21年度上半期 届出の動き コロナどこ吹く風 (2021.10.7)

届出合体① 1面

各社積極対応で500件超に 
 4月に始まった2021年度の上半期が先月末で終わった。前年から続く新型コロナウイルス禍の中、免疫機能に及ぼす働きを訴求できるようにもなった機能性表示食品に対し、行政、業界、事業者はどう取り組んだのか。今後を展望する目的も含め、機能性表示食品を巡る21年度上半期の動きを振り返る。

脂肪・睡眠・ストレスけん引
 513件──21年度が始まった今年4月1日から9月末まで上半期における機能性表示食品の届出公開総数はこうなった。前の年度の9月末時点の届出総数と比較すると約140件も上回っている。

 新型コロナ感染拡大とほぼ同時に始まった前の年度は、最終的に1067件に上る届出が公開。年度別届出公開件数の過去最高記録を更新した。緊急事態宣言の発令を受け、企業は事業活動の停滞を余儀なくされた時期もあった中で、機能性表示食品の届出件数は減るどころか逆に増える結果となった。

 新年度を迎えても新型コロナ感染拡大は収束せず。その中でも、前年度から続く企業の機能性表示食品の届出意欲、販売意欲は高まりこそすれ全く下がっていないことを、500件を超えた今年度上半期の届出公開総数は如実に物語る。

 21年度下半期も上半期と同等のペースで届出、公開が進めば、最終的に前年度の数字を上回ってくる可能性がある。特に、新型コロナ禍で消費者・生活者のニーズが高まった機能性領域を巡る届出が下半期も増加していきそうだ。

 128件──21年度上半期に公開された届出のうち、ヘルスクレームに「脂肪」の文言を含む届出の総数だ。全体の25%を占める。

 「脂肪」に対する働きを訴求する機能性表示食品の届出は新型コロナ禍が始まった前年度に急増した。前々年度(19年度)の届出総数は約230件(18年度は約170件)だったが、前年度は330件と2年前比でおよそ2倍に増加。上半期のみで166件が届け出され、その勢いが下半期にさらに加速する形で最終的に300件を超えた。そうした勢いが今年度上半期も続いている格好だ。

 また、「睡眠」や「ストレス」に対する働きを訴求する機能性表示食品の届出も大きく増えている。

 届け出されたヘルスクレームに「睡眠」を含む21年度上半期の届出総数は64件。前年度は上・下半期合わせ71件(前々年度63件)であり、上半期のみで前年度と同等の数が届け出された。「ストレス」は60件。前の年度は上・下半期合わせ78件(前々年度68件)で、やはり前年度を上回るペースで届出が積み上がっている。
 一方で、21年度上半期に増加した届出は他にもある。

 72件──これは21年度上半期に届出者が行った「撤回届」の総数である。新たな届出が公開される毎回の届出データベース情報更新の裏側では、何らかの理由で撤回、取り下げられる届出が積み上がっている。

 特に9月に撤回された届出が多かった。単月で全体の過半数を占める37件に上る届出が取り下げられることになった。

 機能性表示食品の届出撤回には、どうしてもネガティブなイメージが強くつきまとう。確かに、表示する機能性に関する科学的根拠の不具合が撤回の直接的原因になる場合がある。ただ、そればかりではない。体重減少サポートなどを訴求するサプリメントの届出を9月15日付で取り下げたグレーシャスは撤回理由をこう説明している。

 「当社親会社である株式会社アイケイと吸収合併することとなり、株式会社アイケイが『プロシア8』の届出を新規提出致しております。2021年8月末日をもって、当社が表示責任をもつ市場流通する商品の賞味期限が切れたため、撤回届を提出いたします」

 このように、届出を撤回しなければならない事情は様々だ。
 しかし、撤回届の増加傾向は見過ごせない。前の年度は実に156件にも上る届出が撤回されているからだ。

 前年度は撤回届の総数においても過去最高を記録。21年度下半期も上半期のペースで撤回が進めば、21年度は届出のみならず撤回の数でも前年度を超えてくる可能性がある。

 撤回届が増えているのはなぜか。容易に想像できるのは、いわゆる事後チェック指針の影響だろう。業界団体の意見も聞きながら消費者庁が取りまとめたもので、運用開始は前の年度が始まるのと同時の2020年4月1日である。

 事後チェック指針は、機能性表示食品を巡る「事後的規制の透明性を確保し、不適切な表示に対する事業者の予見可能性を高める」ことなどを目的にしたもの。業界、事業者、届出者の自主規制を促す強い狙いがあるが、消費者庁としても、指針に基づき届出を遡る形で事後チェックしているとみられる。

 事後チェック指針の運用が始まった前年度から撤回届が増加し始め、それが21年度上半期も続いていることは、決して偶然ではないだろう。

一方で不在 新規性高い届出
 0件──本稿ではここまで威勢のいい数字を並べてきたが、全く振るわなかった届出もある。
 「健康な人の免疫機能の維持に役立つ」などといった免疫機能に及ぼす働きを訴求できるプラズマ乳酸菌「以外」の機能性関与成分に関する届出だ。結局、21年度上半期のうちに新たな機能性関与成分が「受理」されることがないまま、昨夏の初登場から1年以上が経過してしまった。

 業界内においては「免疫」の代名詞にもなっているプラズマ乳酸菌の届出自体は増えている。21年度上半期には新たに10件の届出が追加。キリンホールディングスが届出サポートを伴う外販(原材料販売)を進めていることもあり、森永製菓から4件の届出が行われた。

 だが、新規の機能性関与成分が一向に出てこない。「競合成分が出てくるのは正直、怖い。ただ、1成分だけでは免疫の市場を大きく広げることが難しいのも事実」。プラズマ乳酸菌の関係筋からもそのような声が聞こえてくる。

 こうした状況の打開を図ったといえるのが、9月1日までに公表された「免疫関係の機能性表示食品の科学的根拠に関する考え方」である。日本抗加齢協会が立ち上げた、免疫に関する識者で構成する検討会で議論し、取りまとめたもの。オブザーバーとして消費者庁食品表示企画課幹部も参加した。

 この「考え方」が提示されたことがきっかけとなり、21年度下半期、免疫機能を巡る新たな機能性関与成分が登場するといい。一方で、届出公開に至らない機能性関与成分やヘルスクレームは他にも多数あるのではないか。というのも、21年度上半期は新規性の高い届出の公開が非常に少なかった。

 前の年度は前掲の「健康な人の免疫機能の維持に役立つ」を始め「加齢とともに低下する血管の柔軟性維持に役立つ」(機能性関与成分=プロシアニジンB1及びB3、届出者=東洋新薬)▽「膣内環境を良好にし、膣内の調子を整える」(同=乳酸菌GR‐1および同RC‐14、同=雄飛堂)──などといった業界を驚かせるヘルスクレームが公開されていた。しかし21年度上半期は結局、そうした届出を見られずじまいとなった。

 機能性関与成分については新たなものがチラホラと出ている。だが、ヘルスクレームは既存である場合が大半だ。こうした状況を見て業界関係者からは、「届出件数ばかりが増えている」と冷めた声も上がる。

 もっとも、今のところ届出公開には至っていないだけで、従来なかった新規性の高い機能性表示食品の届出実現に向けた取り組みが水面下ではいくらでも進んでいる。

 国の許可が必要な特別用途食品の分野では、病者用食品(個別評価型)として、「本品は褥瘡を有する方の食事療法として使用できる食品です」との表示がコラーゲンペプチドなどを関与成分とする形で許可され、業界を驚かせた。

 これと同等、あるいはそれ以上の驚きを与える機能性表示食品の届出が公開されるかどうか。そこが21年度下半期の焦点の一つとなる。

アフター・コロナにどう対応
 2039件──あくまでも届出データベース上の情報に基づくが、消費者・生活者に向けて現在販売されている機能性表示食品の21年度上半期時点の点数である。2015年4月の制度施行以来の届出総数4500件超に対して半数以下にとどまる形だ。

 原材料事業者や受託製造業などBtoB事業者が届出サポートを目的に届け出ている場合も少なくないため、4500件以上の届出がある割には販売中商品が少ない、とは一概には言えない。だが、機能性表示食品の市場規模を実質的に拡大させていくためには、届出件数とともに発売件数を増やしていく必要がある。

 事業者が捉える機能性表示食品の仕組み的な課題として、届出が公開される時期を見通しづらいため、発売・販売計画を立てづらいことがある。そのため、届出が公開されても発売時期は未定のままとされる場合も少なくない。ただ、そんな課題の解消にもつながる取り組みを消費者庁が8月から始めた。

 届出資料の提出から公開あるいは差し戻しまでの期間を20日間短縮する仕組みを導入したのだ。従来は「50日を超えない期間」。それを「30日を超えない期間」にした。ただし前提条件がある。

 条件とは、届出ガイドラインに則した「事前確認」を適切に実施できる体制が構築されていることを消費者庁が確認した「団体」による事前確認の上で届け出されたもの──。団体とは、現時点では日本抗加齢協会と日本健康・栄養食品協会の2団体。「30日以内縛り」が適用されるのは、それら団体の事前確認を経た届出に限られる。

 民間組織が手掛けるだけに事前確認は無論、無料ではない。コストとメリットのバランスが適切だと捉えた事業者は依頼するだろうし、適切とは思えない場合は従来通りの50日以内を受け入れることになる。機能性関与成分の分析コストなども上昇傾向にある中では、コストの方が重いと捉える事業者は少なくないと思われる。

 いずれにせよ、消費者庁は21年度上半期から届出確認の更なる効率化に取り組み始めた。その成果が下半期から目に見える形で表れてくるかどうか。

 アフター・コロナが少しずつ深まっていきそうな21年度下半期。業界が消費者・生活者に提供する商材は何も機能性表示食品だけではないが、新型コロナが人々の「健康感」に与えた変化に機能性表示食品がどうキャッチアップしていけるか──そこも下半期における届出動向の見どころのひとつとなる。

【写真=21年度上半期の大きな動き。写真上、届出確認の効率化推進を伝える消費者庁食品表示企画課長通知。写真下、アカデミアによる検討を踏まえ、日本抗加齢協会が取りまとめた免疫機能を巡る「考え方」】



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