厚労省検討会 2020年版 食事摂取基準 策定方針を決定 (2018.6.7)


 厚生労働省は5月31日、「日本人の食事摂取基準策定検討会」(座長・伊藤貞嘉・東北大学大学院医学系研究科教授)の第2回会合を開催し、2020年版食事摂取基準の策定方針を決定した。対象者に高齢者のフレイル(低栄養化)を追加するなど、高齢者対策に重点を置く。また、現行の15年版食事摂取基準で初めて記載されたレビュー方法など、エビデンス関連の信頼性もさらに向上を図る考えだ。今後はWG(ワーキンググループ)を設置して、具体的な検討に入る。食事摂取基準の見直しは、健康食品業界にも影響を与える。今後の議論の成り行きが注目されそうだ。

新策定候補に必須アミノ酸など
 決定された策定方針は次の通り。
 摂取基準の対象者は、現行の15年版食事摂取基準と同じ、健常者から保健指導レベルまでとするが、高齢者については、高血圧など生活習慣病のリスクを持つ者、およびフレイルの者も対象の範囲に含める方針。

 フレイルに関する世界的な統一概念はないが、日本老年医学会の見解を参考にし、健常状態と要介護状態の中間的な段階としてフレイルを位置付ける。

 また、諸外国で摂取基準が設定されていて、日本では設定されていない栄養素に関して基準策定を検討する。候補として、必須アミノ酸、トランス脂肪酸、コレステロール、糖類などがあるが、具体的な検討は、これから設置されるWGで行われる見通しだ。

 生活習慣病の予防を目的とした目標量については、新たに「発症予防」と「重症化予防」の二つに分け、従来の目標量は「発症予防」の値とし、新たに「重症化予防」の目標量を設定する。

 さらに、50歳以上の年齢区分も見直す。従来は①50~69歳②70歳以上――となっていたが、これを①50~64歳②65~74歳③75歳以上――に変更する。そのうえで高齢者については、個人差に対応するため、体重、ADL(日常生活動作)、認知機能別など、年齢以外の指標を設定し、摂取基準を策定する方針だ。

 このほか、エビデンスの記載も充実させる方針。現行の2015年版食事摂取基準では、研究レビューの方法を初めて記述しているが、その標準化・透明化は不十分だとし、目標量を策定している摂取基準に限り、4段階のエビデンスレベルを記載することとした。

 4段階は、「Ⅰa」(コホート研究のメタ・アナリシス)、「Ⅰb」(コホート研究)、「Ⅱ」(症例対照研究、横断研究)、「Ⅲ」(記述研究)――の4つで、各疾患ガイドラインなどで用いられている「疫学研究のエビデンスレベル」の分類を参考にすることを原則とする。

高齢者対策に重き要介護抑制を意識
 31日の検討会では、フレイル予防のための目標量策定に関して、各委員から「知見が非常に少ないため難しいのではないか」との意見が相次いだ。伊藤貞嘉座長は意見に賛同しつつも、策定する考えを示し、各委員も了解した。

 また、委員の一人である国立長寿医療研究センターの桜井孝もの忘れセンター長は、認知症と栄養に関する研究状況の調査結果を発表し、「栄養と認知症の明確な関係を示すものは見られなかった」とししつも、高齢者の体重減少と認知症に関連があること、高カロリー食や低たんぱく食、各種ビタミンなど多くの栄養素などで関連があり得るとした。さらに、運動や社会活動など多因子介入試験の必要性も述べた。

 2020年食事摂取基準の策定方針は、喫緊の課題である高齢者対策がポイントで、特に要介護者数の増加抑制を強く意識したものとなっている。そうした意味では「食による病気予防」の考え方が濃く反映された基準となりそうだ。

 なお、高齢者対策に重点が置かれるものの、若年女性の「痩せ」問題や子供の貧困化と栄養問題なども対応する考え。

 今後は、課題別にWG(ワーキンググループ)を設置して具体的な作業を進め、検討会自体は10月頃に開催し、進捗状況の確認などを行う予定だ。


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