オートファジー研究成果 社会実装に向け数歩前進(2021.7.29)

コンソーシアム合体②

 コンソーシアムが初のシンポ 吉森代表理事 「健康長寿に役立たせる」
 細胞のオートファジー機能をめぐる研究成果、その産業利用の拡大・発展を目指す一般社団法人日本オートファジーコンソーシアム(吉森保代表理事=大阪大学栄誉教授)は7月14日、同コンソーシアムとして初のシンポジウムを会場とオンラインのハイブリッド形式で開催した。健康寿命延伸につながる可能性が指摘されているオートファジーをめぐっては、「今後の機能性食品市場のキーワードになり得る」(原材料事業者)との見方がある。シンポの参加者は、主催者によると、会場が約50名、オンラインが約220名の計270名に上った。

大隅氏「海外に遅れ」
 シンポの冒頭では、オートファジーの仕組みを解明した功績で2016年、ノーベル生理医学賞を受賞した大隅良典・東京工業大学栄誉教授がリモートで開会挨拶を行った。オートファジー研究は基礎研究領域を中心に日本人研究者が世界をけん引している一方で、その実用化や産業化など「応用」をめぐるスピードでは現状、海外の後塵を拝していることに危機感を示した。
 大隅氏は、同コンソーシアムの最高顧問を務めている。

 基調講演は、代表理事の吉森氏が務めた。講演テーマは、オートファジー研究成果の「産業活用の可能性」。研究成果を創薬の実現につなげたり、サプリメントや機能性食品などの産業に応用したりなどを通じて発展させることで、人々の健康寿命延伸に役立たせていくことに意欲を示した。
 吉森氏は講演の中で、日本オートファジーコンソーシアムの立ち上げについて、「日本人研究者が世界をリードしてきたオートファジーに関する基礎研究の成果が、いよいよ社会実装される第1歩になる。また、一般市民にもオートファジーを理解してもらうとともに、世界の人びとの健康長寿に役立つための大きな一歩にもなる」と述べた。

 オートファジーとは、細胞の恒常性を保つために細胞の中で起こる現象を指す。日本語では「自食作用」と呼ばれる。細胞の新陳代謝を行ったり、細胞内の有害物質を除去したりする役割のあることがわかっている。オートファジーを活性化することで、老化の抑制や疾病の予防につながる可能性があると考えられている。

 同コンソーシアムは、経済産業省を後援にして今回のシンポを開催した。同省産業技術環境局基準認証戦略室の担当官による、「ルールメイキングと市場形成」と題した講演も行われた。オートファジー研究成果を産業化につなげ、そして、市場形成していくための要諦の一つとして、標準化(規格化)を背景にした「ルールメイキング」の必要性を説いた。

 この日のシンポの会場開催は、同コンソーシアム会員企業でもあるUHA味覚糖のUHAホール(大阪)が使用された。

 シンポ終了後、関係者からは、細胞試験でスペルミジン(ポリアミンの一種)など複数の食品中成分に確認されているオートファジー活性化機能を、ヒトでどう実証するかを課題視する意見も聞かれた。

 ただ、吉森氏は健康産業流通新聞の取材に「確かに簡単ではないが、簡便な検査方法の開発を進めている」と述べた。また、「ヒトに対する(有効性に関する)データを集めるのはこれからだが、(オートファジー活性化機能を背景にした)機能性表示食品の可能性は十分ある」と語った。

【開会挨拶をリモートで行ったノーベル生理医学賞受賞者の大隅良典・東工大栄誉教授(写真上)。写真下は、オートファジー研究成果の社会実装をアカデミアの立場からけん引する、コンソーシアム代表理事の吉森保・大阪大学栄誉教授】



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