5-ALAに熱い眼差し 注目の特定臨床研究 (2021.2.25)

長崎大合体②

 アミノ酸の一種、5‐アミノレブリン酸(5‐ALA)に対する関心がにわかに高まっている。新型コロナウイルス感染症原因ウイルスの感染抑制効果を巡る研究結果を長崎大学が発表したためだ。現時点では培養細胞(インビトロ)試験の結果にすぎず、ヒトに対する有効性は定かでない。ただ、同大は現在、新型コロナ感染症患者に対する5‐ALAを用いた特定臨床研究を国内で進めている。5‐ALA高含有食品(サプリメント)による予防効果でなく治療効果を検証するという。臨床研究法に基づき必ず公表される研究結果が大いに注目されそうだ。

 長崎大学は2月9日、新型コロナ感染症の原因ウイルス(SARS‐CoV‐2)を用いた培養細胞での感染実験を行った結果、5‐ALAの強い感染抑制効果を発見したと発表した。

 論文は日本時間同8日、海外学術誌「バイオケミカル&バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ」に掲載された。論文著者は、長崎大熱帯医学研究所/感染症共同研究拠点の櫻井康晃助教ら。実験の結果、細胞毒性は認められず、ヒト細胞と非ヒト細胞の双方について抗ウイルス効果が認められたという。

機能食品素材になぜ着目?
 5‐ALAは日本で、医療用途でも一部利用されているが、サプリメントや化粧品の原材料として知られる。機能性表示食品の機能性関与成分として届出もされており、複数の商品が市場に流通されている。誰もが摂取できる一般的な成分だ。

 そのような成分に長崎大の研究グループが着目したのはなぜか。答えは、同大が昨年10月29日付で配信したプレスリリースに記されている。いわく、「5‐ALAの機能性に着目し、マラリア治療薬の開発を進めてきました。現在(中略)ラオスでの臨床研究を進めております」、「5‐ALAには幅広い感染症に対する効果が期待されるため、(中略)熱帯感染症抑制効果を広く検討しております」。

 このプレスリリースは、新型コロナ感染症患者に対する5‐ALAを用いた特定臨床研究を始めることを明らかにしたもの。この時点で、今回論文発表した知見を明らかにしていた。長崎大の発表によれば、この特定臨床研究は、所定の手続きを経て今月4日に開始。長崎大学病院を核に、複数の病院で実施する多施設共同試験を進めている。

 この研究は、臨床研究法に基づく特定臨床研究であるため、研究の詳細があらかじめ詳らかにされている。

最終的に医薬品化目指す
 それによると、今回の研究では、5‐ALAと鉄を含有する機能性食品(サプリメント)の新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)に対する治療効果を、軽症または中等症患者を対象に検証する。試験デザインは、無作為化比較▽非盲検▽無治療対照▽並行群間比較。研究参加者数は50名、研究期間は来年3月末までがそれぞれ予定されている。また、5‐ALAの摂取量は、一般的な5‐ALA含有サプリメントから摂取できる量よりも数倍多くする。

 食品素材について、新型コロナ感染症の治療効果を確かめる臨床研究が国内で行われるのは初とみられる。有効性が確認されれば、次のステージは、5‐ALAの医薬品化(新型コロナ感染症に対する抗ウイルス薬)を目指す本格的な臨床研究となりそうだ。

 5‐ALAと聞いて、国内サプリメント業界関係者の思い浮かべるのは、実業家の北尾吉孝氏率いるSBIホールディングスのグループ会社SBIアラプロモの名だろう。同社は、5‐ALA配合サプリメントの販売を展開。『アラプラス糖ダウン』など5‐ALAを機能性関与成分にした機能性表示食品の届出を行い、販売も進めている。

 一方で、SBIアラプロモは、長崎大や長崎大学病院による5‐ALAを巡る一連の研究に直接関わっていないとみられる。関与しているのは、ネオファーマジャパン(東京都千代田区)という製薬関連の企業。新型コロナ感染症の治療効果を検証する長崎大らの5‐ALA研究は、同社を共同研究先として進められている。

共同研究先 ネオファーマ 発表後 多くの問い合わせ
 ネオファーマジャパンは、アラブ首長国連邦(UAE)を本拠地とするグローバル製薬企業のネオファーマと、同社を筆頭株主とする日本のneo ALAの合弁で2016年に設立。neo社の旧社名は「コスモALA」で、同社は、5‐ALAを開発したコスモ石油(コスモエネルギーホールディングス)の完全子会社としてALA事業を展開していることで知られた。しかしコスモは16年、ALA事業から事実上撤退し、コスモALAの株式過半数をネオファーマに譲渡。これにより、ネオファーマジャパンが誕生した。

 同社は、静岡県袋井市内の生産拠点で5‐ALAを製造している。医薬品の他、サプリメント・化粧品用途の5‐ALAを生産。サプリメントについては現在のところ最終製品の販売は行っておらず、一部企業に限定する形で原材料供給を展開している。供給先にはSBIアラプロモなどがあるとみられ、ネオファーマジャパンこそが発酵法で生産される5‐ALAの「総本山」といえそうだ。長崎大学病院を中心に進められている特定臨床研究でも、同社製5‐ALAを配合したカプセル状食品を使用する。

原材料販売、今後も限定的に
 2月9日の長崎大の研究発表以来、ネオファーマジャパンには多くの問い合わせが寄せられているという。消費者など個人のみならず法人からも問い合わせが多い。

 法人からは、原材料供給に関する問い合わせが多く入っているようだ。ただ、同社は、「現在、既存のお取引様以外に、原料サンプルのご提供や原料販売を行う予定はございません」と回答。5‐ALAの医薬品化を視野に入れている以上、あらゆる企業に原材料供給するわけにもいかない、ということだろう。

 「細胞実験でウイルス感染を抑制できたことは、素晴らしい結果。今後も長崎大と研究を続け、新型コロナウイルス感染症の治療薬開発に繋げられればと考えている」。長崎大との共同研究結果について同社はそうコメントしている。

【写真=5‐ALAのウイルス感染感染抑制を報告する論文(写真上)。下は、感染実験と感染抑制効果の概要(画像は長崎大が発表したもの)】



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