責任重大 トクホ公正競争規約 控える「機能性」(2020.7.9)


 日本健康・栄養食品協会が作成を進めた特定保健用食品(トクホ)の表示に関する公正競争規約が公正取引委員会と消費者庁に認定された。公正競争規約は景品表示法に基づく業界自主ルール。不当な顧客誘引の排除、消費者の自主的・合理的な商品選択、事業者の公正な競争確保──に資することが期待されている。8月21日に施行されるトクホ公正競争規約の行方は、現在作成が進められている機能性表示食品の公正競争規約の運用を成功させるための試金石になる。日健栄協の責任は重大だ。

パブコメで「不透明」の指摘
 トクホ公正競争規約の作成を進めたのは日健栄協。主要な業界団体が連携する形で作成が進められている機能性表示食品の公正競争規約とは異なり、日健栄協が単独で進めた。公正競争規約の運用を担う公正取引協議会の設立準備も含め、かなり精力的に取り組んでいた様子が確認されている。

 日健栄協の下田理事長(当時。今月3日退任)が委員長を務めるトクホ公正取引協議会設立準備委員会が今年3月、トクホ公正競争規約の認定を申請していた。これを受けて公取委と消費者庁は、パブリックコメント(意見募集)を実施した上で6月9日に認定し同24日に告示。規約の一部規定(表示関連)を除いて8月21日に施行するとした。

 表示に関する公正競争規約は一般的に、特定の商品(例えばハム・ソーセージ類、食用塩、ビール類、ローヤルゼリー、眼鏡類など)が対象にされている。そのなかで商品形態が様ざまであるトクホのような商品横断型の公正競争規約の策定は初。その点で画期的だと言われる。

 また、自らが所管する制度に関わる公正競争規約であるだけに、消費者庁も大きく歓迎ムードだ。同庁発足後に認定された公正競争規約には「仏壇」があるが、同庁が本格的に関わる形で認定にまで至った公正競争規約は今回のトクホが初となる。

 順風満帆な船出、そして航海。そうした成り行きが期待される。しかし、初尽くしの公正競争規約だけに、明るい見通しばかりではない。

 「パブリックコメント対象外の細則に委ねる部分が多く、不透明」──今月24日公開されたパブコメ結果によると、「全般に対する意見」としてこうした指摘が寄せられた。パブコメの対象となったのはトクホ公正競争規約と、規約の詳細を示す施行規則のそれぞれ案。細則に関しては開示すらされなかったため疑問視された。

 施行規則の案で「細則により定める」と具体的に明記されたのは「公正マーク」に関して。
 公正マークは、公正競争規約に基づき適切な表示をしていることの証だ。マークの図柄や使用基準、表示の可否は公正取引協議会が決定する。しかし、図柄も含めて詳細は、意見を述べることのできない細則に委ねられた。そのためパブコメでは、「法外な金額による審査等が行われる懸念が払拭できない」と、疑念たっぷりの指摘が寄せられることになった。

 消費者庁表示対策課によれば、細則の中身は公正取引協議会の総会で決定されるため「手続の透明性は確保される」。また、変更する場合も含めて事前に同庁、公取委に提出する必要があり、法の規定に合致しているかどうか「必要な場合に指導等も行う」とする。
 とはいえ、細則の中身を示さなかったがために、トクホ公正競争規約は船出前から疑念を抱かれる結果になってしまった。

 パブコメに寄せられた意見総数は7件。決して多くはないものの、規約、施行規則の中身を疑問視する意見が全体的に多く見受けられ、歓迎ムードからは程遠い。施行規則に盛り込んだ「臨床試験」の表示を禁じて「ヒト試験」に統一するとの規定も噛みつかれ、「機能性表示食品との均衡を欠き、合理的根拠もなく不合理」だとして規定を削除するよう求める意見も寄せられている。
 だが、規約案、施行規則案ともに大きな変更を加えることなく認定された。実際の運用を通じて消費者、業界の信頼を得ていく以外の道を自ら断った格好だ。

公取協、会員確保は大丈夫か
 公正競争規約の運用主体は公正取引協議会(公取協)となる。例えばローヤルゼリーの公正取引規約は全国ローヤルゼリー公取協が運用している。トクホの公正競争規約も同様で、現在、日健栄協がトクホ公取協の設立準備を進めている。トクホを取り扱うとともに公正競争規約に参加する事業者会員を中心に公取協が構成されることになる。

 だが、会員が十分集まるのかどうか──そのように心配する声が上がっている。
 公取協の会員になるのもタダではない。年会費などが必要になる。その上で、大手から中小まで多くの企業が機能性表示食品の届出を積極的に進めるなか、トクホの公正競争規約にメリットを感じる事業者がどれだけ存在するのだろうか──会員確保が心配される背景にはこうした事情がある。

 公正競争規約に期待されるメリットが適正に発揮されるには、公正競争規約に参加し、公取協の会員になる事業者が一定数に達する必要がある。規約に参加しないアウトサイダーのほうが多ければ、規約の実効性を確保できないためだ。公取協の構成会員数について具体的な規定はないものの、実効性を確保するには、少なくともトクホを取り扱う企業の7~8割が参加する必要がありそうだ。

 公正競争規約に参加し遵守している限り、景表法をはじめとする関連法令に違反することはない。公正競争規約に参加することでそうした大きなメリットを事業者は得ることができるが、ことトクホに関しては、そのメリットに対する疑問符がつきまとう。

 トクホは制度施行からすでに30年超が経過しているが、景表法違反事件は1件のみにとどまる。しかも、表示そのものというより品質管理が問題となった案件だ。トクホに比べて歴史は圧倒的に浅い一方で、同法違反で一斉処分が行われた経緯がある機能性表示食品と比べれば、公正競争規約に参加する意義はどうしても薄まることになる。

 もっとも、健康増進法に基づく初の勧告はトクホの誇大表示に対して下された。「トクホの広告も過去にトラブルを起こしている」(消費者庁表示対策課関係者)の指摘は避けられない。

 ただ、日健栄協にはトクホの広告審査会が置かれている。公正競争規約はなくとも、業界は自主的にトクホの広告表示の適正化を進めてきた現実がある。実際、直近の広告審査会では、審査対象46件中43件が「問題なし」と判定された。少なくとも足元のトクホ広告にさほど大きな問題は認められていない。

 それに加え、、これまでトクホ制度を積極的に活用してきた大手企業の多くが機能性表示食品にシフトしていることも、会員確保を巡る大きな懸念材料だ。

 業界や市場のトレンドがトクホから機能性表示食品に大きく移り変わっているなかで、「なぜ今ごろになってトクホの公正競争規約なのか」──日健栄協がトクホ公正競争規約の策定作業を進めていることを公表した昨年7月以降、そのように疑問視する声が今に至っても鳴り止んでいない。

 一方、トクホの公正競争規約とは対照的な好反応を生んでいるのが、機能性表示食品の公正競争規約の策定に向けた動きだ。機能性表示食品制度に関する検討会で業界代表として肩を並べてきた健康食品産業協議会と日本通信販売協会が昨年10月、両団体で連携して規約の作成を進めると発表。併せて、サプリメント(一般健康食品)の公正競争規約の検討も進める考えを示した。

 「まとまらない」が合言葉のように言われてきた業界団体が一枚岩になろうとしていることへの期待感も相まって、トクホの公正競争規約とは真逆の受け止めが広がっている。そのうえ、機能性表示食品が市場に占める割合は今後も増加の一途を辿るであろうことを踏まえれば、業界が本命視する公正競争規約は、トクホではなく機能性表示食品となる。

 しかし、「トクホの公正競争規約を差し置いて機能性表示食品(の規約を策定する)というのは100%ない。順番というものがある」と消費者庁関係者は話す。

 実際、トクホ以上に商品形態が多種・多様な機能性表示食品は、公正競争規約の策定に向けたハードルはトクホよりも高そうだ。そのため、「まずはトクホ」の流れが適切なことに議論の余地はなく、その意味で、今後策定、運用される機能性表示食品の公正競争規約の成否は、トクホ公正競争規約の運用に掛かっている。

 トクホ公取協の会員募集は遅くとも5月から水面下で進められている。8月21日のトクホ公正競争規約施行に向け、間もなく、本格的な会員募集が始まることになりそうだ。

 「会員が思うように集まらない事態となれば、業界は行政からの信頼を失うだろう。機能性表示食品の規約に影響が出なければいいが」と日健栄協に近い業界関係者は心配そうに話す。そうした事態を避けるために、トクホの公正競争規約に多くの関係事業者が参加し、運用が円滑に進むことが期待される。

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