消費者安全法、食品に初適用 因果関係不明 でも公表(2019.9.12)


消費者安全法、食品に初適用 因果関係不明 でも公表
 健康食品に対して消費者安全法が初めて適用された。消費者庁は6日、下痢など消化器障害の健康被害情報が短期間に急増しているなどとして、同法に基づき商品名と販売者名を公表。「身体被害が生じ得ることに御留意下さい」などとして消費者に注意喚起した。だが、今のところ因果関係は不明。当該商品は健康食品GMP認定工場で製造されている。

「健康被害情報が急増」
 消費者庁が注意喚起しているのは、『ケトジェンヌ』というハードカプセル状サプリメント。東京都渋谷区の「e・Cycle」(イーサイクル)が今年3月からネット通販で売り出していた。いわゆる「ケトジェニックダイエット」を訴求するもので、主要な配合素材は中鎖脂肪酸油(MCTオイル)の粉末。

 同庁の調べによれば、同庁が運用する「事故情報データバンク」に登録されたケトジェンヌを巡る健康被害情報件数は、今年4~8月の5カ月で89件。とくに7月以降急増し、8月までの2カ月で全体の9割にあたる78件が積み上がった。

 被害の訴えは女性からが目立ち、40歳代以上が多く占める。被害の内容としては、下痢、おなかの調子が悪くなったなどの「消化器障害」を訴えるケースが大半を占め、全体の72%。中には「水のような便が出る下痢」になったと訴える人もいる。

 イーサイクルのホームページによると、ケトジェンヌの原材料は、中鎖脂肪酸油▽亜麻仁油粉末▽難消化性デキストリン▽デキストリン▽オリーブ葉末▽サジー抽出物▽明日葉末、スピルリナ原末▽大豆胚芽抽出物──その他はゼラチンや加工デンプンなどの食品添加物とされている。

 「配合素材を見る限り、下痢が多発するとはちょっと思えない」。同品の原材料表示を見て業界関係者はこう首を傾げる。日健栄協の健康食品GMP認定工場で同品の受託製造を手掛けている企業も、「配合している原材料上、問題はないものと考えていると」話す。

 販売者としても納得いかない様子だ。イーサイクルは同庁に公表された当日、「原材料に医薬品成分は全く使用していない」「必ず安全性を確認したうえで製造することになっている。製造の段階で検査項目をクリアしなければ出荷できない」「適正・安全性を保持していると認識している」「通常の量を飲むことは問題ないと考える」──などとホームページにコメントを出した(9日までに全て削除)。

 ただ、同庁の調べによると、ケトジェンヌの摂取による下痢症状を訴えた人の中には、下痢の原因は同品である可能性を医師に診断された人や、同品の摂取を止めたら下痢が治まったため再開した結果、再び下痢が生じたと話す人もいる。状況証拠としては因果関係が疑われそうだ。

 「下剤成分が混入するなどしていた可能性も考えられるのではないか」。健康食品の製造・品質管理に詳しい業界関係者はこう指摘する。また、カビ毒の可能性を疑う関係者もいる。
 イーサイクルは9日付で新たなコメントを出した。第三者機関に「安全性分析」を依頼したと説明。製造元によると「下痢症状を起こすような成分が混入していないか調べている」。分析結果次第で食品衛生法や薬機法の違反など別の問題に発展していく可能性がある。一方で、何も検出されなければ、健康被害の理由がますます分からなくなる。

 同社によると、ケトジェンヌは発売開始から8月までに約6.5万件の新規顧客を得ていた。とくに、6月以降に契約件数を伸ばしていたとされ、それと比例するように健康被害情報が増えていた格好だ。同社に取材を求めたが、締め切りまでに回答はなかった。

 今回、商品名などを公表する法的根拠とされたのは、消費者安全法第38条第1項の規定だ。消費者事故の発生や被害拡大防止のために注意喚起の必要が認められた際は情報を公表できる旨を定めたもので、直近では今年6月、ブリジストンサイクルが製造する自転車に用。ハンドルロックの破損に起因する走行中の転倒事故が発生しているなどとして、販売していたヤマハ発動機とともに社名などを公表した。

 「行政処分ではない。あくまでも消費者への注意喚起だ」。消費者安全法を担当する消費者庁消費者安全課はこう強調する。しかし、健康被害情報が急増しているとして社名、製品名が公表された。「消費者に『買うな』と言っているのと変わらない」と業界関係者は指摘する。

契約巡る相談も多く
 また、因果関係がはっきりしない中での公表も疑問視される。今回の事案は食品安全にかかわる事故情報だが、公表前に商品中含有成分の分析試験や製造元への立ち入り調査等は行われていない。公表に至るまで厚生労働省や国民生活センターは関与しておらず、消費者庁が単独で動いた。

 ただ、消費者安全法は因果関係の特定までは求めていない。「因果関係が全くない場合でなければ消費者事故と規定される」(消費者安全課)といい、要は、因果関係があると推測できれば適用可能だ。消費者庁では「被害が発生していることは間違いない。医師の診断書もある」(同)とするが、原因が分からない中での健康被害情報の公表には危うさがある。
 近年、健康食品を巡る健康被害情報は、定期購入の解約など契約を巡る相談と一体化しているケースが目立つ。今回問題となったケトジェンヌも、解約トラブルに関する相談が多数寄せられていたとみられる。同品の通常価格は税別6980円だが、定期購入を条件に初回300円で販売していたとされる。

 国民生活センターによると、PIO‐NETに登録された、イーサイクルが販売する健康食品全体(ケトジェンヌ含め3品目)に関して消費者から寄せられた契約上のトラブルを含む相談件数は、2018年度が1530件。19年度は4月から9月8日までの5カ月余りで1871件と急増している。


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