トクホ審査 調査部会 体脂肪巡り新方針か (2018.3.22)


 トクホ(特定保健用食品)のヘルスクレームでお馴染みの「体脂肪が気になる方に」。機能性表示食品でもみられる表現だが、トクホの審査を行う消費者委員会の新開発食品調査部会でいま、その表現を巡り審査方針が変わりつつあるという。今後、より厳密に摂取対象者を示す表現が要求されそうだ。

「多めの方へ」修正求める
 9日、都内で開催された日本健康・栄養食品協会主催「トクホ講習会」。毎年行われているが、今回初めて消費者委の事務局担当官(参事官補佐官)が登壇。次のように述べた。

 「個人的見解として申し上げるが、今期の(新開発食品調査)部会における表示に関する審議方針が、これまでと変わりつつある。『体脂肪』訴求の製品を検討されている場合はご留意いただきたい。個人的な印象だが、この方針は今後も続くのではないか」
 詳しくは「議事録をお読みいただければ」という。

 改めて説明するまでもないが、消費者委の新開発食品調査部会(以下、部会)は、トクホの安全性を審査する食品安全委員会、機能性を審査する消費者委・新開発食品評価調査会の各判断を踏まえ、総合的に許可の是非を調査審議する機関。トクホはここで認められない限り許可されることも原則ない。

 担当官が目を通して欲しいと指定したのは、昨年12月21日開催の第43回部会の議事録だ。
 昨年9月に第5次消費者委員会が発足。それに伴い部会を構成する委員にも一部交代があり、科学ジャーナリストの松永和紀氏ら3識者が新たに加入。この日は新体制後初の会合だった。松永氏は、機能性表示食品の科学的根拠などに対する厳しい論評で知られる。

 消費者委のホームページで公開されている第43回部会の議事録によれば、部会規定に基づき非公開項目は伏字にされているが、体脂肪に対するヘルスクレームを申請したとみられる2品が継続審議、つまり、現状の申請内容のままでは許可できないと判断されたことが記されている。

 いずれも関与成分も茶カテキン、ヘルスクレームも同じ内容だったとみられる。
 委員の間で疑問視されたのは、まず、商品パッケージに表示のキャッチコピーだ。伏字にされているため推測するしかないが、おそらく、「脂肪の吸収を抑える」。店頭販売が考えられているのだろう、パッケージ正面に目立つ形で表示していたようだ。

 言うまでもなくキャッチコピーは申請したヘルスクレームから抜き書きしたものだが、ある委員(発言した委員の氏名も伏字)は、「断定的に表示されると、消費者にミスリードされるのではないか」と誤認を懸念。別の委員も「言い切れば言い切るほどより(医薬品的な)効能に近づく」とした上で、同様に消費者誤認の可能性があると指摘する。

 ただ、キャッチコピーはあくまでも任意表示。任意でも虚偽・誇大な内容は景品表示法や健康増進法で当然規制されるが、そうでなければ制度上問題にならない。

 実際、「エビデンスを基にみると、間違いはない」としてキャッチコピーに問題はないと反論する委員もいた。

 また、「こういうキャッチコピーはだめだとなると、既に許可しているものについても、同じような表現、意味として解釈できるものについての手当てまで考えた上で決めないといけなくなる」と指摘する委員も。

 言い切り型のキャッチコピーを認めてきた過去との整合性も踏まえ、虚偽・誇大とは言い難い任意表示に「ダメだ」と踏み込むことに躊躇した様子が窺える。

 そのためだろう、キャッチコピーに「何々が気になる方へ」と付記し、摂取対象者を示すことで誤認を防ぐ、といった折衷案で議論がまとまりかけた。

BMI低くても「気になる」
 ところが、そこにある委員が爆弾を落とす。
 「許可表示の『□□』(伏字)はそのまま認めるということか。ここは(キャッチコピーとは異なり)許可(が必要)なので(申請者に修正するよう)こちらから言えることだ」
 『□□』の中身を推測すると、前後の文脈などから考えられるのは「体脂肪が気になる方に」──。部会の前にヘルスクレームを審議した新開発食品評価調査会では「特に問題にならなかった」(別の委員)と言うから、審議を振り出しに戻す発言が飛び出た格好だ。

 この発言をした委員は、同2商品の審議の前半で、根拠論文について「BMIが25~30の被験者を対象に試験をして効果ありという結果が出ている。(中略)BMI25~30は肥満」だとし、それ以下の人への効果は「確認できていないといっていい」との意見を述べていた。

 また、機能性表示食品の広告表示をめぐる昨年11月の景品表示法違反事例を引き合いに出し、「BMIが25~30(の人を被験者にした)結果しかないのに誰でも効くという広告をしているから違反であるという判断」が下されたと指摘した上で、『□□』についてこう主張した。

 「主観的な表現。BMIが低い人でも気になる人は気になる。ここの文言をもってBMIが高目の人がこれを飲みなさいと読み取るのは、多分消費者には無理。(中略)これは限定されていますよということをきちんと伝えるような表示に書きかえていただくべきではないか」
 さらに、こうも述べた。

 「景表法の規制が確実に厳しくなっている。BMI25以上のものはBMIが高目の方にとちゃん明確にして表示しなさいという流れになっている。トクホが今まで前例として全部『気になる方』にしてきているから今回も(許可する)ということにはならない」
 そのような議論を経て辿りついた部会の判断は継続審議。摂取対象者がより明確になるよう、ヘルスクレームを「体脂肪が多めの方に」とエビデンスに基づく客観的な内容に修正する、キャッチコピーにも「体脂肪が多めの方に」として摂取対象者を付け加える──などを申請企業に求めることになった。

 ただ、申請企業にしてみれば寝耳に水だろう。「体脂肪が気になる方に」と推測される『□□』は、これまでに許可されたトクホで「同様の表現がたくさんでている」(委員)ためだ。事実、「体脂肪が気になる方」に訴求するトクホの既許可件数は、これまでにざっと120件余りもある。
 「気になる方に」は体脂肪にとどまらない。血糖やコレステロール、血圧など数値である程度判断できるものは「大きく修正しなくてもいいのでは」とある委員は述べている。だが、主観的な表現は今後認めないと方針転換するのであれば、既許可品のヘルスクレームやキャッチコピーはどうするのか。全体的に見直す必要にも迫られそうだ。

 「若い女性の低体重の問題もある。体脂肪に関してはそう言われるのも分からなくない」と理解を示す業界関係者の声も聞かれるが、混乱は必至。トクホの考え方が土台にされている以上、機能性表示食品制度への影響も避けられない。


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