厚労省、指定成分制度施行 影響 広範囲に及ぶ可能性(2020.6.11)

インタビュー 日本健康食品規格協会 池田③

 2018年6月公布された改正食品衛生法に基づく、健康食品やサプリメントなど食品の安全性確保を目的にした新たな規制、指定成分等含有食品制度(以下、指定成分制度)が6月1日施行された。所管は厚生労働省。制度対象は厚労大臣が定める「指定成分等」を含む食品全般。施行日以降に製造された指定成分等含有食品に制度は適用され、まずは4つの植物由来素材を指定成分等として制度運用が進むことになる。健康食品・サプリメント市場や業界にどのような影響を及ぼすのか。

 指定成分制度の法的根拠は改正食衛法の第8条。指定成分等とは「食品衛生上の危害の発生を防止する見地から特別の注意を必要とする成分又は物」であり「厚労大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定したもの」と定義される。厚労省は制度施行に向けた仕上げとして、先月29日、指定成分等の定量などに関する試験法を通知。試験基準を事細かに提示した。

 指定成分制度には、健康食品による健康被害に関する従前の食衛法規制を補う目的がある。
 もともと食衛法には、販売禁止措置も含めた厳しい規制を可能とする規定が盛り込まれている。ただ、従前の規定では、「食品による健康被害情報の収集が制度化されていないため必要な情報収集が困難」であるため「健康被害の発生・拡大を防止するための食衛法を適用するための根拠が不足」(厚労省)しているとの反省を踏まえ、指定成分制度は検討された。

 厚労省がそう反省する契機となったのは、因果関係は明らかでないものの、17年7月までの過去5年間で200例を超える健康被害情報が寄せられたといわれるプエラリア・ミリフィカ含有食品を巡る問題だった。

 健康被害情報が増えた背景には、現在も収まらないネット通販における不適正な定期購入契約問題があった可能性も濃厚とみられるが、健康被害情報は各地の消費生活センターを通じて国民生活センターに蓄積されていた。そのため厚労省の対応は後手に回った感が否めなかった。

 国センの商品テスト結果報告および注意喚起によってプエラリア含有食品を巡る健康被害問題が表面化されたのは17年7月。折しも食衛法改正に向けた識者の議論が始まる直前だった。勢い、半ば「炎上」する形で、健康食品の安全性確保が法改正議論の俎上に上げられ、時に、法改正の最大の目的であるHACCPの制度化にも劣らない活発な議論が行われた。

複数の義務で縛る
 そうしたなかで健康食品の新たな安全性確保策として検討されたのが、健康被害情報の届出義務化だ。これが指定成分制度にそのまま反映された。指定成分等含有食品を販売する事業者には、「人の健康に被害を生じ、又は生じさせるおそれがある旨の情報を得た場合」(第8条)、その情報を都道府県等に届け出る義務が生じることになる。

 また、製造・品質管理に関する義務も生じる。背景にはプエラリア含有食品を巡る問題をきっかけに「製造管理が適切でなく(生理活性成分等の)含有量が均一でない」との懸念を厚労省が抱いたことがあり、厚労省が告示(製造基準告示)した製造・品質管理基準(GMP)に適合する必要があるのに加え、告示に関連して厚労省が示した指定成分等の試験法に準拠した形での定量分析試験などを実施し、品質管理に努める必要がある。

報告・品質・表示
 このように、有害事象の報告義務化、そして適正な製造・品質管理の義務化を通じて、健康食品などによる健康被害を未然に防止することが指定成分制度の狙いだ。さらに、制度の狙いを補完する目的で容器・包装等への表示義務も課される。

 義務表示事項は、食品表示制度を所管する消費者庁が食品表示基準を一部改正する形で定め、指定成分制度施行と同時に施行。6月1日以降に製造する指定成分等含有食品のパッケージには、指定成分等含有食品である旨や連絡先の他、以下の注意喚起表示が義務付けられる。

 「指定成分等は、食品衛生上の危害の発生を防止する見地から特別の注意を必要とする成分又は物です」、「体調に異変を感じた際は、速やかに摂取を中止し、医師に相談してください。加えて、体調に異変を感じた旨を表示された連絡先に連絡してください」──。

 加えて、指定成分等含有食品である旨と「食品衛生上の危害の発生~成分又は物です」の旨については、「消費者の誤認を防ぐ必要がある」(消費者庁)との主旨で、それぞれを近接させた上で「14ポイント以上」の大きな文字での表示が義務付けられた。パッケージデザインに大きな制約が課されることになる。

4素材をまず指定
 そして、制度施行時の指定成分等は、指定成分制度が創設されるきっかけとなったプエラリアの他、ブラックコホシュ、ドオウレン、さらにコレウス・フォルスコリの4素材とされた。国内流通量が最も多いのは、体重管理(ダイエット)用途で需要が大きいコレウスとみられる。

 指定成分等が決定された経緯については、「アルカロイドやホルモン様成分のうち、一定量以上の摂取により健康被害が生じるおそれのある成分等」などといった観点から厚労省食品基準審査課らが選定し、同課が主催した「食品に含まれる指定成分の検討会」をはじめ新開発食品調査部会(薬食審食品衛生分科会)、パブリックコメントなどを経ている。

 ドオウレンは日本での流通実態がないといわれるが、その他3素材はこれまで、健康食品・サプリメントなどとして特別な規制なく食品に利用されてきた。そうした食品が指定成分制度の施行を機に、指定成分等含有食品という新たに制度化された、従来なかった義務を伴う食品カテゴリーに組み込まれる。そして義務が遵守されていることを前提に消費者に提供されていくことになる。
 事業者はもとより、今月1日以降は指定成分等含有食品と呼ばれるサプリ・健康食品を以前から愛飲してきた消費者も、変化に直面する。

指定対象拡大など注視必要
 サプリメント・健康食品業界に指定成分等含有食品を取り扱う事業者はどれくらい存在するのか。この点は都道府県や厚労省が今後、正確に把握することになる。

 改正食衛法に基づき営業届出制度が創設されるためだ(21年6月までに施行)。また、厚労省は事業者に対し、指定成分等含有食品を取り扱っている場合は来年5月までに所轄の都道府県に申し出るよう業界団体を通じて求めている。これらにより、都道府県等で指定成分等含有食品を取り扱う事業者や取り扱い製品を正確に把握できるようになる。

 厚労省は、指定成分制度を円滑に運用するため都道府県にも対応を求める。事業者から健康被害情報が届出された場合、厚労省へ報告しなければならない。また、指定成分等含有食品を取り扱う事業者が製造基準告示を遵守した製造や加工を行っているかなどの確認も求める。このため指定成分等含有食品を取り扱う事業者は、表示も含めて漏れなく監視の目に晒されることになる。

業界認知まだ低く
 指定成分等含有食品を取り扱う事業者は対応を進めている。ドオウレンを除く指定成分3種について配合製品(サプリメント)を販売するDHCは、『フォースコリー』など複数製品について指定成分等含有食品であることを同社販売サイト上で告知。コレウスを配合したサプリメント『フォースリーDiet』を販売するメタボリックも、公式オンラインショップの同品に関する「注意事項」のなかで、同品は指定成分等含有食品であることを明記した。

 表示義務が生じるのは今月1日以降に製造された指定成分等含有食品。ただ、消費者庁は、ウェブサイト等を通じて消費者に対して自主的に情報提供を行うよう求めており、DHCやメタボリックはこれに対応した形だ。

 一方で、事業者の対応には遅れもみられる。ECモールではコレウスを配合したサプリメントが多く販売されているが、指定成分等含有食品である旨の情報提供を行っている商品はほとんど見当たらない。「制度の認知は業界内でもまだまだこれから。販社のサイトでは対応が進んでも、ECモールは今後だろう」と業界関係者は指摘する。

 実際、厚労省が指定成分候補4素材を公式に明らかにして以降、制度に対する業界の機運が盛り上がったとは言い難い。「取り扱いがない」として関心が遠のいたような様子も感じられた。

 ただ、特に、生理活性の強い成分を含む素材は、国内外での有害事象報告などに応じて、指定成分候補として今後検討されていく可能性もある。今後、コレウス以上の大型素材が指定されることはないのか──指定成分制度が業界全体に与える影響の程は、その点に掛かっている。

機能性にも波及?
 また、厚労省は、指定成分等含有食品について、「生理活性の強い成分が局在することがないよう製造等を管理することが重要」(製造又は加工の基準に関する留意事項)と指摘している。サプリ・健康食品の役割を踏まえると、生理活性が強くなければ成分が局在しても問題ないということは決してないだろう。今後、指定成分等含有食品に対して規定された製造・品質管理基準の対象が広範囲に広げられる可能性も考えられる。

 加えて、指定成分制度はあくまでも安全性の確保を目的とするものだが、安全性と機能性は表裏一体だ。臨床試験で科学的裏付けの得られた機能性を最終製品で再現する観点からも、生理活性成分(機能性成分)の局在やバラつきの防止が強く求められる。

 そのため、厚労省が指定成分等含有食品について示した製造基準告示や分析法の考え方が今後、消費者庁が所管する機能性表示食品など保健機能食品の製造・品質管理にまで波及していく可能性を考慮しておく必要もありそうだ。

 仮に、そこまで波及しなかったとしても、いち早く対応・実践した事業者は、健康食品の製造・品質管理の面で業界をリードすることになる。

有識者はこう見る JIHFS 池田秀子 理事長 健康食品の製造・品質管理 当局が「あり方」明示した
 新たな制度は一言でいえば有害事象報告制度といえ、「ファーマコビジランス」の考え方に基づき設計されていると思う。製薬関係の方にはお馴染みだろうが、日本語では「医薬品安全性監視」などと訳されるもの。医薬品では「GQP」(品質管理基準)などの他に「GVP」(製造販売後の安全管理基準)も定められている。

 新たな制度はGVPに相当するものだと言える。海外では以前から「ニュートリビジランス」として、サプリメントなどについても製造販売後の有害事象を監視する必要が指摘されていた。実際、既に米国では、ダイエタリーサプリメントの重篤な有害事象に関する報告制度が法制化されている。

 指定成分等含有食品の対象は健康食品に限らないが、それに対する当局の最大の懸念は、生理活性成分のバラつきにこそあるだろう。バラつきによって摂取量が安全量を超えて健康被害につながるおそれがあるという懸念。そのため当局は、製造・加工基準と分析法をかなり細かく提示し、原材料から最終製品まで、生理活性成分含量の「均一性」の確保と証明を求めることにした。そこがこの制度の最大の眼目だと思う。

 製造・加工基準は告示として示された。告示を補完する留意事項も出された。従来の健康食品GMPの要求事項と比べてハードルが高いと感じる事業者が多いと思う。加えて、指定成分の分析法も示された。健康食品の原材料に関する分析法についてはこれまでも業界団体が検討、策定してきたが、今回示された分析法はより厳密だ。指定成分等含有食品を取り扱う製造者がどれだけ存在するかにもよるが、当局が今回示した製造・加工基準や分析法に即、対応できるという先は多くないように思う。ちなみに、JIHFSで会員約60社にアンケートを行ったところ、指定成分等含有食品含有原材料あるいは最終製品の製造・販売等の取り扱い事業者は約10社。決して少ないとは言えないのではないか。

 分析については、全てを自社で行えるという製造者以外は、外部の分析機関に委託することになる。従って従来よりも品質コストが高まり、製品価格にオンせざるを得なくなるだろう。そうした意味からも、今回示された分析法は、制度に関係する事業者にとって重い。製品化を見合せる企業も出てきてしまうかもしれない。

 今回の新たな制度について私は、健康食品GMPとはどうあるべきか、また、分析方法を含めた健康食品の製造・品質管理とはどうあるべきか、といったところの回答のようなものを、当局として初めて明示したものだと捉えている。

 GMPについては特に、製造・管理基準告示で「バリデーション」が要求されたことに注目したい(※バリデーション=告示では「製品の製造等を行う施設の構造設備、手順、工程その他の製造等に係る管理及び品質管理の方法が期待される結果を与えることを検証し、これを文書とすること」と定義)。これは健康食品では初めてのことで、当局として「次世代の健康食品GMP」のあり方を示したものと言えると思う。JIHFSはバリデーションの重要性と必要性を以前から業界に訴えてきたが、その充実には苦戦してきた。バリデーションは成分分析法にも関係する。

 今のところ指定成分は4つ。ただ、今後増えていく可能性もある。指定対象が売れ筋に広がっていくようなこともあるかもしれない。実際にそうなれば、制度対応を求められる製造者が大きく増えることになる。当局が今回示した健康食品GMPや健康食品の品質確保のあり方に対し、業界全体で対応していく準備を本格的に進めておくべきだ。

【写真=JIHFS 池田秀子 理事長】


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