崩壊性試験義務化へ 日健栄協、独断で決定(2019.8.8)


 日本健康・栄養食品協会は8月2日、協会で認定した健康食品GMP工場に対し、錠剤・カプセルの崩壊試験の実施を「義務化」すると通知した。その前日の1日、国民生活センターが健康食品100銘柄の崩壊試験を含む品質調査に関する報告書を公表およそ半数の42銘柄が「医薬品に定められた規定時間内に崩壊しなかった」と指摘した。これが日健栄協を義務化に走らせた。受託製造企業からは困惑の声も上がる。

 「今回の報告書を重く受け止め、錠剤・カプセル状等の食品について崩壊試験を必須とすることに致しました」

 日健栄協は2日、「GMP認証企業各位」宛てに「GMP認証工場に対する錠剤・カプセル状等食品の崩壊試験の義務化と有効成分の含量確認の重要性について」と題した通知を出し、ロット毎の崩壊試験の実施を要求。最新版の「健康補助食品GMPガイドライン」に崩壊試験の実施義務規定を追記する考えも明らかにした。

 これに伴い崩壊試験の実施が日健栄協の健康食品GMPの要件にもなる。適切に実施できていなければGMP認定の更新などが困難になり、製品出荷に影響が出るケースも想定される。

 ただ、日健栄協でGMPを担当する健康食品部は「常識的な猶予期間を設ける」とし、即時の義務化ではないとする。また、崩壊試験の方法も今後定める考えだ。「猶予期間のうちに取りまとめたい」(同)という。

 唐突な義務化。健康食品GMPの認定は日本健康食品規格協会(JIHFS)も手掛けているが、業界全体で足並みを揃える余裕はなかったとみられる。国民生活センターが8月1日公表した、「錠剤・カプセル状の健康食品の品質等に関する実態調査」の報告書が、日健栄協を慌てさせた。

 国センは同調査で市販の錠剤・カプセル状健康食品の品質をテストした。調査対象はネットやウェブなど市場から買い上げた機能性表示食品11銘柄を含む合計100銘柄。調査では各商品の崩壊性も調べ、その結果、うち42銘柄について「医薬品に定められた規定時間内に崩壊しなかった」と公表した。

 同調査では開封後(利用途中)の健康食品64銘柄の崩壊試験も別途実施。結果、半数の32銘柄が同様に崩壊しなかったという。

 日健栄協はこの結果を重く受け止めた。以前から「GMP認定工場に対して崩壊試験の実施を強く推奨」(2日付通知)していた事情もある。さらに、これまでに認定してきた健康食品GMP工場数はJIHFSよりも顕著に多いなかで、同報告書は、崩壊しなかった銘柄の中には「GMP認証工場で製造されていることを謳っている」(同報告書)ものも含まれることを明かした。これが日健栄協に強い危機感を抱かせ、義務化に向かわせたとみられる。

 しかし、同報告書の崩壊試験結果を巡っては業界から疑問の声も上がる。健康食品には崩壊試験に関する基準は現状ないこともあり、採用された試験方法は、医薬品の規格基準である日本薬局方が定める崩壊試験法だった。加えて、同試験法に基づき「規定時間内に崩壊しなかった」と結論付けているが、規定の数分後には崩壊したのか、あるいは数時間経過しても全く崩壊しなかったのか、報告書ではそうした具体的な試験結果を示していないためだ。

「品質向上のため必要」
 局方では、打錠のうち素錠(コーティングしていない錠剤)の崩壊時間を30分以内に規定している。だが、複数の業界関係者は「(健康食品では)40分以内に崩壊するよう設計しているものもある。医薬の規定をそのまま当てはめるのはどうか」と指摘。また、医薬品と健康食品の目的は異なることを踏まえ、「全く崩壊せずにそのまま排泄されるのでは困る。だが、そうでないならば、大きな問題にすることもないのではないか」(薬剤師)とする意見もある。

 そもそも、今回の崩壊試験の結果について国センは、「(医薬品の規定時間内に崩壊しないからといって)ダメだというわけではない」と1日の会見でコメント。では一体何のために崩壊試験を行ったのかという疑問は残るが、JIHFSや健康食品産業協議会など他団体との調整をせず、崩壊試験の義務化を独自に決めた日健栄協は、勇み足すぎたと言えそうだ。結果、「いま試作を進めている製品(の崩壊性評価)はどうすればいいのか。設計のやり直しが必要になるのか。品質管理部門が混乱している」(中堅受託製造企業)と業界の困惑を招くことに繋がった。

 ただ、健康食品の品質担保には、崩壊試験を通じて適切な崩壊性を確保することが必須。日健栄協では、崩壊試験の義務化は「品質向上のためだ。そこを理解して欲しい」(健康食品部)と訴える。

 複数の受託製造企業によると、健康食品GMP認定工場を持つOEM企業の大半が崩壊性試験を自前で実施できる環境を整えているといい、製品設計の際に崩壊性の規格も設けておくのが一般的だ。そのため、崩壊試験の義務化自体にそう大きな負担は生じないと考えられる。

 一方で、試験方法はどうするか。受託製造企業の中には「局方に基づいて崩壊性を確かめ、それに合致した製品設計を全てで行っている」と話す先もある一方で、局方の崩壊規定に基づくことに難色を示す企業は少なくない。局方にがんじがらめにされてしまうと、「賦形剤を一切添加しないなどの製品開発上の工夫が損なわれる」(打錠中心の受託メーカー)などの弊害も出てくるためだ。受託製造事業者からは「義務化の前に、業界独自の(崩壊試験の)基準作りが必要だ」と指摘する意見も出ている。


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