軽症者データ調査事業」結果説明会 食品機能でQOL向上(2019.4.25)

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 先月末の機能性表示食品届出ガイドライン一部改正に反映された「軽症者データの取扱いに関する調査・検討事業」の結果について、事業を受託した日本健康・栄養食品協会は19日、業界関係者向けの説明会を都内で開き、230名が聴講した。調査のために日健栄協が組織した検討会座長ら有識者が講演。食品によるクオリティ・オブ・ライフの向上に期待感を示した。同事業の報告書は消費者庁のウェブサイトで閲覧できる。

被験者全体で有意差層別解析不要と判断
 事業の結果を受け、消費者庁はガイドライン改正で、例外として使用を認める軽症者データの領域を広げ、アレルギー(鼻目のアレルギー反応関係)と尿酸(中長期的な血清尿酸値関係、食後の血清尿酸値の上昇関係)の2領域を軽症者の範囲を定めた上で追加。また、認知機能に関しては、「加齢に伴う認知機能関係」について、40歳以上のMCI(軽度認知障害)までを境界域の健常者として取り扱うことにした。

 この日の説明会で検討会座長を務めた慶應義塾大学の猿田亨男名誉教授は、事業の振り返りを行い、「カーブリニア」の考え方に言及した。

 これは、検討会が軽症域者の設定とデータの使用を適切と結論付けたアレルギーと尿酸の2領域について、健常者と軽症者を合わせた被験者全体で有意差が認められれば良いとする根拠とされたもの。猿田氏は「健常者だけでは改善度は僅かだが、軽症者が入ることではっきりしてくる。軽症者が多くなると問題だが、健常者と軽症者がそれぞれ50%ずつ入る位のところで判断するのが良い」と説明した。

 事業報告書ではカーブリニアの考え方について、「ある2つの因子に何らかの関係があれば、基本的にはカーブリニアに沿って変化していく」とし、「軽症域で見られる効果は健常域に近いところでも起こると考えてよい」などとしている。

 猿田氏はまた、検討結果に基づく提言と今後の展望として、「検討結果に沿った運用がなされ、各領域における科学的根拠の蓄積が進むことが期待」「既に公表されている届出に関しても、検討結果の趣旨が理解され、適宜、届出内容が見直されることが望まれる」など6点を挙げつつ、機能性表示食品は安全性の確保・機能性の科学的根拠・品質管理の3つが極めて重要だと述べた。軽症者データの例外的使用可能領域を広げる対価として、機能性表示食品の品質を高める取り組みが今後より一層求められると業界に釘を刺したと言えそうだ。

 この日の説明会では、同事業で検討対象とされた認知機能など3領域のワーキンググループ(WG)長を務めた各専門領域の有識者がそれぞれ講演を行い、検討内容を紹介した。

MCIまで健常域に 消費者ニーズも背景
 認知機能WG長の東京大学大学院の秋下雅弘教授(医学系研究科加齢医学)は、学術的には議論がある一方で、MCIを軽症域(軽度認知症)の手前の「境界域」と捉えて健常域に分類した背景について、消費者のニーズとMCIの特徴の観点からそれぞれ説明した。

 消費者のニーズについては、認知症の治療薬は存在するがMCIの薬はないため「MCIの方々が少しでも期待を持てるもの(MCIへの科学的根拠が検証された食品)があれば、家族にとっても希望が持てる」などとした。

 一方、MCIの特徴については、MCIは認知症ではないが、認知症に移行する場合と維持される場合があること、要介護の前段階であるフレイルは可逆性であるのと同様に、MCIも健常者に戻り得る状態であると考えられること──などを上げた。

 ただ、現状では高額なため一般的でないアミロイドPET検査の普及などを背景に、アミロイドベータが蓄積されたMCIは認知症として扱われる可能性も考えられるという。そのため、今回の判断を見直す検討も今後必要となる可能性もあるとした。

 「軽症域でクオリティオブライフ(QOL)が悪化しているような方々に、この領域の機能性表示食品が少しでも役立ち、国民のためになればと考えて検討させてもらった」──こう述べたのは、アレルギーWG長の日本医科大学大学院の大久保公裕教授(医学研究科頭頸部・感覚器科学)。

 同WGが定めた保健用途領域は鼻目のアレルギー反応関係、つまり花粉などによるアレルギー反応だが、大久保氏は、花粉症などアレルギー性鼻炎の有病率の増加傾向に言及し、それによるQOLや労働生産性の低下が問題だと指摘。「発症前に何らかの対応を行うことも対応策の一つ」だとの考えも述べ、機能性表示食品は、症状がほとんど出ていない状態から軽症までに適応があるとの認識を示した。

 また、尿酸WG長の帝京大学医学部付属新宿クリニックの藤森新院長は、尿酸が関係する痛風の患者が大きく増加している現状から講演を切り出した。1965年の全国調査では1840人に過ぎない一方、2016年度になると推定110万人超。そのうち9割が男性患者という。

 痛風は尿酸が結晶化することで発作が起こるが、藤森氏は「結晶化せずとも身体に害を及ぼす可能性があるとする論文が増えている」と紹介。血清尿酸値が高いと高血圧、メタボリックシンドローム、慢性腎臓病などを発症する可能性があるとする報告が、ここ10年で増えていると伝えた。

 その上で藤森氏は、「薬を使うまでの段階で、生活習慣を改善することが大事。そうしたなかで、機能性表示食品や食品で少しでも尿酸を下げることができないかということが、この事業のスタートになった」と述べた。

消費者庁「提言大事」 SR採用1報に言及
 消費者庁食品表示企画課保健表示室の担当官も講演。報告書のうち、論文の質の向上、データ数の増加などを求めた「制度全般に対する提言」について、「非常に大事な提言をいただいた」などと重要性を強調した。この提言には、「制度の健全な発展には、採用論文が1報の研究レビューは好ましい状態とは言えず、事業者の自浄作用を期待」などとも記されている。軽症者データの取扱い範囲を拡大させることで、論文数の増加を促す目的がありそうだ。

 同担当官は、先月末から運用を始めている改正ガイドラインや質疑応答集(Q&A)を精読するよう求め、届出資料や科学的根拠の内容を確認するなどして「自ら制度の信頼性確保のためにご尽力いただきたい」と述べて講演を締めくくった。

【写真=業界関係者230名が聴講するなど、軽症者データへの関心の高さが伺える】



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