日本の〝知〟 産業化めざす オートファジーゴー(2021.8.12)

事業戦略インタビュー_ 写真1① 事業戦略インタビュー_写真2①

オートファジーゴー 石堂美和子 代表取締役社長
 オートファジー──サプリメント産業の今後を考える上で外せないキーワードの1つだ。細胞の恒常性を保つ働きを細胞内で展開するオートファジーを活性化させることで、老化の抑制や疾病の予防、すなわち、健康寿命の延伸につながる可能性がある。オートファジー研究は、ノーベル医学生理学賞を受賞した大隅良典博士ら日本の研究者が世界をけん引。その成果を高度に社会実装し、世界の人びとの健康長寿に貢献する目的で設立されたのが大阪大学発ベンチャー企業のオートファジーゴー(大阪府吹田市、以下APGО)だ。研究成果をヘルスケア産業に落とし込むために同社はどのような役割を果たすのか。理学博士号を持つ石堂美和子代表取締役社長に聞いた。

──APGОの来歴について。

 「設立は2019年6月です。ただ、研究室を設け、社員も迎え、本格的な活動が始まったのは昨年4月ですから、まだ1年と少しです。研究室は大阪大学吹田キャンパス内。大学との共同研究を行える形になっています」

──APGОの設立を計画したのは阪大の吉森保先生(細胞生物学を専門とする生命科学者。大隅氏らとともにオートファジー研究に黎明期から携わる。APGОの技術顧問)のようですね。

 「その通りです。私自身が大学院生時代にオートファジーに近い分野で研究していて、学生として吉森先生にとてもお世話になった。大隅先生もそうです。大隅先生らはオートファジーに関する研究論文を1990年代に次々と発表していきました。私はそれをはたから見ていた。鳥肌が立つようなすごい研究でした。

 ただ、研究成果を産業に活用する動きが日本ではほとんど出てこなかった。そんな中で、吉森先生がベンチャーを立ち上げたがっているというお話を耳にしたのが、私がAPGОに関わるようになったきっかけです。私自身は製薬業界で長年働いてきたのですが、オートファジーの重要性と社会的意義を理解していましたから、外資系製薬企業の待遇を捨てて、吉森先生のもとに馳せ参じたということです(笑)」

──吉森先生も石堂さんも、オートファジー研究成果の社会実装が進まない日本の現状に相当強い危機感を持たれたということですね。そして実際にベンチャーを立ち上げた。APGОの事業についてうかがいます。

 「オートファジーを活性化することで健康長寿を実現できる可能性があると考えています。ただ、オートファジーは測定が容易ではありません。オートファジーを活性化すると言うためには、エビデンスに基づいた正しい測定を行う必要がありますよね。APGОの最大の強みはそれができることです。

 水島先生(水島昇・東京大学教授。大隅氏、吉森氏と並ぶオートファジー研究の第一人者)、吉森先生が開発してきた測定方法を、産業界向けにそのまま導入しているためです。オートファジーの測定に関する研究も日本が圧倒的に先行しています。

 ですから、私たちは、ある成分がオートファジーを活性化させるかどうかの測定データを、世界一のクオリティで提供できる。それがAPGОの事業です。オートファジーは世界に通用するはずですから、私たちの測定方法を標準化させ、世界に広げていきたい。そうすることで関連商品が海外に打って出るときのサポートにもつながる。オートファジーを正しく測定するためのプラットフォームとしての機能をAPGОが担い、オートファジーの産業活用を推進していく役割を果たしていきたいと考えています」

──足もとの取り組みを聞かせ下さい。

 「サプリメントや化粧品を中心に7社と共同研究を進めています。近く、10社に増える見通しです。共同研究の成果が形になっているものもあって、1つは味覚糖さんが昨年発売したサプリメント『オートファジー習慣』。今年6月には協和さんからもサプリメント(オートファジー活性化機能をAPGОで確認したウロリチンを配合したもの)が発売されました。共同研究成果としてのサプリメントの発売が今後しばらく続きそうです。ヒトのオートファジーを測定するのも簡単ではないため、まだ時間はかかると思いますが、機能性表示食品も必ず出てくると思います」

──企業との共同研究が事業の軸になりそうです。

 「そうですね。共同研究や開発件数をもっと増やし、そこで上げた収益を基礎・臨床研究に循環させていく形をつくりたいと考えています。一方、収益を高めるために、自社開発にも取り組みます。私たちでスクリーニングし、オートファジー活性化素材を開発する取り組みを進めています。上手くいけば、特許を取得した上で各クライアントに提案していきたい。多くの企業に活用してもらいながら、利益を得ていくようなビジネスモデルも検討しているところです。創薬に向けた研究もスタートさせています」

──APGОの将来像をどう見ていますか。

 「日本には最新のサイエンスがある。ノーベル賞受賞者も多い。つまり、ゲームチェンジャーとなれる〝種〟をたくさん持っているということです。ですが、それを産業化したり、ビジネスにつなげたりという発想があまりない。だからいつも海外に先を越されてしまう。私たちはそこに大きな危機感を抱いていて、オートファジーでそこを変えたいと考えています。

 オートファジーでもそれができないのだとすれば、他にできるものはもうないとさえ思っています。オートファジーにはそれだけのポテンシャルがあるということ。オートファジーを巡る日本の〝知〟を産業化し、多くのお金を生みだし、それを基礎研究に回していく循環をつくっていきたい。そのためにも大金を儲けたいと本気で思っています(笑)」

【写真=左:オートファジーゴー 石堂美和子 代表取締役社長 右:APGO社ホームページのトップ画面。「健康長寿への貢献」を起業理念に掲げた。そのために、オートファジー研究成果を産業化させる必要がある】

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