ASEAN、サプリ規制統合へ 市場規模26年100億米㌦予測も(2021.3.11)

社福協図表 73163776-東南アジア地図

 ASEAN(東南アジア諸国連合)加盟10カ国をまたぐサプリメント規制統一ルールに関する協定が、近く、加盟各国に承認される見通しとなった。各国で異なるサプリメント規制を統合(調和)し、ASEAN域内での自由闊達な商品の流通を促進するため、2006年以来、検討・議論が続けられていた。協定が履行されると、ASEANのサプリメント市場規模は2026年までに100億米ドルに達するとの見方もある。国内サプリメント・健康食品業界にとっても、今後ますます無視できない市場になりそうだ。

協定への署名 年内か
 ASEANは現在、インドネシア▽カンボジア▽シンガポール▽タイ▽フィリピン▽ブルネイ▽ベトナム▽マレーシア▽ミャンマー▽ラオスの10カ国が加盟。外務省によると、域内総人口は6億5000万人と日本の約5倍に上る。また、加盟10カ国の実質GDP成長率は15年以降、約5%を維持する高い経済成長を見せており、世界の「開かれた成長センター」として世界各国から注目されている。

 社福協(医療経済研究・社会保険福祉協会)が2月25日にオンラインで開催した健康食品フォーラムに、ASEANにおけるサプリメント規制のハーモナイゼーション実現に向けた検討・議論を担う現地関係者2名が登壇。両氏の話によると、協定の中身は昨年11月までにおおよそまとまっており、今夏までに加盟各国からの承認を取り付けられる見通し。その後、「全てが上手くいけば」、今年11月までに、ASEAN経済閣僚会議が最終的な署名を行うスケジュールを示した。

履行期限、27年1月
 講演したASEANヘルスサプリメント協会連合会長のDanielQuek氏(シンガポールヘルスサプリメント協会会長)によると、協定への署名が行われた後、加盟10カ国は、協定の履行に向けて取り組む。履行までにさらなる困難も予想されるが、履行期限は2027年1月まで。「全ての加盟国が履行しなければならない」。

 サプリメント規制統合協定の履行によって、ASEANのサプリメント市場規模の成長率は、年率8%への上昇が見込まれるとする見方を同氏は示した。2018年の同市場規模は69億2000万米ドル、成長率は年率5.6%との試算を民間調査会社が行っている。その成長率に対して規制統合に伴う成長率を加算すれば、年率13.6%の市場成長が見込まれるとした。「これが想定される規制統合によるメリットだ」。

 一方、同氏は、市場成長以外のメリットが現時点で既に得られていると指摘。規制統合に向けた議論・検討を通じて「厳しすぎる政策や規制によってサプリメントのビジネスが窒息するのを防いだ」ことを挙げた。2007年ごろ、厳しい規制によって輸入が停止されるなどの事態が起こっていたという。

 また、ASEANとしてサプリメント(ヘルスサプリメント)の枠組みが定義されたこともメリットに挙げた。ASEANで共通のヘルスサプリメントの枠組みとして、医薬品、食品のどちらにも分類されない独自のカテゴリーとして健康強調表示(ヘルスクレーム)を行えるようにした。ヘルスクレームは「これまではできなかったことだ」という。

 この日の健康食品フォーラムに同氏とともに登壇した、ASEAN伝統薬・ヘルスサプリメント科学委員会委員のBoom‐Hwa LIM氏によると、規制統合に向けた最初の課題はヘルスサプリメントの定義だったという。議論を通じて「食事の補助と、人の健康機能(HealthyFunction)を維持・強化・向上させる製品」と定義。対象製品はカプセル、タブレット、パウダー、液体とした。

 その上で、ヘルスサプリメントの「安全性」「品質」「表示」の主要3領域について規制統合に向けた枠組みを調整し、各領域の技術的要件として、使用禁止成分▽GMPの要件▽ヘルスクレームとその根拠▽製品のラベル表示表演──など計10分野に関する「付属書」を策定。講演では、付属書の概略を解説するなどした。

 Quek氏は、現在について、ヘルスサプリメントの規制統合に伴うメリットを最大化するため、ASEAN加盟各国の業界団体が連携し、規制当局との関係をより強固にする活動を進めながら、協定の履行に向けた活動に取り組んでいる、と述べた。「国によって足並みが揃わないということがあってはならない。我われの夢は、ASEANの全ての国で、同じ制度に基づく製品を販売することだ」。

日本の機能性食品を世界へ 成分分析法をISO規格に
 社福協は、2月25日に開催した健康食品フォーラムのテーマを「日本の健康食品を海外へ」に設定。日本製品の主要輸出先となり得る可能性があるASEANのサプリメント規制統合に関する話題の他に、食品に含まれる機能性成分の分析試験方法の国際ルール化を目指す農林水産省の取り組みを伝えた。講演したのは、同省食料産業局食品製造課基準認証室の石丸彰子課長補佐(国際班担当)。

 人口減少や高齢化を受け、国内の「食」市場は縮小が続く。一方で、アジアを中心に世界の市場は今後の拡大が見込まれている。その中で日本政府は、農林水産物や食品の輸出促進に取り組んでいる。2030年までに輸出額を5兆円に引き上げる。

 目標実現のカギを握るのは、海外でも高まる「健康志向」への対応だ。石丸氏は、ここにきて生鮮食品の届出も増加傾向にある機能性表示食品について、「国内消費者の商品選択に寄与するだけでなく、我が国の高品質な食品・農林水産物の強みを表すツールとしても活用しうる」と指摘。その上で、機能性表示食品などの機能性食品が国境を越えて流通できる環境を整備することは、「我が国の食品・農林水産分野の競争力強化の観点からも重要」だとした。

 一方、そうした環境を整備するに当たり課題となるのは、食品に含まれる機能性成分の定量法など分析方法だ。一部を除き標準化された分析方法はなく、「事業者や分析機関によって異なる方法が採用されている」のが現状だと石丸氏は指摘。そのため農水省では現在、機能性成分を「再現性高く正確に定量できる」定量方法をJAS規格(日本農林規格)として制定する取り組みを進めている。

農水、世界標準化目指す
 現在までに制定した同JAS規格は、温州ミカン中のβ‐クリプトキサンチン▽ホウレンソウ中のルテイン▽生鮮トマト中のリコピン▽べにふうき緑茶中のメチル化カテキンの4種類。他にも検討を進めている成分が複数あり、これらJAS規格としての機能性成分の分析方法を、今後、国際標準規格であるISO規格に引き上げたい考えだ。

 ISO規格に引き上げることで、「我が国産品の高付加価値化のツールとして、国内外で機能性成分を活用しやすい環境を整備」したいという。機能性成分そのものの認知・関心の向上をはじめ市場の拡大、さらに「我が国産品に含まれる機能性成分に関する試験データの信頼性を国際的に担保」することにもつながるとした。

 ただ、それらを実現するために超える必要のあるハードルは決して低くない。機能性成分分析試験方法の国際標準化を目指す具体的な取り組みは2018年夏から始め、各国へのプレゼンテーションなどを進めるなどして理解を得られるように努めてきたが、まだ道半ばだ。昨年4月、ISOの食品専門委員会(TC34)に規格案を提案。賛成票は過半数を超えたものの、現在も幹事国との間で調整を続けているという。

 規格案の提案および承認は、ISO規格策定プロセスの「ステージ1」にすぎない。ISO策定までには通常で約3年かかるとされる。

 日本が提案する機能性成分の分析方法に関するISO化が実現するのだとしても、しばらく先のことになる。

 ただ、石丸氏は、国産機能性食品の円滑な貿易環境を実現させるために、「日本主導の検討の場を確立し、日本発規格の制定を目指す」としている。

【写真=東南アジア11カ国のうち東ティモールを除く10カ国が加盟するのがASEAN。総人口は日本のおよそ5倍。近年、高い経済成長率を見せている】


Clip to Evernote

ページトップ