機能性表示食品 厚労、薬機法で事後規制 (2018.12.20)


 機能性表示食品のヘルスクレーム(届出表示)で「歩行能力の改善」が唐突に〝NGワード〟にされた。この影響は、新規受理の凍結のみならず、既存届出の相次ぐ自主的撤回にまで及んでいる。背景にあるのは医薬品医療機器等法(薬機法)に触れる「おそれ」。医療用医薬品の中に、歩行能力の改善を効能効果とするものが存在していた。前例のない事態が現在進行形で進んでいる。

表示が医薬と重なる? だから薬機法触れる?
 「歩行能力の改善」をヘルスクレームに含む届出は、これまでに11社14件で行われていた。だが、11月上旬ごろに問題が発生。それ以降、今月17日までに5社5件が自主的撤回に至っている。いずれもHMB(3‐ヒドロキシ‐3‐メチルブチレート)を機能性関与成分とするもの。14件の中には、ロイシン40%配合必須アミノ酸を機能性関与成分とする味の素の「アミノエール」も含まれる。

 撤回されたHMBの届出表示はいずれも同じで「自立した日常生活を送る上で必要な筋肉量及び筋力の維持・低下抑制に役立つ機能、歩行能力の改善に役立つ機能が報告されています」。後段の「歩行能力の改善」の文言が問題になった。

 背景には厚生労働省監視指導・麻薬対策課の動きがある。「歩行能力の改善」の文言は、機能性表示食品に認められた健康維持・増進の範ちゅうを超え、医薬品の効能効果の領域に立ち入るヘルスクレームと捉えた。要は、薬機法に抵触するおそれがあると判断したかたちだ。

 監麻課が動いたのは11月上旬。歩行能力の改善をうたう機能性表示食品の広告に薬機法違反のおそれがあると消費者庁食品表示企画課に通報した。監麻課は取材に、「情報提供したのは1件。あくまでも広告表示内容に対する指摘。本体(届出内容)は確認していない。エビデンスを否定しているわけでもない」と答えた。

 通報をうけ食表課では、11社の全てに対応を求める方針を固めたもようだ。薬機法の所管省から同法を根拠にした疑義を示された以上、食表課としても異論を唱えることは困難。その結果が、現在までに5件発生している自主的撤回とみられる。先月21日付を皮切りに、撤回は日を追うごとに増えている。

 監麻課は取材に「広告を修正してもらえれば、少なくとも薬機法上の問題はなくなるはず」とも答えた。だが、機能性表示食品の広告において〝機能性〟に関する文言は、届出表示から抜き書きされるのが原則。広告の修正は届出表示の変更を意味しており、それを変更するには新規の届出が求められる。従って、現行の届出は撤回される必要がある。

 このため監麻課が食表課に通報した真の目的は、届出撤回だった可能性がある。とすれば、なぜ撤回される必要があるのか。監麻課は取材に答えていないが、医師が処方する医療用医薬品の中に、「歩行能力の改善」を効能効果とするものが存在するためだとの見方が極めて有力だ。

 該当すると考えられる医療用医薬品は、「オパルモン」などを一般名称とする抗血小板薬の「リマプロストアルファデクス」。後発品(ジェネリック)も存在する薬で、その効能効果の一つに「後天性腰部脊柱管狭窄症の歩行能力の改善」がある。部分的にではあるが、ぴったり一致する。

 機能性表示食品のヘルスクレームと、医薬品の効能効果の同一性が疑問視されたことは以前にもあった。今回のように既存届出に遡るかたちでの影響はなかったとみられるが、睡眠改善薬の効能効果に含まれる「寝つき」の文言がそれだ。

 ただし、この場合は一般用医薬品の効能効果で、今回とは医薬品のステージが異なる。今回はより上だ。そのため、監麻課としても従来になく強い姿勢で臨まざるを得なかったとの見方がある。

 実際、監麻課が薬機法の観点から今回問題視したヘルスクレームは、「歩行能力」でも「改善」のいずれでもなく、それらが一つながりとなった「歩行能力の改善」の7文字とみられる。その根拠は、監麻課は取材に「『改善』の文言が即違反というわけではない」と答えたこと。ヘルスクレームに「歩行能力」の文言はあっても「改善」とは書かれていない届出に関しては、現在のところ消費者庁の動きは確認されていないこと──などがある。

〝言葉狩り〟か懸念される批判
 機能性表示食品のヘルスクレームに対し、厚労省が薬機法を根拠にした疑義を消費者庁に申し立てるという前例のない事態は、現在進行形で進んでいる。

 「アミノエール」の届出はどうなってしまうのか。数ある機能性表示食品の中でも〝売れ筋〟といわれる同品の届出の行方が今後の焦点だ。

 現在2件が届け出られているアミノエールのヘルスクレームには、「歩行能力の改善に役立つ機能があることが報告されています」と〝歩行能力の改善〟の文言がある。

 一方で、届出表示では、その機能の前提は「足の曲げ伸ばしなど筋肉に軽い負荷がかかる運動との併用」であることが明記。広告でも同様に表示しており、消費者に医薬品と誤認される可能性は考えづらい。

 これまでに撤回されたHMBのヘルスクレームにしても、特定疾患に伴う歩行能力の改善をうたっているわけでは当然ない。医薬品の効能効果と部分的に同じ文言がヘルスクレームに含まれることだけを理由に薬機法を振りかざすのであれば、〝言葉狩り〟と批判する声がふたたび沸き起こる可能性がある。


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