機能性表示食品 真の届出制 企業責任の重み増す (2021.4.22)


検証 年間1000件超えの意味 届出資料 形式確認が定着か
 2020年度の機能性表示食品の届出公開件数が1000件を超えた。2015年4月の制度施行以来、4ケタの大台に届くのは初めて。制度施行初年度の届出が300件程度にとどまっていたことを考えれば、この拡大ぶりは瞠目に値するだろう。機能性表示食品の届出が年間1000件を超えた意味を検証する。

初年度300件そこから千件
 消費者庁が4月14日実施した機能性表示食品制度届出データベース情報の更新。新たに25件の届出が公開され、20年度の届出番号「F」シリーズの届出公開総数は1000件を突破。同20日にも更新があり、これにより20年度の届出公開件数は累計1028件に達することになった。

 20年度の届出は今後さらに積み上がることになる。4月20日時点で最も新しい届出の届出日は3月18日。20年度末の3月末までに届け出されたもののうち、書類に不備のない届出が今後公開され、年間届出公開件数の最多記録を上書きしていくことになる。

 20年度以前の最多記録は19年度「E」シリーズの882件。そこから更に120件以上も多くの届出が現時点で公開されたのが20年度。機能性表示食品制度の施行初年度、15年度「A」シリーズの公開総数が300件余りであった事実を鑑みれば、1000件超えは尋常ではない。

 20年度の届出公開の動きを振り返る。届出データベースの情報更新が大きく鈍化した期間があった。昨春から初夏にかけて。新型コロナウイルス感染拡大を防止するため政府が緊急事態宣言を発令したのを受け、機能性表示食品制度を担当する消費者庁食品表示企画課も業務体制を変更。届出書類の処理の遅れは避けられなかった。

 それにもかかわらず1000件を突破した。これまでとは何かが異なる特別な年度であったことが窺われるだろう。

処理が迅速化 内容精査せず?
 20年度以前の年度別届出公開件数を振り返ると、制度施行初年度の翌16年度「B」シリーズは「A」のおよそ2倍にあたる620件に増加した。届出書類の確認に時間を要しすぎた消費者庁の反省が反映された結果と考えられた。だが、翌17年度の「C」シリーズは452件と減少に転じることになる。

 翌18年度「D」シリーズは、前年度の停滞を引きずる形で推移している様子が当初は見られていた。しかし終わってみれば690件と再び増加に転じた。そして、その勢いをさらに加速させる形で翌19年度は880件を超えた。

 このように数字を追っていくと、機能性表示食品の届出公開件数は一時期を除いて極めて順調に増加してきた形。ただ、当初300件程度に過ぎなかったものを、600件、1000件と増やせたのはどうしてか。

 制度施行から月日が経っても衰えないどころか高まるばかりの企業の旺盛な届出意欲、届出書類の確認を担う消費者庁のマンパワーの拡充、書類処理スピードの向上──そうした要因も当然あるだろう。ただ、以前に比べると、届出公開前に書類の内容がほとんど精査されなくなっている──実はそれが主たる要因ではないか。

 そうでなければ年間1000件以上の届出書類を処理し届出番号を付与、公開することは困難に違いない。不備を認めて差し戻した書類も含めると、実際の処理件数は倍近くに達している可能性がある。
 言わずもがなだが機能性表示食品制度は、トクホ制度のような許可制でなく届出制が採用されている。そのため届出内容の事前チェックは形式的なものにとどまり、形式的な不備がなければ届出番号が付与、公開される。

 ただ、そのような運用が行われていたとは言い難いのが制度施行当初の機能性表示食品の届出制だ。「形式的確認ではなく実質的審査」。そのような指摘が届出者や業界から鳴り止まず、結局、制度施行初年度の届出公開件数は300件余りにとどまった。

 しかし現在までに状況は変わった。実質的審査ではなく形式的確認。届出制の主旨に則った制度運用が行われているとみられる。

事後規制の縛り深まる運用
 一部例外はあるにせよ、重箱の隅をつつくかのような不備指摘は見直し、多少の疑問があっても形式的な不備がなければ順次公開。それにより届出資料の提出から公開までの日数を短縮するとともに、できるだけ多くの届出書類を処理する。そうした制度運用が段階的に深まっていった結果が、制度施行当初は考えることさえできなかった年間1000件を超える届出公開だったのではなかったか。

 そう考えると、届出番号が付与されたことに業界が驚きの声を上げるヘルスクレームが増えてきたことも納得できよう。20年度の事例としては、「女性の日常生活における排尿に行くわずらわしさをやわらげる」、「健康な人の免疫機能の維持に役立つ」、「膣内環境を良好にし、膣内の調子を整える機能が報告されています」──などがあった。

 以前の運用であれば「差し戻し」の棚に回されていたはずだ。少なくとも業界の理解はそうであろう。ではなぜ届出公開に至ったか。機能性表示食品の届出ガイドライン等に照らし、形式的な不備がなかったからに他ならないに違いない。

 また、昨年4月1日から運用が始まった「事後チェック指針」も、20年度の届出公開件数を引き上げる要因になったと考えられる。機能性表示食品の事後規制=事後チェック=の透明性を高める目的で、同庁が識者や業界などと意見交換しながら取りまとめたこの指針の存在は、届出の内容に多少の疑問を認めたとしても、そのまま公開する流れを加速させたと思われる。

 届出の内容に責任を持つのは、あくまでも届出者。届出番号を付与する側ではない──機能性表示食品制度が本来備えているそうした特徴を前面に出した制度運用がすっかり定着してきたことを、年間1000件を超えた20年度の届出公開状況は意味するといえるのではないだろうか。「届出が受理された」として喜んでばかりいられる要素はほとんどなくなった、ということでもある。

 一方でそのことは、研究・開発に向けた企業の努力、機能性表示食品の届出に関する諸条件を満たした創意工夫次第で、食品について様々なヘル消費者に提供できる環境が整ってきたことを意味する。

 トクホではそれができなかった。だから機能性表示食品制度は今、企業のチャレンジ精神を大いに刺激している。2021年度、届出公開件数が再び1000件を超えることは十分あり得る。

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