疾病リスク 低減表示制度 今後の運用 検討開始 (2021.1.14)


日本ではトクホ(特定保健用食品)制度に唯一認められている疾病リスク低減表示について、諸外国の状況も踏まえながら「今後の運用の方向性」を決める有識者検討会の初会合が昨年12月25日、オンライン会議システムも併用する形で開催された。日本で疾病リスク低減表示が認められている関与成分は現在2つのみで、同表示を認める成分を拡充する方向で議論がまとまるかどうかが焦点の1つになる。とはいえ、予定の会合回数は残り2回(1月下旬と3月)。わずか3回、実質的には2回の会合で議論を終え、方向性を取りまとめる性急な検討会となる。

基準等の検討 来年度か
 議論の落しどころはほぼ固まっていそうだ。トクホ制度を所管し、検討会の事務局を務める消費者庁食品表示企画課は、議論の結果「新たな関与成分について基準を設定する等の対応が必要と判断された場合」について、今年4月以降に具体的な検討を行う考えをあらかじめ示している。諸外国の疾病リスク低減表示制度にならい、同表示が認められる成分が多少なりとも拡大される見通しだが、実際に表示できるまでには相当の時間を要しそうだ。

 この日の検討会では、事務局がまとめた「論点案」が提示された。「案」が付いているものの事実上の「論点」といえ、これをたたき台にする形で、初会合にもかかわらず各論の議論に入った。

 オンラインで傍聴した業界関係者からは、「取りまとめを急いでいるようす。諸外国における疾病リスク低減表示の本質的なところ、例えば許可に必要なエビデンスに関する考え方や、消費者に適切に情報伝達するための表示のあり方など、そうした本質的な議論を期待していたが、この感じではそこまでには至らない」と、やや落胆する声も上がった。

 事務局がまとめた「論点案」は、①米国、カナダ、EUで認められている疾病リスク低減表示を踏まえた検討②許可文言の柔軟性③表示の内容等の基準が定められていない疾病リスク低減表示の申請④その他(先行申請者の権利保護)──の4つ。

 この日の検討会で時間を割かれた①では、ナトリウムと高血圧▽カルシウム・ビタミンDと骨粗しょう症▽非う蝕性糖質甘味料と虫歯▽特定の食品由来の水溶性食物繊維と冠状動脈性心疾患▽食物繊維を含む穀物製品・果物・野菜とがん──などといった海外における疾病リスク低減表示の事例が示され、特に、カルシウム・ビタミンDと骨粗しょう症については、現状のトクホ制度の枠組みを維持したまま、疾病リスク低減表示の対象に加えることを容認するかのような方向で議論が進んだ。

現状「活用しづらい」
 消費者庁が今回の検討会を立ち上げた背景には、トクホ制度に疾病リスク低減表示を加えて運用を開始した2005年以降、「特段の見直しは行われてこなかった」(消費者庁)ことがある。

 その結果、疾病リスク低減表示に関する基準が設けられている関与成分は、運用開始当初から変わらず、2つにとどまり続けることになった。カルシウムと葉酸(プテロイルモノグルタミン酸)の2つだ。また、表示も当初設定された基準に縛られており、カルシウムについて認められている疾病リスク低減表示は「(前略)歳をとってからの骨粗しょう症になるリスクを低減するかもしれません」、葉酸は「(同)二分脊椎などの神経管閉鎖障害を持つ子どもが生まれるリスクを低減するかもしれません」に限定されている。

 一方、疾病リスク低減表示を巡る課題はそれにとどまらない。そもそも、事業者による制度の活用がさほど進んでいないのが実態だ。

 これまでの許可品目数を見ると、カルシウムを関与成分とするフィッシュソーセージなど、僅か30件にとどまる。葉酸に関しては許可実績がない(申請企業が審査過程で申請を取り下げたとされる)。また、カルシウムや葉酸以外の基準が定められていない成分でも、有効性に関する科学的根拠(例えばメタアナリシス論文)を示すことで許可申請が可能だが、許可実績は現時点でゼロ。同庁によると、そもそも事業者からの許可申請自体がなかったという。

 疾病リスク低減表示制度を事業者が活用しないのはなぜか──この日の検討会ではそうした疑問の声が委員の一部から上がった。

 その疑問に対して、業界側から検討会委員に入った寺本祐之氏(日本通信販売協会サプリメント部会)は、「大きな問題としては、表示のうち『~かもしれません』のところだ。そうではなく、例えば『~可能性があります』のような表現になると、もう少し使いやすくなるのではないか」とコメントし、制度としての使いづらさが背景にあると指摘した。

 疾病リスク低減表示を認める成分を拡充するのみならず、消費者、事業者の双方にとってより有意義な制度とする方向に運用を変えられるかどうか。第2回検討会は今月下旬に開催される。

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