コロナ禍で免疫に脚光 20年サプリ市場・業界を省察(2020.12.24)

10大ニュース②

 新型コロナウイルス感染拡大に世界が染まった2020年。国内サプリメント・健康食品市場、業界もその影響から逃れることはできなかった。「コロナ禍」の不穏な響きが通奏低音として絶え間なく流れる中で、市場、業界をめぐる状況、環境は刻一刻と変わっていった。各社が大なり小なりの変化を強いられた、あるいは、自ら変化することを選んだこの1年を、健康産業流通新聞編集部が選んだ10大ニュースで振り返る。

唐突に訪れた新常態
 第1位には、機能性表示食品制度における「免疫」サポート表示の解禁を選んだ。
 多くの業界関係者が「不可能」だと捉えてきた機能表示を行うとする届出が突如公開されたのは、新型コロナの第2波が広がっていた最中の8月7日だった。

 「プラズマ乳酸菌はpDC(プラズマサイトイド樹状細胞)に働きかけ、健康な人の免疫機能の維持に役立つことが報告されています」

 こうした機能表示をサプリメント等で行うとする届出をキリンホールディングスが実行し消費者庁が公開。業界は大きな驚きをもってこの届出を迎えつつ、後を追いかけはじめた。現在、キリンの届出を参考に、免疫サポート表示の届出に向けて準備を進めている企業が少なからず存在すると見られている。

 免疫機能に対する働きを堂々とうたえる食品の誕生を後押ししたのは、政府が今年閣議決定した「健康・医療戦略」をはじめとする国の政策。同戦略では、「機能性表示食品等について科学的知見の蓄積を進め、免疫機能の改善等を通じた保健用途における新たな表示を実現することを目指す」方針を掲げた。

 この国の方針は、業界にとって重要な意味を持つと考えられる。健康・医療戦略(第2期)の対象期間は20年度から24年度までの5年間。今後5年にわたり、「保健用途における新たな表示」の実現が目指されることになるからだ。
 実際、それとの関連ははっきりしないが、免疫機能以外にも「新たな表示」が目立ったのが2020年だ。

 たとえば、肌の弾力性の低下を抑える機能▽女性の排尿対応機能(日常生活における排尿に行く煩わしさを和らげる機能)▽むし歯防止機能(歯の表面を改善してむし歯の原因となる酸に溶けにくい状態にすることで歯を丈夫で健康にする機能)──などといった新たな表示が機能性表示食品として届け出され、公開された。排尿対応機能も、免疫機能と並んで、困難と考えられてきた表示の筆頭に挙げることができる。

 こうした流れは2021年も続くと推測できる。新たな機能表示の実現に向け、コロナ禍でも鋭意準備を進めていた企業も少なくなかった。

 第2位には、人と人との接触が制限されるなどといった重大な制約の中でも事業活動を継続していくために、多くの企業がデジタルの利活用を一気に進めたことで到来した業界のニューノーマル(新常態)を選んだ。

 この業界に限ったことではないが、商談はじめ会議や打ち合わせはZoomなどオンライン会議システムの利用がもはや一般的。セミナーやシンポジウム、学術集会などもほとんど全てがウェブ上で開催されるようになり、オンラインを通じた参加が短期間のうちに常態化。在宅勤務やリモートワークといった新たな働き方が否応なしに導入され、社内外でリアルなコミュニケーションをとることが難しくなったなか、リアルからデジタルへのシフトにはさほど時間が掛からなかった。

 既存顧客はもとより、新規顧客との接点を確保、創出するために、業界の川上企業を中心に、ウェビナーを積極的に開催したり、情報提供を目的にしたウェブサイトを新たに開設したりといった従来なかった動きが一気に普及。これにより、例年の恒例行事だった展示会の存在感が霞んだり、今後も続くと予測されるニューノーマルに合わせた事業体制を新たに構築したりする企業が現れた。

 「変化が大きい時は、新しいことをいち早くはじめたところが現状をひっくり返すということが起こる」とある業界関係者は緊張感をもって語る。顧客とのコミュニケーションや事業活動のあり方、さらに社会そのものが大きく変わった2020年を後年ふり返った時、市場や業界での勝ち残りを決める天下分け目となったエポックメーキングな年として記憶されることもあり得る。

 3位もコロナ関連。新型コロナは、健康・維持増進(ヘルスケア)に対する消費者の意識やニーズを大きく高めた。コロナ禍でもサプリメント・健康食品の消費が落ちなかった理由はそこにある。従来にない需要を生み出すことにもつながった。小売りとしての通信販売の存在感をさらに大きく高めることになった〝巣ごもり消費〟に代表される消費行動の変容も含め、コロナが引き金となった消費者ニーズの変化を3位に選んだ。

 2020年のサプリメント・健康食品市場、業界でキーワードの一つになったのは「免疫」だった。抗がんとの関連で語られがちだった過去ゆえに、事業者にとっては触りがたい存在として定着してきたものの、新型コロナの感染拡大を受け、生活者のヘルスケアのための主役的機能に躍り出ることになった。

 生活者ニーズも高まっている。唐突に生まれた新たな需要を急ぎ取り込もうと、露骨に新型コロナ予防効果をうたう広告宣伝が大きな問題にもなった。その一方で、健康な人の免疫機能維持を堂々と訴求できる機能性表示食品が登場。こうした状況を受け、業界では、生活者のヘルスケアに資する新市場として、免疫サポート機能性表示食品市場の創出に向けた機運が大きく高まることになった。

 一方、新型コロナの感染拡大は生活者の自由な買い物にも制限を強いた。これにより〝巣ごもり消費〟が拡大。必然的に通信販売に対する消費者ニーズを一層高めることになった。サプリメント・健康食品に対する消費行動においても、訪日客の蒸発に伴うインバウンド消費の激減にも見舞われたドラッグストアなど店頭は落ち込んだ一方で、ECなど通販は拡大する現象が見られた。

 新型コロナの終息時期が未だ見通せない中、サプリメント・健康食品購入ルートの通販シフトは2021年も進むとみられる。終息したとしても、便利な通販の利用が完全に定着しそうだ。ドラッグストアなど店頭チャネルで商品を販売する事業者はどう巻き返しを図るのか。2021年はそこが焦点となる。

制限下で新制度施行
 第4位には、厚生労働省が予定通り6月1日に施行した指定成分等含有食品制度を選んだ。改正食品衛生法に基づき新たな食品カテゴリーが創設されたことになる。

 サプリメント・健康食品による健康被害の未然防止を目的に制度設計された。制度の対象となる指定成分等は今のところ、プエラリア・ミリフィカ、ブラックコホシュ、コレウス・フォルスコリーなど4原材料。

 指定成分等含有食品を取り扱う事業者には、消費者から寄せられた健康被害情報の報告義務、GMPに基づく製造・品質管理の遵守徹底義務など、新たな義務が課せられた。ただ、制度対象となる事業者が対応に努めたこともあり、制度施行から半年余りが経過した現在、市場や業界への影響は軽微。制度は無事に離陸、安定飛行への移行に向かって慎重に運用されているといったところだ。

 しかし、軽微な影響で済んでいるのは、指定成分等が4原材料にとどまるためでもある。それゆえに、制度に対する業界の認知、理解、関心が十分に熟成されているとは決して言えない状況も、影響を軽微なものにとどめている。

 今後、指定成分等の対象が広げられることが強く推察される。もしそうなれば、市場・業界全体に影響が及んでいく可能性もある。コレウスがそうであるように、機能性表示食品の機能性関与成分が指定成分等の対象になることもあり得る。

 業界全体で制度に対する理解を深め、そして今後に対する備えを用意しておく必要があるという意味で、サプリメント・健康食品の製造・品質管理の強化を行政が業界に求めた側面もある指定成分等含有食品制度の施行は、2020年10大ニュースの上位から決して外せない。

 5位は機能性表示食品制度関連。機能性表示食品の科学的根拠や、広告表示に対する事後的規制の透明性を高めるためにまとめられた「事後チェック指針」の運用スタートを選んだ。

 指針の運用を消費者庁がはじめたのは4月。指針の内容を一言で説明すると、機能性表示食品に対する規制のポイントを全面的に開示したもの。届出や広告・表示を行うにあたって事業者が注意すべき要点をまとめて開示し、それに基づく制度運用をはじめた。

 指針の意義は、複数の届出者が経験したことのある「ふいに後ろから刺される」かのような事態を回避できるようになったことがひとつ。指針に連動する動きとして、届出後、表示する機能性の科学的根拠に疑義が生じた際、届出者と消費者の間に立つ第三者のいわば〝調停機関〟として、「エビデンスレビュー評価委員会」を業界団体が連携して立ち上げ、6月から運用をはじめたことも、制度の活用に対する事業者の安心感をより高めることになった。

 また、機能性表示食品制度は行政手続き法に基づく届出制を主旨とするが、その主旨により則した制度運用が行われるようになったことも意義の一つに挙げられる。届出資料に形式的な不備がなければ受理される流れがより強まった。ただし、それを逆から見ると、もうひとつの制度主旨である「事後規制」がより適切な形で本格運用されるようになったともいえる。

 いずれにせよ、「事業者による自主点検及び業界団体による自主規制等の取組の円滑化を図る」目的もある事後チェック指針の運用開始によって、機能性表示食品の健全化は半ば業界に委任する形がとられることになった。これにより機能性表示食品の届出がさらに加速する流れがつくられたと言える。

 一方で、そのことは、一般健康食品が今後より販売しづらくなる可能性が高まったことを意味する。表示に対する行政の監視の目が、一般健康食品により一層集中するようになるためだ。事後チェック指針の運用開始は、一般健康食品の今後を考える必要があるという観点からも、業界にとって大きな出来事の一つとなった。

【写真=コロナ禍によりニューノーマル時代が到来】

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