中国健康食品市場の今 (2021.1.14)


 ヘルスケアに対するニーズが高いのは中国も同じだ。新型コロナウイルスの影響を受け、それは以前にも増して高まっており、おのずと保健食品(以下、健康食品)の需要も底上げされている。栄養や健康に関する知識の普及、消費の高度化、政策の影響なども背景に、急速な市場拡大が続いている中国健康食品市場の現在を俯瞰してみる。
(本紙アジア支局長・楊恵芳)

目覚ましい発展と規制強化
 中国の産業情報サイト「中商情報網」の調査資料によると、2019年度の中国健康食品市場規模は2669.56億人民元(以下、元)。14年度の1797.14億元から大幅に拡大した。中国は現在、世界第2位の健康食品消費国とされる。

 市場拡大の背景にあるのは、栄養や健康に関する知識の普及、高齢化の進展、国民所得の増加──など。とはいえ、浸透度はまだ低いため、今後さらに伸びる余地がある。中商情報網では22年度の市場規模について、3100億元を上回ると見込んでいる。

 その一方で、市場規模の拡大に比例するように、虚偽広告などを巡る「混乱」が相次いでいる現状もある。

 中国消費者協会の統計によると、健康食品に関する消費者からの苦情件数はここ数年で増加傾向。19年度は前年度比約13%増の8291件の苦情を受理し、15年度の実に約3.5倍に達した。苦情内容としては、虚偽広告が最多。19年度は受理した苦情8291件のうち虚偽広告に関する苦情が全体の約2割、1737件に達したという。

 こうした健康食品を巡る混乱がある中、中国の国家監督管理部門は、秩序ある市場発展を促すため、健康食品市場や業界に対する監督管理体制の強化を進めている。

 具体的には、「広告法」や「食品安全法」の改正。また、「健康食品登録及び届出管理弁法」「健康食品ラベル警告用語ガイドライン」の施行。さらに、健康食品の流通分野における取締り活動の展開──などといった施策を通じて健食食品市場の浄化を進行させ、業界に対する国の監督管理を強化している。そのため以前のように、社区(コミュニティー)で消費者を誘う手法が困難になっている。

 19年に、いわゆる「権健事件」が発生した影響も大きい。規制当局は100日間の特別取締り活動「百日行動」を展開。監督管理体制の強化を図り、直接販売営業許可証の発行を停止した。

 「権健事件」とは、権健公司という企業が健康食品の虚偽広告とマルチ商法の疑いで摘発された事件である。事件発生を受け、規制当局は健康食品市場の「混乱」を徹底的に取り締る「百日行動」を19年1月8日から4月18日まで展開。延べ274万1000人の法執行職員が出動し、全国の健康食品販売会社73万1000社に立ち入り調査を実施し、虚偽情報で9万7000件を処理した。これによる経済的損失は1億2300万元に上るとされる。

 健康食品市場・業界に対する監督管理体制は今後さらに厳格化されるとみられる。それによって業界の発展と規範化が進みそうだ。健康食品の製造販売を規範化してない小規模企業は今後次第に淘汰され、市場シェアは業界のトップ企業に集中していくと考えられる。

増加し続ける市場参入企業
 中国の健康食品市場は規模が大きい一方で、業界の集中度が低い。そのため業界は更なる発展の可能性を秘めている。

 健康食品関連企業数は増加し続けている。企業信用情報照会「企査査公司」のデータによると、健康食品関連企業の年間登録件数はここ10年で増加傾向を示し続けており、10年から14年の年間登録件数は平均で9万2000社と10万社に迫る。15年に施行された新「食品安全法」において、健康食品の法律上の位置づけが明確化されたことも受けて、登録件数が大幅に増加した。

 加えて、新型コロナウイルスに影響を受け、さらに登録件数が増加している。20年上半期は前年同期比約36%増の39万7000社が新規登録した。コロナ禍で中国の消費者は健康の重要性を認識し、健康食品はじめ運動、適度な休養、バランスの取れた食事などを通じて免疫力を高めることに関心を寄せている。新たに登録した企業は、こうした状況が健康食品市場拡大の好機になると捉えたといえそうだ。

 現在、中国の健康食品関連企業数は計294万社にみられる。企業信用情報照会「企査査公司」の調べによると、企業数を地域別で見ると、山東省と広東省がそれぞれ30万1000社と29万8000社で全国1、2位。次いで河南省の17万8000社、湖南省の15万7000社が続く。その他、河北省、安徽省、福建省、江蘇省、四川省、遼寧省が12万社を上回っているとされる。

最大の販売チャネルは直販
 次に、中国の健康食品市場の販売チャネルについて見てみる。
 主な販売チャネルとしては、直販(直接販売)、EC(インターネット通販)、そして薬局などが挙げられる。中国における健康食品の歴史は浅く、ブランドに対する消費者認知度にも限りがあるため、販売チャネルの選択は企業間競争におけるコアな部分となっている。

 中国の調査会社「前膽産業研究院」の調査によれば、販売チャネル別構成比は、直販が総売上高の44%を占有して最大。次いで全体の約30%を占めるEC。そして、専門店と薬局も全体の22%を占める。一方で、量販店は僅か3%にとどまる。

 また、「前膽産業研究院」調査の中国健康食品市場・業界における主な有力企業を見ると、無極限、安利(アムウェイ)、湯臣倍健、完美、東阿阿膠──など。各社の市場シェアは、無極限が全体の約10.3%を占めトップ。次いで、アムウェイが約6.8%、湯臣倍健が約6.1%、完美が約5.7%、東阿阿膠が約5.1%と続くとされており、その他多くの企業の市場シェアは比較的小さいことになる。

 有力企業各社の販売チャネルについては、無極限、アムウェイ、ハーバライフなどは主に直販、湯臣倍健は主にECと薬局、脳白金と東阿阿膠は主に大型ショッピングモール。ママ&ベビー店に重点を置く合生元のような企業もみられる。

 製品別の売上金額についても見ておこう。「前膽産業研究院」によれば、19年度の製品別売上金額は、グルコサミンなどを用いた「骨の健康」に関連する製品が248.9億元▽ビタミン類が245.7億元▽カルシウム補給類が232.9億元▽プロバイオティクスが44.6億元▽コラーゲンが25.7億元▽(スポーツ)プロテインが24.8億元──などとなっている。

中国健康食品市場の行方
 最後に、中国健康食品市場を巡る最新トレンドを押さえておく。中国の調査会社「中商産業研究院」は次のように分析している。

【80/90年代生まれ世代が健康食品、有機食品の急速な普及を牽引】中国では今、80~90年代生まれ世代が新たな消費の主力層となりつつある。一方、社会の発展に伴い、仕事によるストレスの増加などで「半健康状態」の人々が増加している。それが若年層や中年層への健康食品の浸透を後押しする。新たな消費主力層の台頭や消費観念の転換に伴い、健康食品の需要が拡大する見通しという。

【販売チャネルがさらに豊富に】中国における健康食品の販売チャネルは他の国・地域と大きく異なるが、これは業界の成熟度と一定の関係がある。健康食品の浸透率と1人当たりの平均購入額が上昇していくのに伴い、販売チャネルも直接販売の形態ではない薬局、ショッピングモール、専売店などにも次第に広がっていく。また、消費者の構成や習慣の変化に伴い、ECチャネルもここ数年急速に拡大している。今後、インターネットと融合した「インターネットプラス」など新たな販売形態も次第に現れるとみらている。

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