蒸発するインバウンド コロナの影響 2.3兆円超 (2020.6.11)


 前年同月比99.9%減のわずか2900人──日本政府観光局が先月20日発表した今年4月の訪日外国人客数推計値がインバウンド関係者に衝撃を与えた。前年同月には約293万人が日本を訪れていたが、ほぼ消え去った格好だ。新型コロナウイルスがインバウンド市場に与える打撃は8月までに2兆3642億円に上るとシンクタンクは試算する。健康食品市場も無縁ではいられない。インバウンド消費に支えられていた商材を巡り需要の落ち込みを指摘する厳しい声も聞かれる。回復の見込みはあるのか──。

4月、中国訪日客200人
 日本政府観光局によれば、今年4月の中国からの訪日客は推計で200人。前年同月の約72万6000人から100%減少した。これがインバウンド市場に与える打撃は小さくない。観光庁によると、2019年の訪日外国人旅行消費額4兆8135億円(前年比6.5%増)。そのうち3割超にあたる約1兆7700億円を中国からの訪日客が消費していた。

 中国に次いで消費額が多かったのは、台湾(5517億円)、韓国(4247億円)、香港(3525億円)などと続くが、各国の4月の推計訪日客数を見ると、台湾が300人(前年同月約40万人)、韓国も300人(同約57万人)、香港は10人(同約19万人)と、中国と同様に前年同月から99.9~100%落ち込んだ。

 コロナ禍で旅行需要が世界的に停滞した。それでも今年3月は、政府観光局の推計では19万4000人が訪日。前年に比べて大幅に減少したとはいえ中国からもおよそ1万人が訪日していた。各国政府の海外渡航制限や外出禁止措置、日本においては検疫強化、査証無効化などの措置の対象国が拡大されたことで、訪日客の減少幅が増大することになったとみられる。

 訪日客大幅減の長期化は、インバウンド消費に与える打撃の深刻化に直結する。シンクタンクのりそな総合研究所は、コロナ禍が全国のインバウンド市場に与える影響は今年2~8月の7カ月だけで2兆3642億円に上るとする試算をまとめ、先月27日に伝えた。「9月以降の(訪日客数)推移も勘案すれば、実際の影響額はさらにふくらむ」と指摘する。

美容関係商材に打撃懸念
 りそな総研の試算では、最も大きな影響を受けるのはドラッグストアや百貨店などの「物販」で8532億円。次いでホテルや旅館などの「宿泊」が6799億円。ただ、打撃という意味では、当面のところ国内客の需要回復が限定的と考えられるのに加え、物販や飲食などと比べて売上に占めるインバウンドの比率の大きい宿泊に与える影響は相対的に大きくならざるを得ないと指摘する。

 新型コロナが宿泊市場に与える打撃の構図は、健康食品も同じだと考えられる。この構図は、特に、美容関係商材に影響を与えることになる。

 「4月以降の動きを見ると、通販は堅調だが、店頭は厳しい。明らかにインバウンドが影響している。外出自粛の影響も受けて、(化粧品と同様に)美肌関係(の食品)は需要が停滞しているとみられる。輸出も減っている」
 こう話すのは「昨年の終わりまでは明らかに需要が伸びていた」と語る美容食品素材のサプライヤー。通販でも一定の売上規模はあるが、インバウンド需要を受けて店頭での売上げが伸びていたなかで訪日客が蒸発。そのうえで日本の消費者も外出自粛によって購入動機を失った形だ。

 美容食品は2011年の東日本大震災後に需要が一時減少した経緯があるが、「震災の時よりも影響は大きいと思う。コロナが収まれば(需要は)回復するはずだが、先行きを見通すのは難しい」
 インバウンド消費回復のカギを握るのは、渡航制限や入国制限の緩和だ。ただ、ビジネス目的での国境をまたぐ移動は制限緩和の兆しが見られているものの、秋から冬にかけての第2波が懸念されているなかでは観光目的の制限緩和時期は見通しづらい。

 りそな総研は、入国時の検査体制の構築にも時間を要すると考えることから「9~10月の時点で前年の50%減にまで戻ると考えるのは楽観的すぎる」と指摘。コロナ禍以前の水準に戻るのは「最終的には来春までかかる可能性もあるのではないか」としている。

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