奄美群島産シマアザミ 健食に応用 産学官連携で (2017.8.24)

シマアザミ修正 _今後注目の新素材①

 奄美群島・徳之島産シマアザミを応用した健康食品の市場普及に向けた産学官の動きが本格化しつつある。ポリフェノールを豊富に含み、その乾燥粉末には脂肪肝抑制作用など抗メタボリックシンドローム効果のある可能性が示唆されている。有効成分を規格化した抽出物の開発も検討されており、機能性表示食品への応用も視野に入れる。

 徳之島を本拠とする㈱ヘルシーアイランズ(藤山尚二郎社長)。奄美群島固有のアマミシマアザミの栽培から加工販売までを主に手掛ける新会社として、以前からシマアザミの機能性研究を行っていた地元のNPO奄美機能性食品開発研究会のほか、徳之島町などが関わる形で昨年1月に設立。奄美群島産シマアザミを「向春草」(こうしゅんそう)として商標登録してもいる。

 同社は先月19日、沖縄の琉球大学から、同大発ベンチャー企業の認定を受けた。というのも、奄美群島産シマアザミの機能性研究を推進しているのは前述の奄美機能性食品開発研究会と琉球大の熱帯生物圏研究センター。また同センターの元センター長で、同大副学長(産学官連携担当)の屋(おく)宏典教授は徳之島の生まれ。同社の科学技術顧問も務めている。

 「基本的には原料供給。新たな素材として、まずは青汁などの用途で、向春草の乾燥粉末原料を提案していきたい」。同社の藤山社長は事業方針についてこう話す。

 現在は本格供給に向けた体制を整えている段階だが、同社は今後、島内3町の農家約20戸が栽培するシマアザミを、徳之島町など行政の支援を受けて年内に完成させる工場で一次加工。これを兵庫県神戸市の健康食品受託製造企業の日本ランチェスター工業(新垣健社長)で青汁向けなどの乾燥粉末に最終加工し、同社を窓口にして原料供給や最終製品OEMを手掛けていく計画だ。

 日本ランチェスター工業が事業に大きく関わる背景についてヘルシーアイランズでは、「以前から共同研究を通じて琉球大と繋がりがあり、与那国島(沖縄県)での実績もある」(藤山社長)と話している。

安定供給 まだ課題
 シマアザミはキク科植物の多年草。奄美群島の一部地域では、煮つけなどの食材として伝統的に利用してきたといわれる。その中で徳之島産シマアザミには、ポリフェノールの一種であるクロロゲン酸やペクトリナリンのほか、オメガ3脂肪酸のαリノレン酸が豊富に含まれる。琉球大熱帯生物圏研究センターらの研究で分かった。

 また、その乾燥粉末の機能性についても研究が進んでいる。奄美機能性食品開発研究会と同センターらの共同研究で、これまでに脂肪酸合成酵素遺伝子の発現抑制作用、血中脂肪酸濃度低下作用、脂肪肝抑制作用が動物試験で確認。海外学術誌で論文発表も行っており、メタボリックシンドロームに対して有効な機能性食品素材になり得る可能性が示唆されている。

 ヒトに対する有効性と安全性を検証する臨床試験も現在進行中だ。大阪大学大学院の大野智准教授らと共同実施しており、藤山社長は「将来的には機能性表示食品にも使える素材として販売できるようにしたい」と意気込む。すでに複数の機能性関与成分が同定されており、それらを規格化した抽出物の研究開発も検討されているという。

 一方で、商業ベースに本格的に乗せるには栽培量に課題がある。すなわち安定供給を巡る課題だ。藤山社長によると、現在の栽培面積は延べ3㌶。「多くの企業に供給していくためには、まだまだ栽培面積が足りない。行政からの支援を受けて近く2倍以上に広げる計画だ」という。
 ただ、現時点ですでに「国内外から引き合いをいただいている」と藤山社長。守秘義務を結んでいることを理由に多くは語らなかったが、国内外の大手企業との関係構築が進んでいることを取材に示唆した。

 また、徳之島は日本最大の医療グループとの呼び声が高い「徳洲会」を創設した徳田虎雄氏の出身地。島の産業振興に貢献したい思いも強いのだろう、奄美機能性食品開発研究会の理事長は、徳田虎雄氏その人だ。
 そのため、徳之島産シマアザミを活用した機能性食品は今後、国内外の大手企業をはじめ、徳洲会の医療機関ルートを通じた普及が進むことも考えられる。機能性と安全性のエビデンスの蓄積が進むと同時に安定栽培・供給体制を構築できれば、大型素材に成長する可能性がある。

【写真=徳之島のシマアザミ栽培圃場】


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