福井県体育協会 サプリに対して強行措置 (2017.8.24)


 福井県体育協会はこのほど、昨年10月の国体で県の自転車競技選手がドーピング違反で資格停止処分を受けたことを踏まえ、県の各競技団体に対し、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)の認証を受けたサプリメント以外は摂取しないよう、新たに配置するスポーツ薬剤師を通じて指導する考えを明らかにした。反ドーピング認証団体はJADA以外も存在し、また、アスリートにとって今やサプリは不可欠なのが現状。福井県体育協会の方針は今後、関係者に波紋を広げそうだ。

「JADA認定以外ダメ」
 ドーピング違反は、昨年10月8日に開催された“いわて銀河国体”の自転車競技で起きたもので、同日のドーピング検査で福井県の選手から、WADA(世界アンチ・ドーピング機構)の禁止物質リストにある1-テストステロンの代謝物1-アンドロステンジオンなどが検出されたというもの。

 JADAは同年12月に同選手に対し、4年間の資格停止処分を決定したが、同選手側はこれを不服として、今年1月にスポーツ仲裁機構(JASS)に申立てを行っていた。

 その後、選手側はJADAと協議の上で、使用していた10商品のサプリメントの分析を米国スポーツ薬物試験研究所(SMRTL)に依頼。その結果、10品の中のひとつ、米ガスパリ社の「ANAVITE」(ビタミンサプリメント)から禁止物質が検出された。同選手は国体競技時に10商品のサプリメントを服用していることを事前に競技運営者に申告している。

 こうした分析結果なども踏まえて、JASSは18日、意図的なドーピングではないとして、4年間の資格停止処分を4カ月に短縮する裁定結果を下した。国体でのドーピング検査実施以来、初の違反者が出たことになる。

 JASSの調査によると、同選手が摂取していた10商品のうち5品は海外商品で、同選手はインターネット上で禁止物質の有無などを調べて購入していたという。「ANAVITE」は2015年9月に初購入し、以後、競技毎に1錠程度服用していたが、ドーピング検査は陰性で、いわて銀河国体直近の大会でも同様だったという。ただ、15年12月と16年3月にガスパリ社の別商品で他の選手がドーピング違反の処分を受けている。「ANAVITE」に禁止物質が含有した原因は分かっていない。

 福井県体育協会では、昨年12月にJADAから処分が出されたことを受けて、今年1月に県指定強化選手なども含めて国体関連選手約1200人に、サプリメントの摂取状況などをアンケート調査。その結果、約半数が何らかのサプリメントを服用していることが分かった。

 これを受けて同協会では、県の各競技団体毎にスポーツファーマシスト(スポーツ薬剤師)を1名配置し、JADA認証商品以外のサプリメントを摂取しないよう指導していくことを決めた。
 同認証商品以外のサプリメントを使用する場合は、スポーツファーマシストと相談することとしているが、同協会では「その場合でも特別なケースを除き、JADA以外のサプリ摂取が認められることはない」(同協会幹部)としている。

 日本での反ドーピング認証は、英LGC社の「インフォームド・チョイス」など、JADA以外も行っており、JADA以外の認証商品も市場に流通している。また、選手にとってサプリメント使用は不可欠なのが現実。福井県体育協会の方針は、関係方面に今後、大きな波紋を広げていきそうだ。

摂取禁止 お門違い 不安なく使用 環境整備を先に
 今回禁止物質が検出されたサプリメントは米国企業によるもの。日本企業が製造したものではない。購入経路にしても、個人輸入代行業者が運営するインターネット通販サイトだった。

 サッカー・J1クラブ所属選手がドーピング違反を問われた事件(けん責処分)も記憶に新しい。クラブ側の主張によれば、選手が摂取していた輸入サプリが原因とされる。

 禁止物質が含まれていた理由は不明だ。ただ、今回の自転車選手の場合、同じ製品を継続的に摂取していたにもかかわらず、直近のドーピング検査では問題がなかった。その事実を踏まえれば、コンタミネーション(混入)が起こった可能性が高い。

 日本製のサプリメントにはこうした問題は起こり得ないと断言できるかどうか。梅肉エキスを含む一部の健康食品から極めて微量とはいえ禁止物質が検出された例もある。万が一にも日本製品を原因とするドーピング違反が発覚すれば、業界の信用は大きく損なわれる。

 「GMP認定を得ているから問題ない」とも言い切れない。実際、今回問題となった製品を販売していた米国企業のホームページには、製品の全てについてcGMP認証を受けた施設で製造しているとする記載がある。
 だが、この米国企業が販売する製品からは、以前にもドーピング禁止物質が検出されていた。cGMPを適切に実施できているのかという疑念も湧くが、cGMPを訴求するメーカーの製品といえども100%安心できるわけではないことになる。

 アンチ・ドーピングの世界には、「汚染製品」なる言い方がある。「製品ラベル及び合理的なインターネット上の検索により入手可能な情報において開示されていない禁止物質を含む製品」を指す。
 サプリメントがそうなり得る可能性はゼロではない。しかしだからといって、選手のサプリメント摂取を禁じようとする福井体育協会の試みは明らかに行き過ぎだ。現実を見ていないため、実行可能性はゼロだろう。ただ、そのような方針を内部に示している競技団体は他にも存在すると伝えられている。

 ベスト・パフォーマンスを発揮するための体調管理などのために、選手はサプリメントを強く必要としている。日本スポーツ仲裁機構によると、今回仲裁を申し立てた選手は、「他のほとんどの選手がサプリメントを摂取していることから、(自分だけ)摂取しないという選択はあり得なかった」と証言したという。

 東京五輪・パラリンピックの開催まであと3年。選手が安心してサプリメントを摂取できる環境づくりが強く求められている。



Clip to Evernote

ページトップ