免疫機能と機能性表示 第2弾成分 不在の市場(2021.7.8)

01左上_差し替え8日12時①

 免疫を巡るヘルスクレームを伴う機能性関与成分(機能性表示食品)の第2弾が一向に出てこない。第1弾「プラズマ乳酸菌」の届出が初めて公開されてから11カ月が経過した。この間、届出資料の提出自体は積極的に行われていると言われる。次の機能性関与成分の登場はまだまだ先か、それとも間もなくか。今後の行方を窺う目的で、6月25~27日に開催された日本抗加齢医学会の総会を取材した。

 今回の日本抗加齢医学会総会(第21回)は、国立京都国際会館(京都市左京区)の現地会場とオンライン上のハイブリッド形式で開催。東京都や大阪府などに発令されていた緊急事態宣言が解除された後の開催となったためか、会場参加者は予想以上に多かった。

 展示会場に出展した企業も予想以上に多数。サプリメント関連では、今年から医療機関向けサプリメントの販売を開始したネスレ日本をはじめ▽SBIアラプロモ▽NOMON▽アスタリール▽ニュートリションアクト▽カネカ▽森下仁丹▽太陽化学──など20社近くが出展。医療関係者を中心とする来場者に製品アピールを行っていた。

 取材したのは会期の2日目。機能性表示食品を始めとする保健機能食品をテーマにしたシンポジウムが催された。

 日本抗加齢医学会の姉妹組織、日本抗加齢協会が共催する形で催されたもので、消費者庁、業界団体の幹部らが登壇する毎年の総会で恒例のシンポ。今回のタイトルは「エビデンスから、健康食品を考える」だった。

 「健康な人の免疫機能の維持に役立つ」。そんなヘルスクレームをエビデンスに基づき行う機能性表示食品の届出が初めて公開されたのは昨年8月初旬。以降、同様の届出が現在までに16件も行われている。

 ただ、それらの機能性関与成分は全て、キリンホールディングスの独自素材「プラズマ乳酸菌」。それに続く第2弾、3弾の機能性関与成分は現在まで出ていない。

 そうした中で行われたこの日のシンポ。「(事業者は免疫に関する)届出に相当苦労している」。壇上からは、免疫に関する機能性表示食品を巡る現状をそう指摘する意見が聞かれた。

 苦労している背景には何があるのか。これまでの取材を総合すると、最大の課題はやはり、表示しようとする機能性と、そのエビデンスの兼ね合いであるようだ。

 プラズマ乳酸菌について届け出られたエビデンスをメルクマールにすることはできる。ただ、「それに見合うようなものはそうそうないのが現状ではないか」と業界関係者は指摘する。

 一方で、プラズマ乳酸菌のエビデンスに見合うエビデンスとは具体的にどのようなものか。有効性について統計的有意差が示された査読付き論文の「数」なのか、それともプラズマ乳酸菌のように免疫の〝司令塔〟と言われる免疫細胞の一種「pDC」を動かすことなのか。他の免疫細胞を動かすものではダメなのか──このあたり、届出資料の形式確認を行う消費者庁でも判断が付きかねていると言われる。

 この日のシンポの座長を務めた大阪大学大学院の森下竜一氏。パネルディスカッションで「免疫は学問的にどんどん進んでいるし、非常に幅広い」と述べ、消費者庁の苦労に理解を示した。また、リモートで講演、パネルにも参加した同庁幹部は「なかなか考え方に難しい部分がある」と吐露。だが、「(プラズマ乳酸菌の届出受理を受けて)事業者が研究を急激に進めている」(森下氏)なかで、いつまでも悩み続けることは許されない。

 免疫機能の維持を訴求する機能性表示食品の登場は、サプリメント・健康食品業界全体に強烈なインパクトを与えた。

 一方で、同様のインパクトが消費者にまで及んでいるかどうかは議論が必要だ。消費者側の盛り上がりにいま一つ欠けるのだとすれば、その背景には、プラズマ乳酸菌に次ぐ第2、第3の機能性関与成分が一向に現れないことから、競争も起こらないことがある。

 そこで注目したいのは、現在、日本抗加齢協会が進めている取り組みだ。アカデミアを巻き込みながら免疫領域の機能性表示食品に必要なエビデンスに関する「考え方」について議論、検討を進めている。この日のシンポの中で同協会関係者が紹介した。

 論点は何か。たとえば、その機能性関与成分が免疫指標に及ぼす影響が、クリニカルアウトカムにどのように繋がっているかといった、摂取から機能発現までの言わば「ストーリー」が一つ。

 また、その機能性関与成分が動かすのは自然免疫だけでいいのか、あるいは獲得免疫も多少なりとも関わっているべきなのかどうかといった作用メカニズムを巡る論点もある。

 他にも、免疫指標に及ぼす働きとクリニカルアウトカムは同一の臨床試験で確認されているべきなのか、別々の試験で確認されたとしても合理的な説明ができればいいのかといった試験プロトコルに関わる論点などを巡り、オブザーバーとして消費者庁幹部が参加しながら、議論を進めているという。

 「議論はかなり煮詰まってきた」と日本抗加齢協会の別の関係者は話す。あくまでも「考え方」をまとめるのであって、機能性表示食品の届出ガイドラインのように事細かに指し示すものではないというが、ある種の「指針」として事業者に活用してもらえるようにする目的だ。

 「考え方」は近く、公開される見通し。これが契機となって届出および届出公開がブーストされるのかどうか。今月以降の動きが注目だ。

【写真=免疫機能を巡るヘルスクレームを届け出た機能性表示食品は少なくないが、機能性関与成分は今のところプラズマ乳酸菌のみ。写真は消費者庁の届出データベース】




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