疾病リスク低減表示 既許可表示に定型文付加 (2021.1.28)


 特定保健用食品の疾病リスク低減表示の今後の運用を検討する有識者検討会の第2回が1月22日、ウェブ会議で開催され、検討会委員を務める日本健康・栄養食品協会の矢島鉄也理事長が、トクホの既許可表示に「定型文」を付加した疾病リスク低減表示の導入を提案した。具体的な表示例として、「120/80mmHgを超えた血圧は脳心血管病のリスクが高くなります(=定型文)。本品は△△を含むので、血圧が高めの方に適した食品です(=既許可表示)」を提示した。ただ、他の委員からは、一部で賛意の声も聞かれた一方で、明確に反対する意見を上げられた。

 矢島氏は先月(昨年12月)下旬に開催された第1回検討会でも意見を提出。「健康づくりの産業化 疾病リスクの低減で期待されるトクホの役割」と題した独自の資料を示し、トクホの活用促進を訴えた。疾病リスクの低減を健康寿命延伸の視点で考えることが重要だとし、持続可能な社会保障制度を構築するために、トクホの活用が今後「ますます重要になる」などと意見していた。

 第2回検討会で矢島氏が放った第二の矢は、既に許可を受けたトクホに対して、定型文を加えた2段階の疾病リスク低減表示を導入するとともに、「一律移行」できる仕組みの構築を提案するもの。矢島氏はその意義について提出資料で次の通り説明した。

 「『公知の事実』となっている根拠に基づいた、わかりやすい定型文を付与することで、国民のヘルスリテラシーと消費者教育に大きく貢献することができる」。

 公知の事実とは、診療ガイドライン等に示された診断に用いるバイオマーカーと疾病リスクの「関係」を指す。その上で定型文とは、例えば血圧と脳心血管病リスクの関係で言えば、高血圧治療ガイドラインに基づく「120/80mmHgを超えた血圧は脳心血管病のリスクが高くなります」といった文を指す。

 矢島氏は今回、そうした定型文を、「本品は△△を含むので、血圧の高めの方に適した食品です」といった、既許可トクホ表示に「付与」する形の疾病リスク低減表示を新たに導入することを提案。こうした〝既許可表示定型文付加型疾病リスク低減表示〟を「臨む既許可トクホについては一律移行してはどうか」などと訴えた。

 定型文と既許可表示の合わせ技で、疾病リスク低減表示的な表示を行うトクホの拡充とともにトクホ市場の再活性化を図る目的があると考えられる、アクロバティックともいえる矢島氏の提案。トクホを開発・販売する多くの企業からの賛同が得られるかどうかが今後の焦点となりそうだが、その前に、他の検討会委員から、明確に反対する意見を上げられることになった。

 消費者側の森田満樹委員(フードコミュニケーションコンパス代表)が「誤認をかなり拡げることになる」などと強く反発。「それを食べていればいいのだと消費者を誤認させかねない。消費者の選択に資するという観点から慎重であるべき」だとして矢島氏の意見を撥ねつけた。

 一方、矢島氏は、提出資料の中で、日健栄協として「一律移行のための事務的な手続きのお手伝いをさせていただく用意がある」と宣言。これに対して業界関係者の中には、定型文の考案や、定型文の付与が認められるかどうかなどといった認証的な作業を日健栄協で主導したい思惑をにじませたと受け止める向きがあり、ややしらけたムードも漂っている。

運用の方向性 次回決着へ 「かもしれない」表示 是正濃厚
 疾病リスク低減表示制度の今後の運用について検討する今回の検討会は、次回、3月中旬予定の第3回で、早くも方向性の取りまとめを行う見通し。事務局を務める消費者庁で今後の運用の方向性に関する案を取りまとめ、議論することが予定されている。

 論点については、事務局が前回第1回の時点で提示。①米国、カナダ、EUで認められている疾病リスク低減表示を踏まえた検討②許可文言の柔軟性③表示の内容等の基準が定められていない疾病リスク低減表示の申請④その他(先行申請者の権利保護)──の4点となっている。

 1月22日に開催された第2回検討会では、主に②~④を議論した。緊急事態宣言発令下であるため、ウェブ会議によるオンライン開催となった。傍聴については、前回に引き続き音声のみを配信する形が取られ、音が割れるなどして委員らの発言を聞き取りづらい部分が少なくなかった。議事録の早期取りまとめと公開が求められそうだ。

 この日の議論では②に関連し、現行の疾病リスク低減表示制度で規定されている「(~のリスクを減らす)かもしれません」表示の是非も議論になった。前回の検討会で、業界側の寺本祐之委員(日本通信販売協会サプリメント部会)が、疾病リスク低減表示制度の活用が産業界で広がらない大きな要因の一つに挙げていた。

 「かもしれません」表示に疑問を持った委員は他にもおり、竹内淑恵委員(法政大学経済学部教授)が寺本氏の意見に賛意を示した。また、磯博康委員(大阪大学大学院教授)は、疾病リスク低減表示が認められるものには強いエビデンスがあるはずだと指摘した上で、「とすれば、かもしれないでは疾病リスク(低減表示を認めたこと)にはならない」として表示を改めるよう提案。座長も、見直すべきだとする考えを示した。

 一方、現行制度でメタアナリシス論文の添付を原則として求めている③の具体的な論点はその必要性だ。欧米やカナダでは、メタアナリシス論文が無くとも疾病リスク低減表示を認めている事例が多々ある。

 ただ、この日の議論の結果、趨勢は「メタアナ論文必要論」に大きく傾いたといえる。
 今回の検討会は、海外の状況も踏まえつつ疾病リスク低減表示制度の今後の運用を検討するものだが、欧米等ではメタアナリシス論文が無くとも疾病リスク低減表示を認めている場合がある背景や理由に関する議論はなかった。

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