特商法改正に向け報告書 (2020.8.27)


 消費者庁が特定商取引法改正に向けた法案の作成に着手する。増え続ける定期購入トラブル相談や、高齢者などを狙った悪質商法、悪質事業者からの消費者被害を未然に防ぐため、罰則規定を含めた特商法の規制を強化する考えだ。

刑事罰、民事ルール創設も検討
 詐欺的な定期購入商法に関する消費生活相談が増加していることなどを背景にした特定商取引法の改正に向けた報告書を、消費者庁が8月19日に公表した。同日、6回目の会合を開いた「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」が制度改正に向けた報告書をとりまとめたもの。同庁は今後、詳細を詰めたうえで特商法改正案を作成し、来年の通常国会に提出する。

 報告書では、特商法の主な改正点として、「お試し」「モニター」などの文言の入った広告を見て誤って定期購入を申し込むなど、「顧客の意に反して定期購入を契約させようとする行為」に関する規制強化を求めた。

 規制強化にあたっては、詐欺罪などの刑事罰も勘案しつつ、「違法収益の没収も可能となるレベルへの罰則の引上げを検討すべき」だとしている。また、違反のおそれのあるサイトへのモニタリングなど、外部機関も活用しながら法執行を強化する。解約・解除を妨害するような行為を禁止するといった解約権などの民事ルールの創設も求めている。

 さらに、定期購入に関する消費生活相談の9割以上がインターネット通販の現状を踏まえ、特商法に基づくガイドラインの「インターネット通販における『意に反して契約の申込みをさせようとする行為』に係るガイドライン」の見直しの早期実施を求めている。

 一方、預託法については、ジャパンライフや安愚楽牧場が引き起こした大規模な消費者被害を未然に防ぐことなどを目的に、「販売を伴う預託等取引契約」の原則禁止を盛り込んだ。報告書では、同様の契約を「本質的に反社会的な性質を有し、行為それ自体が無価値であると捉えるのが相当である」などと断じている。

 検討会終了後に開いた記者会見で、消費者庁の笹路健取引対策課長は、とりまとめた報告書のポイント3点を挙げた。1点目は、悪質事業者に絞った抜本的な制度改革。2点目は、テジタル化の進展による定期購入などのトラブル急増に対応した制度の見直し。3点目は、新型コロナ感染拡大で消費行動、環境が変化し、今後、安心して生活していくための制度整備の必要性を報告書の大綱とした。笹路課長は、「今後の10年を見据えた羅針盤の役割のような改正案としてまとめたい」とした。

業界代表「自立した消費者の育成も」
 検討会の委員として参加してきた日本通信販売協会の万場徹専務理事は、第6回会合で報告書案に対する意見書を提出した。悪質業者の排除には賛意を示しつつ、消費者保護を優先するばかりでなく「自立した消費者の育成」にも力を入れるべきだと指摘した。

 万場専務理事は提出した意見書で、消費者被害の拡大防止は法規制の強化、行政処分だけで実現できるものでないと主張した。

 消費者被害拡大防止に当たっては、万場専務理事が検討会第4回で提出した意見書で新たに創設することを提案した、消費者に対する「悪質商法早期警戒システム(仮)」を活用して広報するとともに、「消費者自身も、社会生活を営む上で、必要な知識の習得を積極的に行うべき」だと提案。消費者庁はそのためのサポートを強化していくべきだと訴えた。

 また、報告書が、過量販売などを特商法に基づく行政処分の対象に追加することの必要性に触れている点について、「通販事業者の場合、消費者の生活能力・生活状況、財産状況などの相手方の事情を知る手段はなく、何をもって過量となるのか不明」だとして疑問を呈した。

 そして今後検討すべき課題として、初めから規制ありきの検討・議論を進めるのではなく、「法改正の効果検証と現状認識を幅広い視点で行っていくべき」だと強調。実際に消費者トラブルが存在し、なかには悪質な事例があるのだとしても、「大半の消費者は問題なくごく普通に買い物の手段として活用しているのが現状」だと指摘している。

相談 健食と化粧品に集中
 悪質な定期購入商法の規制強化が検討された背景には消費者相談の増加がある。
 国民生活センターが8月6日に公表した2019年度の消費生活相談情報(苦情相談)の概要によると、19年度の相談件数は、93万4944件で、前年度の99万6498件に比べて減少した一方で、定期購入契約を巡るトラブルがみられる「健康食品」、「化粧品」に関する相談件数は前年度に比べて増加した。

 相談件数のトップは「健康食品」で5万4339件となり、前年度の3万2949件から大幅に増加。2位の「化粧品」も、前年度2万359件から19年度3万4373件まで増えた。

 国センは、相談件数の増加原因には悪質定期購入商法がある可能性を指摘。「実際は定期購入契約だったという相談や、解約申出期間中に通信販売業者と連絡が取れず、解約できないという相談が増加している影響」だとする。19年度の定期購入を巡る相談件数は、前年度の2万3000件から大きく増え、5万件を突破した。

 また、販売方法・手口別の相談件数では、インターネット通販がトップ。2位の家庭訪販4万9139件、3位の電話勧誘販売4万7799件を大きく引き離し、17万7248件に上った。そのうち健康食品は17.8%で1位、デジタルコンテンツその他が16.2%で2位、化粧品は11.4%で3位。ここでも健康食品と化粧品の販売方法への苦情が目立った。

 7月16日に経済産業省が発表した19年度の消費者相談件数でも、「健康食品」「化粧品」が目立つ。特に通販の定期購入相談は「健康食品」が276件、「化粧品」が101件で、合わせて8割強を占める。


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