変わるか DgSサプリ売場 〝食と健康〟巡り業界自主基準(2020.11.26)


 食と健康を巡る新たなヘルスケア市場の創造を目指す一環として、日本チェーンドラッグストア協会が「『食と健康』販売マニュアル」を今年6月1日までに取りまとめた。併せて策定したサプリメント・健康食品の販売方法や情報提供などに関するドラッグストア業界の自主基準を踏まえたもの。日本では従来行われていなかった商品の機能性別陳列や、消費者の「知る権利」と同時に関連法規制の遵守を踏まえた店頭での情報提供のあり方、その方法などを伝えている。業界に浸透すれば、ドラッグストアのサプリメント・健康食品売り場は革命的に変化することになる。

健康増進と新市場創造狙い
 「国民の健康の維持・増進を図ることを前提に、『食と健康』を通して、新たな健康需要、健康市場を拡大する」

 自主基準および販売マニュアルを取りまとめた目的について日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)は協会会員各社向けに作成したレポート(ドラッグストア業界研究レポート2020年後期)の中でこう記した。

 食と健康を通じた新たなヘルスケア市場および需要を創造するための「売り場づくり」と「情報提供」。自主基準、販売マニュアルはこの2つを基軸に構成したもので、ドラッグストア(DgS)の店頭におけるサプリメント・健康食品の陳列・表示、情報提供、消費者からの相談対応──などに関して一定の自主指針を示した。DgS店頭を通じて消費者のヘルスリテラシーの育成、向上に貢献する狙いもある。

 陳列については、DgSで一般的なブランド別・成分別陳列に加えて、保健機能食品を軸に、米国のサプリメント専門店のような機能性別陳列の導入を提案。商品を機能性別に分かりやすく陳列、棚割りすることで、消費者の正しい商品選択をサポートする。

 また、機能性別陳列にあたり棚表示が可能な「機能名」の一覧も示した。骨・関節サポート▽睡眠サポート▽ストレスサポート▽認知サポート▽筋肉サポート▽体の疲労サポート▽肌サポートから「免疫サポート」などまで10機能以上。棚表示する機能名は消費者庁などからの確認が取れたものに限定する。

 こうした陳列、棚表示を伴う機能性別陳列を行うと、各商品に含まれる成分などの「違い」を消費者から尋ねられたり、相談されたりする機会が増える可能性が高まる。従来のブランド・成分別陳列ではあまりなかった相談だ。

 そうした相談には、店頭の薬剤師や管理栄養士などの専門資格を持つ販売員が対応。ヘルスケアに関して専門性の高い人材を多く抱えるDgSの強みを生かし、適正な情報を提供する。併せて販売員の人材育成にも努める。これにより、サプリメント・健康食品を購入する場としてのDgSの信頼感をさらに高めていきたい考えだ。

 消費者に対する情報提供は自主基準及び販売マニュアルの「核」の一つ。自主基準では、「販売時における情報提供」の基準として、消費者の知る権利・選択する権利の尊重、国民のヘルスリテラシー向上への寄与とともに、「サプリメントと医薬品の相互作用など、サプリメントの安全な使用に関する情報も含めて提供する」ことを掲げた。

 有効性「だけ」伝えることを強く戒めたかたち。こうした安全性も含めた情報提供にあたっては、厚労省が「信頼できる健康食品情報源」の一つとして提示している『健康食品のすべて―ナチュラルメディシン・データベース』を参考図書的に活用していくことを提案している。

 一方、新たな市場・需要創造に向けては一般食品との差異化を図る必要があることから、販売マニュアルでは、機能性表示食品など保健機能食品や、ヘルスケア食品(一般健康食品)などの食品区分別により分けた業界独自の標準商品体系も提示した。

 標準商品体系をまとめた背景には、「(一般食品が多い)現在の機能性表示食品は既存市場と競合し、市場拡大になっていない」などといった問題意識がある。

 たとえば、機能性表示食品の茶系飲料にヒット商品が生まれても、消費者は通常の茶系飲料からその機能性表示食品にシフトするだけで、茶系飲料市場全体の拡大には至らない。

 一般食品ではこうしたトレードオフの関係が生じやすい。それを解消し、新たな需要や市場を創造するために、「特に機能性が表示できる保健機能食品は、一般食品と区分しやすい錠剤、カプセル形状が望ましい。商品開発しやすい機能性表示食品に期待するところ大である」(同)とし、サプリメント形状の機能性表示食品の更なる届出増加に期待を寄せる。

機能性表示食品に期待感
 そもそもJACDSが「食と健康」を巡る新たなヘルスケア市場、需要の創出、あるいは業界自主基準や販売マニュアルの策定を構想した背景には、機能性表示食品制度の創設がある。多くの企業が機能性を表示する食品を販売できるようになることは、DgSのサプリメント・健康食品売り場を大転換させることにつながる。またそれは、10兆円産業化をめざすDgS業界のさらなる成長の一翼を担わせることができると期待した。

 JACDSが自主基準や販売マニュアルで示した機能性別陳列は、機能性表示食品制度の創設なしにはあり得なかった。一方、店頭で機能性別陳列や情報提供などを行うということは、従来はメーカーが主に担ってきた「表示主体性」とその責任を小売側が担うことを意味する。そうした責任を果たしていくための指針となるのが今回の自主基準や販売マニュアルだ。

 自主基準では、保健所から指導される場合があるサプリメント・健康食品に関する店内表示やPOPについても一定の基準を提示。特定の商品に限定しない合理的根拠に基づくPOP等の表示のあり方を示した。「特定の商品に紐づけない」ことを絶対条件に、保健機能食品以外の一般健康食品においても含有成分の「一般的」な情報を消費者に伝えられる仕組みを提案している。

 従来の売り場を抜本的に変えることになる今回の自主基準や販売マニュアルをDgS各社はどう捉えるのか。実行するのだとしても、地域の保健所などの理解が求められるといえ、超える必要のあるハードルは低くない。

 ただ、自主基準などに基づく売り場が全国各地域のDgSに広がれば、DgSは、社会保障制度改革なども踏まえて今後も高まり続けるであろう国民の「予防意識」の受け皿、あるいは、健康維持・増進をめぐる専門的なコンサルティング能力を備えた新たなヘルスケア業態に成長していく可能性がある。

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