消費者庁案 具体性に欠く JIHFS池田秀子理事長に聞く(2014.2.20)

JIHFS池田氏

 いわゆる健康食品で機能性表示する場合には関与成分を明らかにし、食経験に関する情報が十分でない場合は特定保健用食品(トクホ)並みの安全性データを揃えなければならないとなれば、特に、ヒトを対象とした試験も必要となると、海外に比し安全性の要求が極めて高くなり、貿易を阻害する要因として、WTO(世界貿易機関)が定めるSPS協定の懸念も生じ得るのではないか。

 今回議論された成分の安全性確保に関し、最終的にどのような要求が出されるかは分らない。その時間はないように思えるが、各論の議論はこれからかも知れない。ただ、消費者庁が今回示した案のように、成分の安全性データに関して海外データを含めた網羅的文献検索情報に基づく評価ではなく、トクホのような個別商品を対象とする安全性証明の方法を求めるのは、現在の国際的な視点からすると、「過剰に過ぎる」ということになろう。

      ◇

 案の中で最も疑問を感じたのは、医薬品との相互作用および関与成分同士の相互作用の確認を求めている点だ。確かに安全性確保を考える上で大きな課題だが、それを事前に確認するのは非常に困難といえる。勿論、相互作用について文献検索により、基礎試験やヒトに関して報告が出ているかを、事前に確認することは不可欠だ。しかし、そうしたこともなく相互作用を予測して事前に確認するのは事実上不可能だ。濃縮物などで薬物代謝酵素系の基礎実験をすると、多くの場合影響が出る。だからといって薬物との相互作用があるとは言えない。医薬品でさえも、非常に厳密な安全性確認が実施されていても、臨床で使用して初めて重篤な副作用のあることが分かるケースが実際にある。よってこの課題への対応としては、有害事象報告をいち早くキャッチできるシステムをどう構築できるにかかっている。

 そもそも、薬物相互作用を予測的に確認するためには、消費者庁の言う「関与成分」が明確にされていることが前提条件。これは有効性評価にもかかわる話だと思うが、植物抽出物などの場合は複数の微量な成分が生体に影響を与えている可能性があり、それらの体内動態を十分に追うことが難しいという課題がある。このような条件で、どこまで相互作用を確認すべきか、明確なガイドラインが示されない限り、具体的に何をすべきかイメージがわかない。

 トクホでも、例えば、緑茶エキスには様々な有効成分が含まれている中で、関与成分はエピガロカテキンガレートに代表させている。それは確かに関与成分の一つだろうが、その他の成分はどうなのかという点は明確でない。その点で関与成分には、活性成分はすべて分からずとも品質を担保するための指標物質のひとつ、という意味合いもある。消費者庁と検討会は今後、食経験に関しても同様だが、関与成分の定義や求める範囲について議論する必要があるだろう。現在の案のままでは、事業者が本当に対応可能かを検討することが困難だ。

      ◇

 検討会を傍聴する側からすると、議論が混乱しているように感じる。混乱の原因は、健康食品やサプリメントの定義や位置づけを明確にしていないからだと思う。

 トクホのように食卓の食品と置き換えるような製品の安全性担保のあり方と、身体機能に影響を及ぼす成分や物質を錠剤・カプセルの形態で一定量、一定期間摂る製品のそれは本来、目的が異なる。制度設計の参考とされる米国のダイエタリーサプリメント制度(DSHEA)では、サプリメントは一般食品とは異なるものだと法律で明確に定義されている。そして、サプリメントと一般食品とに使用する成分とは異なるものだとも決めた。それゆえに、医薬と食品の中間に位置付け、リスク/ベネフィットを分析、管理するという姿勢で、サプリメントの安全性・有効性・品質に関する考え方を明確に示し、それを確保・保証するための施策を具体的に実施している。

 米国の制度を参考にするのであれば、こうした発想が出てくるのが極めて自然といえるはずだが、検討会の議論ではその区分けが今のところされていない。そのために本質的な議論がなされていないと感じる。何の安全性を確保しようとしているのか、恐らく委員の間で共通認識がまだ得られていないのだろう。消費者保護における最も重要なところが抜け落ちたまま議論が進んでしまうことを懸念している。

(聞き手=本紙編集部・石川太郎)

Clip to Evernote

ページトップ