ではこの量を上回った母乳が皆無だっただけでなく、最大含量でも8分の1程度と極端に低い結果となった。

 ビタミンDは骨の形成など乳児の発育に欠かせない栄養成分で、日光曝露により皮膚で合成されるものと母乳などから摂取されるものがある。母乳のビタミンD含量は、母親が受けた日光量や食事(魚やキノコ類に多く含まれる)から摂取したビタミンDなどに影響されることが知られている。

 近年、ビタミンD不足に起因すると思われる乳児のくる病が報告されており、日本小児内分泌学会では、2013年11月に診断の手引きを策定している。それによると、乳児のビタミンD不足のリスクとして、日光曝露不足、母親のビタミンD不足、完全母乳栄養を挙げている。

 だが、母乳中のビタミンD含量は、従来の方法では正確に測定することが難しく、詳細な実態把握は十分ではなかった。

 今回の調査は、約5年かけて母乳採取、高精度な測定技術の改変、分析などに取り組んだ。調査結果を踏まえて研究グループでは、「今後は調査対象人数や地域をより増やして取り組む必要がある」(明治・食機能科学研究所・鈴木美記子氏)としている。

 厚労省では、乳児の食事摂取基準を策定するため、各種調査で得たデータをもとに母乳中の各栄養素の濃度をまとめており、これらも参考に摂取基準を策定している。

 だが、ビタミン類13種の中では、ビタミンDだけが参考となるような明確な値がなかった。同省では「現在、乳児のビタミンDの摂取を指導するようなことはやっていない」(健康局)としている。

 母乳中のビタミンD含量を高精度で測定する方法が開発されたことで、今後の実態解明に影響を与えそうだ。研究の強化も必要となる。

対策必至、ビタミンD不足
 明治・食機能科学研究所らの研究グループの調査により、母乳中ビタミンD含量が極端に少ないことが分かったことで、今後の日本人のビタミンD摂取のあり方に影響を与える可能性もある。

 今回の調査は対象者が44名と限られ、かつ乳児の日光曝露とビタミンD摂取の関係など、今後さらなる調査研究が必要な課題もあり、早急な判断は難しいが、大幅に低い測定結果が出たことは、仮に母親の食事摂取や乳児の日光暴露などの対策に取り組んだとしても、はたして目安量をクリアできるのか、難しい問題となりそうだ。

 厚労省の資料では、海外の研究として、ビタミンDを十分摂取するために、6カ月乳児で、着衣状態(帽子なし)で週2時間、おむつだけの状態で週30分の日光曝露が必要との例を紹介している。しかし、紫外線を忌避する風潮が強まるなか、そうした取り組みが定着するか流動的だ。

 また、母親のビタミンD不足解消についても、今回の測定結果から逆算すれば、魚やキノコ類などビタミンDを多く含む食材を長期間かつ相当量摂取する必要があると思われる。米国では母親が許容限度一杯のビタミンDを摂取しても、母乳中のビタミンDは低い値にとどまったとの研究報告例もあるという。

 さらに、母乳による育児は厚労省が推奨していることもあり、その比率は年々高まっているといわれる。この活動とビタミンD摂取をどう両立させるかも課題になりそうだ。

 一部では母乳育児であっても、補助的にビタミンDを多く含む育児ミルクの摂取を推奨する取り組みもあるという。

 生活習慣の変化により、高齢者だけでなく、乳児のビタミンD摂取もますます困難になりつつあるようだ。今回の調査結果を契機により突っ込んだ議論が求められよう。

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