厚労省 フレイル対策に本腰 後期高齢者健診 質問票見直しを通知(2019.11.7)


 厚生労働省がフレイル(高齢者の虚弱)対策に乗り出す。同省は省内の検討会の議論を踏まえ、9月19日付けで、後期高齢者(75歳以上)健診における質問票を、フレイル対策の観点から見直したことを、保険局高齢者医療課長名で、各都道府県や関係団体などに通知した。フレイルに対する自治体や医療機関の取り組みが活発化することになる。健康食品・サプリメント分野にもこれらのニーズに対応した商品展開が求められてきそうだ。

「総合対策が必要
 フレイル対策については、2015年5月26日の経済財政諮問会議で総合対策の必要性が言及され、これを受けて厚労省は16年3月にまとめた「後期高齢者の保健事業のあり方に関する研究報告書」の中で、フレイルの概念整理や対策におけるエビデンスの検討などの内容を盛り込んでいる。

 他方、同省では増加する後期高齢者に対する保健事業の強化に取り組んでおり、16年4月1日に改正高確法(高齢者の医療の確保に関する法律)を施行。同省は同法で新たに規定された「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン」(以下GL)を策定するために、同年7月に「高齢者の保健事業のあり方検討ワーキンググループ」(以下WG)を設置した。具体的なフレイル対策もこのWGで検討されることとなった。

 WGではフレイル対策について、モデル事業の実施を提言。17年から18年にかけて、いくつかの自治体がモデル事業として、高齢者への栄養・服薬指導やフレイル健診、データ収集などを行っている。

 厚労省はWGの検討結果を受けて、18年4月にGLを策定しているが、この段階では、フレイル対策はモデル事業の途中ということもあり、具体的な方策はまだ盛り込まれていなかった。

 WGでは18年からモデル事業の検証に着手しつつ、フレイルの具体的対策の検討を開始。GLを再度見直す方向で議論を進めると同時に、「質問票の見直しをこの年から始めた」(同省高齢者医療課)。

 検討の結果、WGは19年9月18日に、見直した質問票を含めたGL改定案をまとめ、厚労省は10月に改定GL(GL第2版)として策定。同月16日に公表した。同省は公表に先立ち9月19日付けで、各都道府県や関係団体に対し、質問票を見直したことを通知している。

 高確法に基づく後期高齢者医療制度の健診では、制度発足時から、従来の特定健診に準じた「標準的な質問票」が使われてきたが、同質問票はメタボリックシンドロームに着目した質問が設定されていたため、18年4月に策定された旧GLでは、フレイル対策などに配慮したものに見直すことを、検討課題として盛り込んでいる

質問表に「転倒」等
 今回の「見直し質問票」では、フレイルの観点を含めて高齢者の健康状態を総合的に把握することや高齢者の負担軽減を目的に、服薬状況や受診状況などの質問項目を削除し、全体項目数を従来の22から15に削減。また、いくつかの項目については、質問内容の文言を回答し易い具体的な形に変更したほか、従来の「健康改善意欲」項目を「ソーシャルサポート」項目に改めた。

 質問票では引き続き、食習慣や口腔機能、体重変化、運動・転倒、認知機能に関する項目があり、こうした健診項目への社会の関心がより高まることで、健康食品分野にもこれらのニーズに対応した商品展開が求められることになりそうだ。

 新たに策定された改定GLでは、フレイル重症化抑止対策として、保健事業と介護予防事業の連携強化も盛り込まれており、これに係る関係法律の改正案も今年5月に成立(来年4月1日施行)している。改正案では、「後期高齢者医療広域連合」(財政負担軽減のため後期高齢者医療制度により導入された都道府県と市町村の連携組織)が、市町村に高齢者事業・事務を委託できることも盛り込まれており、厚労省では「これにより市町村単位でよりきめ細かなフレイル対策に取り組める」(高齢者医療課)としている。

 ただ、今回は後期高齢者医療制度において、フレイル対策が盛り込まれたものの、予防の観点からは、後期高齢者になる以前、より若い世代や中高年の時期からフレイル対策に取り組むことが求められよう。中高年世代は生活習慣病、メタボリックシンドローム対策に目が向きがちだが、フレイル対策の視点も取り入れていくことが、必要になる可能性もある。

フレイル=日本老年医学会によると、フレイルは「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表す医学用語〝frailty〟の日本語訳で、同学会では以下のようにフレイルを定義している。「要介護状態に至る前段階として位置付けられるが、身体的脆弱性のみならず精神心理的脆弱性や社会的脆弱性などの多面的な問題を抱えやすく、自立障害や死亡を含む健康障害を招きやすいハイリスク状態を意味する」。厚生労働省もこの定義をベースに対策に取り組んでいる。


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