消費者庁 措置命令を撤回 不当表示期間の認定に誤り(2020.5.28)

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 消費者庁が健康食品販売会社に対して昨年3月行っていた景品表示法に基づく措置命令。それを同庁が自ら取り消す問題が起きた。過去に例がないとみられ、景表法執行の動きをつぶさにウォッチしている業界関係者は驚きの声を上げる。処分によって社名などが公表され、メディアに広く報道される以上、「誤りがありました」は許されない。起きてはならないことが起こった。

「行政として大きなミス」
 消費者庁は5月15日、ユニヴァ・フュージョン(東京都港区)に対して昨年3月行っていた措置命令を取り消し、発表した。取り消し理由については「処分原因事実として認定した表示期間を改めて検討した結果」としか明らかにしていない。

 措置命令の撤回は極めて異例で前代未聞と言える。景表法に明るい業界関係者は「行政として大きなミス」と指摘する。認定した違反事実が事後に揺らぎ、処分を撤回せざるを得なくなった事態は今後、同庁が行う行政調査に禍根を残すかもしれない。

 消費者庁の伊藤明子長官がテレビ会議システムを通じて今月20日に行った定例会見。記者が措置命令撤回の背景などを問う場面も見られた。長官は、「個別案件」を繰り返して質問をかわしながらも、「もう少し丁寧にやったらよかったという部分はあった」とコメント。処分を決めるまでの過程に何らか不備のあった可能性を示唆した。「ややまさかというところがあった」とも述べた。
 ただ、前述の業界関係者はこう話す。
 「なぜ、こんなことが起こるのだろうか。しっかり裏を取った上で(措置)命令を行っているはずだ」

 実際、消費者庁は措置命令を下すまでに、少なくとも数カ月の調査期間を設けるとされる。処分された事業者は行政不服審査法に基づく審査請求、または行政事件訴訟法に基づく処分取り消しの訴えを提起できる。そのため、慎重に調査し事実を十分積み上げた上で、処分するかどうかを決めるといわれる。

慎重に調査なのになぜ?
 それでも起こった措置命令の撤回。消費者庁は措置命令を行う際は通常、発表に合わせて記者に説明する機会を設ける。だが、行政処分と同様に社会的影響が大きいはずの処分の撤回ではそれを行わず、資料を配布するだけにとどめた。

 景表法に基づく措置命令が行われると、扱いの大小はあれども多くのメディアが報じることになる。行政上の罰に加えて社会的制裁も受ける格好だ。一方、その撤回に関しては、資料配布のみだったためか、通販新聞など専門メディアの一部を除いてほとんど報じていない。これではユニヴァ・フュージョンは行政処分を受けた会社であるとの認識を打ち消すことは難しい。

 その一方で、処分に不服を申し立てていたかどうかは不明だが、ある意味「逆転勝訴」だったはずのユニヴァ社の反応はとても淡白に見える。同社は今月15日付でホームページにコメントを掲載。措置命令が撤回されたことを淡々と伝えつつ、「引き続きお客様への安全な商品のご提供と適切な表示に努めてまいります」とするだけにとどめた。

不当表示認定も撤回なのか
 ユニヴァ社は昨年3月29日、ネット通販で販売していた商品に含まれる酵素の働きによる痩身効果を合理的根拠なく表示していたとして、同様の表示を行っていた他の健康食品販売4社とともに景表法違反(優良誤認)で措置命令を受けた。それが撤回されたのが今回の問題だが、同庁はその理由について、違反事実として認定した表示期間に誤りがあったと説明するのみ。肝心要の不当表示と認定した表示の取り扱いについては一切触れていない。

 消費者庁は措置命令の撤回に合わせて当時の行政処分発表資料から同社に関する情報を削除した。そのためはっきりしない部分が多いが、当初認定された表示期間は2015年10月30日からおよそ2年半。「『燃やして』×『出して』理想のBODYへ」「スーパーフード多数配合!」「燃焼サポート ダブルのプレミア酵母」などといった表示で優良誤認に問われた。

 措置命令が撤回されたということは、不当表示の認定も取り消された。そう考えることもできるが、この点について景表法の執行を担当する同庁表示対策課は取材に、「処分がいったん取り消された。今話せることは、表示期間(の認定)に齟齬があったということに尽きる」と語るにとどめる。

 不当表示の認定に齟齬があったと言っていない以上、法的効力は別として、その認定はまだ死んでいないと推測することもできるだろう。とすれば、表示期間について再調査の上で、改めて措置命令を行うことも起こり得ることになる。

 違反期間の認定は行政処分の構成要件の一つ。その認定に誤りがあった場合、「取り消しが妥当と判断することは手続き上あり得る」と同課は話す。その上、不当表示を行っていた期間は、措置命令後に行われることになる課徴金納付命令の際、課徴金額の算定根拠にもなる。表示期間の認定に誤りがあれば、課徴金額を弾き出せない。

 こうした事情を受けて異例の措置命令の撤回に至ったとみられるが、表示期間の認定を誤った理由について消費者庁は「個別案件」として明かしていない。

【写真=措置命令を1年以上経って取り消した】

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