来るか オートファジー 研究成果の実用化じわり (2021.7.8)

オートファジー合体③

【写真=オートファジー活性化機能が期待できる成分を配合したサプリメントを発売する動きは既にスタート。画像上=UHA味覚糖の「オートファジー 習慣」、同下=協和の「ウロリチンカプセル」】

活性化機能、食品成分にも
 細胞の恒常性を保ち、人の健康寿命延伸にかかわるとされる細胞機能「オートファジー」を巡る基礎研究成果の実用化をめざす取り組みが、市場に反映されつつある。オートファジーをコントロールする創薬をめざす動きも進んでいるが、最初に実用化、事業化が果たされたのはサプリメント・健康食品分野だ。オートファジー研究を発展させた功績でノーベル医学生理学賞を受賞した日本人研究者の存在も背景に、近い将来、「オートファジー活性化」を掲げる製品市場が大きくうねりだす可能性がある。

 オートファジーとは、細胞の恒常性を保つために細胞の中で起こる現象を指し、日本語では「自食作用」と呼ばれる。ひと言でいえば、細胞中の物質を回収、リサイクルする現象だ。細胞の新陳代謝を行ったり、細胞内の有害物質を除去したりする役割があるといわれる。

 また、オートファジーは老化の抑制につながる可能性が指摘されている。寿命延長の方法として確実視されているカロリー制限やインスリンシグナル抑制などにオートファジーは関わっているとされる。さらに、生活習慣病やアルツハイマー病に代表される神経変性疾患などの加齢性疾患に対し、防御的に働くとも考えられている。

 ただ、オートファジーは加齢に伴い能力が低下する。それを防ぐことで加齢性疾患を予防できる可能性がある。
 そのため、現在、オートファジーを活性化させる医薬品の研究・開発が進んでいる。一方で、既に複数の食品成分について、ヒトに対するオートファジー活性化機能を持つ可能性が既に見出されている。

 先月下旬に開催された日本抗加齢医学会総会。「オートファジーからみた健康長寿戦略」と題した講演を行った大阪大学大学院の吉森保氏(栄誉教授)は、「他にも(オートファジーを活性化させる食品成分が)ないか探索している」と延べ、「食品成分で(オートファジー活性を)どうにかできるのであれば、副作用を心配しなくていい。また、長期間の服用にも耐えられる。予防的な観点から、食品成分が重要になると考えている」と強調した。

 吉森氏は、オートファジーを巡る研究を大きく発展させた功績で、ノーベル医学生理学賞を2016年に受賞した大隈良典博士と共同研究を行ってきたことで知られる。酵母のオートファジーに関する大隈博士の研究成果を哺乳類に拡大、発展させた。

 ヒトのオートファジー活性化機能が期待できる食品成分には何があるのか。吉森氏の著書『LIFE SCIENCE』(日経BP)では、ポリアミンの一種、スペルミジンを始めレスベラトロール、カテキン、アスタキサンチンを示している。他にも、吉森氏は前掲の講演でウロリチンを挙げた。いずれもサプリメントとして摂取できる成分だ。

産学連携で普及めざす
 こうした成分に着目したサプリメントの開発、販売も進んでいる。ポリアミン含有米胚芽エキスを始めレスベラトロール、アスタキサンチンを配合した『オートファジー習慣』を商品名とするサプリメントをUHA味覚糖が昨夏発売。また、国内サプリメント・健康食品市場全体において新規成分となるウロリチンを配合したサプリメントも先月から販売が始まっている。

 両製品とも、大隈博士や吉森氏らによるオートファジー研究成果の実用化、事業化を推進するオープンイノベーションプラットフォームとして設立された大阪大学発ベンチャー企業オートファジー・ゴー社との共同開発製品。同社には、技術顧問として吉森氏が関与している。

 吉森氏は、日本人研究者がけん引してきたオートファジー研究成果を産業界に広げるにあたって、キーパーソンになりそうだ。昨年、吉森氏が代表理事を務める形で一般社団法人日本オートファジーコンソーシアムが設立。アカデミアを始め花王やUHA味覚糖、資生堂、ポーラ化成工業、小林製薬、ダイセル、ファインなどといったヘルスケア企業が参画している。

 日本オートファジーコンソーシアムは今月14日、第1回シンポジウムを開催する予定だ。今後、さらに規模を拡大していく可能性がある。


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