食薬区分一部改正 専ら医薬候補「非医」に一転 (2018.4.26)


 厚生労働省が昨年6月に出した食薬区分一部改正案で、「専ら医薬」として取り扱うこととされたムラサキムカシヨモギ(Vernonia cinerea)の全草について、同省は18日、考えを改め、条件付きで「専ら非医」として取り扱うことを公表した。食経験などを巡りパブリックコメントで疑問の声が上がり、検討の上で判断を覆した。異例のことといえそうだ。

 同省は18日、昨年6月から7月にかけて募集していた食薬区分一部改正案へのパブコメ結果を公表。公表までに9カ月近くを要した。同省によると寄せられた募集対象意見は2件。いずれもムラサキムカシヨモギを「専ら医薬」とすることに対する疑義だった。

 食薬区分を審議する有識者ワーキンググループ(WG)は昨年2月、ムラサキムカシヨモギなど新規8成分を審議。これを受けて同省は同6月、食薬区分の一部改正案を示していた。

 当時の議事概要によると、WGはムラサキムカシヨモギについて、タイやインドネシアなどアジアでは「煎じ茶として飲まれている」一方で「国内では長期にわたる食経験がない」と指摘。ところが意見募集で「沖縄地方では家庭的な薬草として栽培し、煎じて飲用にすることが書籍で紹介されているなど、伝統的な食経験が報告されている」などとする反論の声が上がった。

 また、WGは、文献調査や申請者が提出した論文内容を踏まえ、食品として多量に摂取した場合の肝毒性など、健康影響に対する懸念も指摘していた。しかし意見はこれについても反論。「論文執筆者の肝毒性などの解釈とは異なることや、実験動物や人にムラサキムカシヨモギを投与したときに毒性影響がないとする論文があることも考慮すべき」と逆に指摘した。

 意見は申請者提出論文の「解釈」にまで言及しているため、意見したのは申請者本人、あるいは当該論文の執筆者など近い人物であった可能性がある。意見の中身も似かよっていたようだ。

 厚労省は寄せられた意見を検討。WGの意見も聞いた結果、ムラサキムカシヨモギ地上部の乾燥物をお茶として飲む場合に限り「専ら非医」として取り扱うことに決定した。ただし、その他の部位や食品としての用い方については食薬区分を判断するための「十分な情報が得られていない」と指摘。そのため「必要に応じて個別に判断」するとしている。

 同省は、こうしたムラサキムカシヨモギの取り扱いを含めた食薬区分の一部改正を23日迄に都道府県に通知した。

 憶測だが、厚労省がムラサキムカシヨモギの食薬区分上の取り扱い判断を改めた背景には、国会で現在審議中の改正食品衛生法案があるのかもしれない。食薬区分を審議するWGは、「(文献調査の結果)毒性の強いアルカロイドを含むという情報がある」とも指摘していた。

 改正食衛法では、健康食品に関し、健康被害を未然に防ぐ目的で「特別の注意を必要とする成分」を薬事・食品衛生審議会などの意見を聞いた上で厚労大臣が指定し、指定成分を含む食品の販売企業に対し、健康被害情報の収集・報告を義務づける条文を新たに盛り込むことになる。

 その中でアルカロイドを含む原材料は、指定成分とされる可能性がある。というのも、厚労省は指定の検討対象成分の〝例〟について次のように説明しているためだ。「アルカロイドやホルモン様作用成分のうち、一定以上の量の摂取により健康被害が生じるおそれのある成分等」。

 行政がいったん決めたことを、パブコメで覆すのは珍しい。意見を寄せた人物がWGの指摘を完膚なきまで科学的に論破してみせたのかもしれない。また、地上部をお茶として飲む限りアルカロイドの影響はほとんど考えられないといった判断があった可能性もある。ただ、厚労省が公開している議事概要を読む限り、「専ら医薬」とする判断は妥当とも思われる。

 日本で長い食経験があることは否定できない。従って条件付きで「専ら非医」として扱うが、改正食衛法で指定成分として規制することもできる──厚労省が判断を変えた背景には、そんな思惑もあったのではなかろうか。

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