AuB 鈴木啓太 代表取締役 “水を運ぶ”役割、今も (2020.9.24)

03鈴木氏差し替え写真②

アスリートの腸内環境知見 人々の健康に生かす
 鈴木啓太。その名を知らぬサッカーファンはおそらくいない。オシム元日本代表監督のもとでボランチとして活躍。周囲の選手を生かすために走り回る姿を元監督は「水を運ぶ人」と高く評価した。そのような著名サッカー選手は引退後、自身が設立に関わったヘルスケア企業の社長に就任。
トップアスリートの腸内環境とコンディショニング(体調管理)の関係に着目した研究開発型企業のAuB(オーブ、東京都中央区)である。元オリンピック選手の腸内から新種のビフィズス菌を発見したことを先ごろ発表。これまでの研究成果を事業化(収益化)する段階に入っている。サプリメントの販売も手掛けるオーブはどのような事業戦略を描いているのか。鈴木代表に聞いた。

――AuBの主力事業はサプリメント販売なのですか?

 昨年末からサプリメント(商品名=AuB BASE)を販売していますが、サプリはあくまで補助食品。大切なのは普段の食生活なので、サプリだけを提供する会社にするつもりはありません。

 実は会社を立ち上げてすぐの段階でサプリメントを販売しようという話はありました。確かに収益を上げるにはサプリを販売するほうが早い。ですが、当初から我々にはトップアスリートの腸内細菌を解析・研究しデータ化していくという自負がありました。それらのデータが反映されないまま、拙速にサプリを作ることに、私は反対しました。3年4年とデータが蓄積して、やっと昨年末にサプリにすることができたというのが実情。とはいえ、まさか研究開発型のベンチャービジネスになるとは私も思っていませんでした(笑)。

――「アスリートの腸が健康を変える」というAuBのフレーズは誰の健康をどのように変えるということですか。

 当初はアスリートの課題を解決することを最優先に考えていました。しかし、つきつめて考えると、「減量したい」「筋肉量を増やしたい」などのアスリートの願望は、そのまま一般の方の健康にも当てはまることに気づいたのです。スポーツとヘルスケアは非常に相性がいい、と。

 アスリートが自分を応援してくれる一般の方に役立つ健康データを提供していることが知れ渡れば、ますますスポーツに関心を持っていただけることになります。これはアスリートだった私にとっても個人的にうれしいことです。

 アスリートの腸内細菌データと一般の方々の健康を結びつける我々のフードテック事業は、スポーツを嗜好する方々をターゲットにしていますが、ゆくゆくは高齢化社会に対応し、未来の子供たちの成長もサポートできるようになりたいものです。

――AuBはBtoC志向なのかBtoB志向なのか。

 現在はBtoCの会社。しかし、これまでの我々の研究成果を使ってマーケットを作っていただける企業があれば、BtoB的な協力関係が生まれると思います。ただ我々の考えているターゲットと合わず、データやエビデンスが活用されないのであればBtoBには結びつきません。これには我々が元オリンピック選手の腸内環境から新発見したビフィズス菌「AuB-001」も含まれます。我々がまずマーケットを開拓した上で、我々の考えに賛同していただける企業があれば、BtoB的な結びつきも生まれるかもしれません。

――新菌「AuB-001」の発見を発表したのは9月2日です。引き合いは来ていますか。

 問い合わせは数件いただいています。今後よいパートナーとして共にマーケットを開拓していただけるのであれば、原材料供給を含めて、当然協力していきたいです。ただ、AuB-001をビジネス化するには、安全性試験など私たちの口に入れても大丈夫か否か検証する必要がある。ある程度の期間が必要となるでしょう。

――収益基盤はどこにあると考えていますか

 当面は自社のECでサプリメントの販売。もちろん今後、一般の流通に乗せることも考えていないわけではありません。しかしD2Cで、コンシューマーとカスタマーがダイレクトにつながっている現状を大切に思っていることも確か。直接コミュニケーションが取れるお客様に購入していただくスタイルは続けていく予定です。今後については、サプリだけではなく、ヘルスケアサービスのテストマーケティングを現在重ねているので、1年後をめどにスタートしたいところ。つまり弊社の方針は、さらなる新菌の発見と解析・研究、サプリを含めたフードテック事業、そしてヘルスケア事業の3つ、ということになるでしょう。ベンチャー企業は1つに的を絞った方がいいとよくアドバイスされますが、研究とフードテックとヘルスケアは連動させなくてはなりません。

――AuB-001を使った商品以外のサプリを今後販売する予定は?

 11月ぐらいに「AuB BASE」に続く第2弾を発表する予定で、来年にも第3弾を出したいと考えています。今後1年間に1つか2つの商品を発表していくイメージですかね。

――設立は2015年。スタートアップ企業から脱却する時期のめどは?

 数字で答えることはできません。事業の規模や売上などは、結果でしかない。何らかの数字目標を挙げてそれを達成したからといって、「脱却した、成長した」とは我々は考えません。ユニコーン企業を目指すのではなく、ごく当たり前に、アスリートたちの健康データが、広く一般の方々に貢献できる社会を作りたい。その一助となる企業を目指しています。

――オーブの将来展望について教えてください。

 「腸活」という言葉が流行っていますが、これを流行で終わらせてはいけない。腸活という言葉を使うまでもなく、腸内環境のことをごく当たり前に意識する生活が営まれる社会になってほしいのです。我々は2030年には、すでにそういう世の中になると予想しています。

 そして、その世界では我々の提供したデータが皆さんのお役に立っていてほしい、と思います。我々のゴールは売上ではありません。我々のデータが社会に浸透することなのです。

――最後に、現役時代当時オシム監督に「水を運ぶ人」と評されました。代表取締役として、どういう役割を果たしますか。

 まったく同じ。従業員のために「水を運ぶ」のが私の役目。もちろん、意思決定やマネージメントという代表取締役としての務めも果たすのは当然として、みんなに活躍してもらう場を作ることが私の存在意義です。

【写真=AuB 鈴木啓太 代表取締役】


Clip to Evernote

ページトップ