加速、中国越境EC展開 戦略提携で数段高いステージ(2018.11.8)


 中国での美容・健康指向の高まりを背景に、健康食品業界による中国越境ECへの出店、取り組みが加速している。10月29日にサントリーウエルネスが京東集団と戦略的提携を結んだほか、1日にはオルビスもアリババグループの「天猫国際」と戦略的提携を締結した。インバウンド需要が好調に推移しているファンケルも、中国越境ECへの出店を強化しているようだ。中国越境EC企業による日本の美容・健食企業への関心は高く、今後の動きが注目される。

日本と中国の思惑が一致
 サントリーグループの健康食品事業を担当するサントリーウエルネスは10月29日、中国の越境ECサイト「京東全球購」に旗艦店を出店することで、京東集団と戦略的提携を結んだ。

 京東集団は、アリババに次ぐ中国でのEコマース(電子商取引)大手とされ、ネット通販サイト「京東商城」(JD.com)を運営している。売上高は今年5兆円を超えるともいわれている。越境ECでもアリババに次ぐシェアを持つとされ、越境ECサイト「京東全球購」を運営している。

 サントリーウエルネスは、すでに中国の越境ECでシェア首位とされる「天猫国際」(Tmall Global、アリババグループ)に出店しているが、「中国越境ECへの取り組み強化の一環として、京東集団のサイトにも出店した」(サントリーウエルネス担当者)としている。「京東全球購」では、日本企業初の健食分野に特化した専門店となりそうだ。同社は中国の越境ECでシェア首位と2位のサイトに出店することで、中国市場へのアクセスを強固にしていく考えだ。

 一方、オルビスは1日、来年1月に上市する肌トクホ(特定保健用食品)の「オルビス ディフェンセラ」を、来年2月以降から「天猫国際」を通じて販売することで、天猫国際と戦略的提携を結んだ。アリババグループは中国最大のEコマース企業で、BtoCネット通販サイト「淘宝網」、CtoC取引サイト「天猫」などを運営しており、中国の消費者向けEコマース分野でシェア80%を持つとされる。

 今回の提携を担当した天猫国際のウィリアム・チョウ(趙戈)国際アジアDB統括は、「中国では健康・美容分野のニーズが急速に高まっている。『オルビス ディフェンセラ』は今まで中国になかったコンセプトの商品であり、我々はこの商品で拡大する中国の健康・美容市場でシェアを伸ばしていきたい」と述べている。

 サントリーウエルネスとオルビスそれぞれの提携に共通しているのは、「戦略的」提携という形になっている点。京東集団、天猫国際ともに、サントリーウエルネスとオルビスに対して、自社サイト内に出店する一企業として扱っているのではなく、急成長が見込まれる中国の「美容・健康」市場において、シェアを確保するためのパートナー(戦略的提携)と見ているためだ。
 ある関係者は「あの巨大な中国企業側からすれば異例のケース」と秘かに打ち明ける。前述のウィリアム・チョウ(趙戈)氏も「優れた日本企業はまだまだ多い、今後も日本企業の製品を取り扱っていきたい」と意欲を見せる。

健康・美容求める中国
 中国では増大する中間富裕層を中心に、美容・健康指向が年々強まっており、品質に定評のある日本製品は人気が高い。経済産業省が今年4月に公表したEコマースに関する調査報告書によると、中国の消費者による越境EC購買額は、2018年には3.5兆円に達すると見られており、国別購買先では日本は1.6兆円となっている。その中で日本の化粧品・健康食品業界は、中国側からすれば、今後のシェア争いの鍵を握る業種と見なされているともいえよう。

 さらに、中国側には別の事情もある。中国では8月31日に全人代常務委員会で、電子商務法が成立しており、来年から施行される見通しだ。

 同法は消費者保護の観点から、Eコマースのルールを明確化したものだが、中国のEコマースで大きな割合を占めるとされる個人取引(CtoC)の比率を低めて、BtoC取引の拡大を促進する。これにより、個人取引に多い粗悪品の排除や取引参加者の信頼性担保(法人資格が条件)を目指す考えだ。真の狙いは、多額の利益を得ているとされる個人取引者や海外購買代行者に対する課税強化ともいわれる。

 こうした事情もアリババや京東集団が、日本企業に目を向ける背景にあるようだ。人気の美容・健康分野で品質が安定した商品となれば、日本企業に白羽の矢が立つのもうなづけよう。

 他方、日本企業にとっても、少子高齢化で大きな伸びが見込めない国内市場よりも、海外市場、なかんずく巨大な中国市場に目が向くのは然の成り行き。中国のEコマース企業と日本の美容・健食業界の思惑は一致しているといえる。

インバウンド好調企業も
 インバウンド需要が好調なファンケルでも、2020年度の中国での正式販売を踏まえ、天猫国際でのサプリメント、化粧品の越境ECを今月1日にスタートさせた。代表商品「カロリミット」はじめ、ブルーベリーやウコン、各種ビタミンサプリなど厳選した約40品に加え、グループ会社で手掛けるアテニアブランドの化粧品のテスト展開も同時に始める。

 同社では昨年5月、20年度の中国市場参入に向け、中国で食品・医薬原料の輸出入や公立病院運営などを事業展開する国際医薬と、中国内地におけるサプリの販売代理店契約を締結していた。現在、製品開発とともに現地で販売するための許認可取得の準備を進めている。その正式販売前に、インバウンドで売上を伸ばしているサプリの越境ECを始めることで、中国人の同社ブランドニーズに応えたかたちだ。

 10月30日に開いたアナリスト向けの決算説明会の席で、島田和幸社長は越境ECへの取組みについて、「まずはTモール(天猫国際)に出店し、順次、主要なプラットフォームにも展開していく」といい、病院内薬局や店舗販売などECに止まらない様々な販路での展開を進める方針。サプリの越境ECでの売上は、20年度に10億円台まで引き上げる計画だ。

 同説明会で、中国で来年1月から施行される見通しの電子商務法について質問された島田社長は、「新EC法でルールが厳しくなり、一定の影響があるかもしれない」と述べつつ、日本製の化粧品、サプリに対する信頼は高く、必ずしも悲観的に捉える必要はないとの考えを示した。


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